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Julian Lage Trio at Cotton Club

2017年2月初旬、コットンクラブでジュリアン・ラージ・トリオのライブを観ました。これは 万難を排して目撃しておくべきステージ だったと思います。すごいものを観ました。行けて良かった!

ベースはJorge Roeder、ドラムはEric Doob。最新作 “Arclight” からのナンバー、数週間前に録音を終えたばかりという新作からのナンバー等をたっぷり演奏してくれました。

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Julian Lage Trio at Cotton Club

機材はギターがFender Telecaster、アンプがDeluxe Reverb。足元はPolytune, Tube Dreamer+strymon Flint。ジュリアンはアンプのリバーブを使うのがいまはあまり好きでないみたいで、Flintはトレモロでなくリバーブのために使っているようです。ある意味、直結に近い漢らしいセッティング。演奏中は全く操作することもなくかけ放し。

音量は予想よりも小さめでしたがその分ダイナミクスがよく伝わる演奏でした。後半に進むにつれ熱くなっていったので、マージンを取っているのかなと思いました。クランチがかったテレキャスの音色、素晴らしいのですが、楽器というより指による音色のコントロールが本当にすごい。

同時に押弦している音が全部、音色が違う。太い音、テレキャスらしいトレブリーな音が混在。いったいどうなっているんだと思いました。4本の各指が音色レベルまで制御されているかのような印象。そんな繊細なコントロールができているのに、ダイナミックすぎる演奏。俺は何を見ているんだ…

そしてクオンタイズ不可能に思えるほどの自由すぎる譜割り。8分、3連、16分、5連符、6連符…加速したければ加速し、昇りたい時に昇って下りたい時に下る。指板はどんな障壁もないフリーダムすぎる世界。あとこのメロディは何だろう。ビバップ的なフレーズなんか一瞬たりとも出てこない(笑)。

超絶技巧という言葉さえ意味をなさないほどの自由さ。普通の人間がギターを使ってメロディを弾くとしたら、ジュリアンは自分自身がメロディそのもの。メロディ生物。と同時に、本当にギターらしい表現でもあり、最高のメロディであると同時に最高のギター・ミュージックでもありました。

ジョー・パスがバーチュオーゾだとしたら、ジュリアン・ラージは魔法使いという感じでしょうか。これが同じ人間なのかと。しかし、そんなジュリアンも昔はコード1つにつきボイシング1つしか知らなかった、みたいな時期があったらしい。絶対音感もないから作曲する時はよく音高を間違える、とか。人の子なんです。本当か(笑)。

指板は全くと言っていいほど見ない。楽器のサイズ、指板のエリアを身体で正確に感受しているんだと思います。特筆すべきは「身体の大きな動き」。アップピッキング時の腕の大きいモーションや、コードをかき鳴らす時の、膝を折って前に身体を投げ出すようなダイナミックな動き。あれは彼の演奏を理解するヒントになると思いました。

先日この記事でも触れたのですが、ジュリアンは一時フォーカル・ジストニアに陥ったらしい。その遠因の一つが、幼少期からギターを弾きはじめたため意識の中でギターという楽器が非常に大きいものであり続けてしまったこと。

ジュリアンは他の場所でも、「ギターのサイズを小さく感じ取る練習方法」を紹介しています。ギターを持ったまま左手をヘッドの向こう側に伸ばして、手前に戻す運動とか。そういう大きい動きで、ギターと自分の関係を調整した。そのことが、今回の演奏でもよくわかりました。アレクサンダー・テクニークとも関係がありそう。

ロック・ギタリストが開脚ジャンプしたりギターを振り回すことがあるけれど、ジュリアンの大きい動きは少し意味が違うのかもしれません。しかし元気に、ダイナミックに動きます。見ていて気持ち良いです。あれは感情の発露というより、「ギターとの適切な接触感」をキープするために彼の中で必要な動作なのだろうと思いました。

ホルヘとエリックも “Arclight” のメンバーでなかったのでどうなんだろうと思っていましたが、すごく良かった。ちなみに、ジャズかどうかと聞かれたら、ジャズではないんだろうけどジャズを通過していないとできない音楽なのでしょう。”Arclight” というアルバムはとても面白くて、ビバップ以前のアメリカ音楽のカバーなんですね。

ジャズ以前の音楽を、ジャズをくぐり抜けてきた男たちが演奏する。ジュリアン・ラージ、29歳。これから先、何処に行く。「ライブの後、後ろで飲んでるからギターの話をしに来てよ…!」。すごくいい青年でした。間違いなく世界最高のギタリストの一人でありましょう。ジュリアン、素晴らしいギター音楽をありがとう!

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