(最後に、私たちに賢明なアドバイスを残してくれますか、と問われて)
(55:37-) (ちょうど友達に)歳を取ることについて話していたんだ、僕は歳を取ってきているし、するといろいろあるんだよ、医者に行って検査を受けないといけないし、ほんとむかつくね、歳を取るのは本当に嫌なものだ、歳を取るともっと賢くなると思っていたんだが、その友達には、自分は子供の頃より賢くなったような感じが全くしない、と言ったんだ。それこそが(ここで伝えれられる)知恵のひとつかもしれない。
そこにはちょっとした真実があると思う。自分が賢くなってきているかどうかなんて本当にわからないんだ、自分がどうかなんて…だから「賢明なアドバイス」を残すのは難しい、自分が言っていることに何か意味があるかどうか自信が持てないのだから。伝えるべき価値がある言葉かどうか…誰かが従うべきアドバイスなのか…
どんな方向性で音楽をやるにしても、唯一やるべきことは、自分がやろうとしていることについて本当に正直(true)であることだ、それは時には簡単にはわからない、だから様々なことを試してみるのは良いことだ、自分には演奏できないと思える音楽や、好きでない音楽でさえやってみるんだ、でも自分の方向性と思えるもの、本当に好きなものに対して集中して、可能な限りそれに対して正直であろうとすれば、プレイヤーとしては最終的にいちばん報われると思う、そうすると、「自分自身」を演奏しているような気持ちになる、それを大事にしたいと思うようになる、それは自分自身の表現でないといけないし、そうなっていないなら自分で気付く、フィーリングがおかしかったらサウンドもおかしくなる、それに、聴衆だってそれに気付くんだ、聴きにきたお客さんも、
「んー、いい演奏だね、でも彼はまるで…(誰かみたいな…)」
そんなものよりも他のものを演奏したほうがいい。
自分がいちばん好きなものの中心を頑張って探すということさ。自分自身の中でいちばん響いているもの (“what resonates in you the most”) は何かを。木の幹を持つ、みたいなことだ。自分がやっていることの根っこ、自分の心を動かすもの、君をいちばんインスパイアするもの、いちばん良い気持ちにさせてくれるものを探すんだ、それ以外は全部枝葉みたいなもので、自分にとっての幹線道路ではない、自分のメイン・ロードを探さないといけない、でもそれは何なのか決してわからないかもしれない、それは直観(instinct)ととても関係のあることで、音楽とはそういうものなんだけど、それは教えたり話したりすることはできないんだ、直観のフィーリングだ、それはスケールとか本とかそういうものとは全く関係がない、それは(自分の胸を指差して)ここと関係があるものなんだ、直観だけ、演奏に使うのはそれだけだよ。
– John Abercrombie, July 19th, 2014