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近現代音楽に学ぶ (5):バルトーク・ベーラ

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ハンガリーで生まれアメリカ・ニューヨークで没した作曲家バルトーク・ベーラ (Bartók Béla Viktor János,1881-1945) について書いてみたいと思います。リゲティ・ジェルジュ同様、ハンガリー圏の人なので「バルトーク」が名字です。私はこの人の音楽が好きでたまらないのですが、どうもジャズ・ミュージシャンにバルトーク好きは少なくないようです。

近現代音楽に学ぶ (5):バルトーク・ベーラ

ヴィック・ジュリスの本にバルトークの言葉が登場していたり、マイルス・オカザキの自室の棚にはバルトークの伝記のようなものが置いてありました。バルトークに影響を受けたというジャズ・ギタリストは知らないのですが、実際いるのではないでしょうか。バルトークの音楽は現代ジャズと親和性が高いような気がしています。

私が最初に聴いたバルトークの曲は「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」で、中学生の頃だったと思います。学校の音楽の授業で習うようなクラシック音楽とは全く違う異様なサウンドデザインにノックアウト。お小遣いでこの曲のスコア譜を買いに行ったほどです。

バルトークの音楽世界を理解するキーワードをいくつか挙げるなら「ハンガリー民謡・自然界における数の秩序・中心軸システム」が主だったところかなと思います。それを順番に見ていこうと思います。

ハンガリー民謡

バルトークは母国ハンガリーやトランシルヴァニア地方の民謡を採集・研究していたらしく、民謡をアレンジした曲も書いています。彼の器楽曲でも大きいメロディにはハンガリー民謡の影響を感じます。ちょうどブルースがジャズの源流の一つになったこととすごく似ていて興味深いです。

自然界における数の秩序

今では否定されているらしいのですが、バルトークは黄金分割やフィボナッチ数を作曲に取り入れていたという説があります。バルトーク本人は自分の音楽言語や作曲手法について語ったことはなく、フィボナッチ数についてのメモ等も遺品には見当たらなかったそうですが、レンドヴァイ・エルネーの研究書を読んでいると、とても偶然とは思えないようなフィボナッチ数が隠れています。どれだけ意識的だったかはともかく、バルトークが作曲に何らかの数的秩序(音の積み方から曲のサイズまで)を導入していたのは間違いないように思えます。

レンドヴァイ・エルネーの「バルトークの作曲技法」には次のように書かれています。

バルトークはかつて”作曲は自然に規範をあおぐものだ”と述べた。バルトークが実際にこういった規則性を見出したのは、自然の現象の中からであった。彼は絶えず植物や昆虫、鉱物の標本を蒐め、コレクションを増やしていた。また好きな植物はひまわりであるとも言っていたし、机の上に松かさを置いて見るのを心から楽しんでいたのである。バルトークによれば”民謡もまた1つの自然の現象であり、その構成は花や動物等の生きた有機体と同じように、自然に発展したもの(論文”民謡の源泉について”、1925年)とされるのである。これが、バルトークの音楽の形式世界が最も直接的に自然の形態や生成を思い起こさせる原因なのである。

「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」にもフィボナッチ数的なものが隠れていますが、下の「アレグロ・バルバロ」でF#mを連打する小節の数に3:5:8:13という比例関係が見られる、とレンドヴァイが書いています。確かに13小節にわたるこのF#m(1:04〜)、なんでこんな半端な数なんだよ(笑)と思ってしまいます。

真相は不明ですが、自然観察からこういう音楽が生まれだのだろう、という説は説得力があります。ピエール・ブーレーズのトータル・セリエリズムの音楽を聴いていると無機的な建築を思い浮かべるのですが、バルトークの音楽はこんな感じ(↓)の有機的形態をイメージしてしまいます。建築で言うとガウディも似たようなことをやっていたのではないでしょうか。

近現代音楽に学ぶ (5):バルトーク・ベーラ

中心軸システム

最後にハーモニー面。現代音楽は「より自由になる」ために12音技法を導入したりして無調の方向に向かいましたが、バルトークはトーナリティーを信奉していたそうです。音楽には調性がある(べき)という考え。しかし面白いのが、それまでの西洋音楽の機能和声理論とはどうもかなり違う、独自の調性理論を持っていたらしいところです。

それは「中心軸システム」と呼ばれていて、例えばC, Eb, Gb, Aの各音をルートとするコードがトニックの機能を持つとしたら、E, G, Bb, Dbの各音をルートとするコードはドミナント。D, F, Ab, Bの各音をルートとするコードはサブドミナント、という世界。1オクターブを4等分した音を軸にしています。3つの東西南北から成る世界。

これ、見た目はディミニッシュですが、ディミニッシュコードとはあまり関係ないようです。それでもコルトレーンのGiant Stepsが1オクターブを3等分することで複数のトーナル・センターを持っているように、バルトークの中心軸システムにもシンメトリーがありマルチトニックみたいなことになっています。

調性音楽なのに中心がよくわからない幻惑的なハーモニーはこの作曲法に由来しているのかもしれません。私は詳しく研究していないのですが、「中心軸システム」を応用して何かやってみるのはちょっと面白そうな気がしています。

バルトークの作曲技法  エルネ・レンドヴァイ 著/谷本一之 訳
エルネ レンドヴァイ
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