例えばFΔ7というコードネームがあるとして、その上では文字通り無数のコードを弾くことができる(理論上)。そこでどれだけ多くのコードを弾くことができるか。これは画家で言えば、どれだけ多くの色を操れるか、手持ちのパレットにはどれだけの色が載っているか、ということだと思います。
基本的なコード・ボイシングは存在します。4 way close, トライアドの基本的な転回, Drop2, Drop3, Drop 2&4, Spread, 4th build, クラスター。どれもじっくり仕組みを考えて、根気良く取り組めば、体系的に、秩序立てて征服することは不可能ではないのでしょう。教則本もたくさんあります。習いに行けば先生も教えてくれると思います。
ではものすごいプロのギタリストたちがそのようにしてコード・ボイシングを習得していったかというと、どうもそうでもないっぽい。これが面白いなと思ったのでした。
例えばカート・ローゼンウィンケルはいま、あるシステムでそれ全部弾けと言われたらスラスラと弾けるのは当然だと思うのですが、体系的にお行儀良くそれらのコードを勉強していったのではないそうです(何かで読んだか、動画で見たと思います)。気がつくと色々なコードを手中に収めていた、という感じらしいです。
ヴィック・ジュリスもそういうことを言っていました。どんなふうにDrop2とか覚えたのですか、とよく聞かれるらしいのですが、最初は基本的ないくつかのコードを知っていて、それを自分なりに改造しているうちに様々なボイシングを覚えた、とのこと。例えばルートを全音上げれば9th入りのボイシングになるとか、本当に真っ当な自然進化。
さらに面白いのはジュリアン・ラージ。あるクリニックの動画で、驚くべきことを言っていました。何かトップノートがあるとします。メロディの。その時のコードのルートを押さえます。すると、そのルートとトップノートのあいだに、様々なスケールトーンが見える。
それを適当に押さえてみるんだよ、と。何でもいいからいろいろ押さえてみる。3度と7度が大事とかそういうのは考えない。いろんな可能性があるけど、それら全てのコードネームなんかいちいち記憶してられない。
まじですかー。この発想はびっくりしました。ボイシングを習得する場合、前後の繋がりが大事になってきます。あるボイシングがうまくサウンドするかどうかはボイス・リーディングがうまくいっているかどうかにかかっている、とベン・モンダーは言っていましたが、本当にそうだと思います。
でもジュリアン・ラージはそういうことを、とりあえず考えずに やったことがあるらしい。もう野蛮人みたいに、トップノートとルートのあいだに存在する、自分が設定したスケールの音を選んで埋めてみる。勿論彼くらいの天才だと何を弾いてもきれいに前後のつながりも確保できるのでしょう。
私は超凡人なので、たぶんお行儀よく学ぶほうですが、こういう「何か、適当にやってみる」的な習得方法は大事だなあ、とも思ったのでした。とにかく色々試してみる。ギターはよく、コードを弾くにあたっては不完全な楽器だと言われるけれど、逆に言えばそこには正解がない、自分が納得したものだけが正解になる、ということでしょうか。
あの天才ジュリアン・ラージも、むかしむかし1個のコードに対して1つのボイシングしか知らなかったそうです。何か勇気付けられる話ですよね。
Modern Chords: Advanced Harmony for Guitar – Includes Online Audio (Mel Bays Private Lessons)
Mel Bay Publications, Inc.