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スタンダード分析・第3回:Wave (Vou Te Contar)

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久々にアナリーゼの記事を書いてみたいと思います。第3回の今回も、前回と同じアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲を観察してみます。

曲は「ウェーブ」。波。英語で “Wave”。ポルトガル語で “Vou Te Contar” (君に告げよう、の意)。この曲、ジョビンは作詞も手がけています。ポルトガル語・英語ともにジョビン作。1967年にインスト曲として初録音されましたが、同年中にジョビンが詞を書き、2年後の1969年にフランク・シナトラが英詞で録音。ジャム・セッションでもコール頻度が高い曲です。

まず聴いてみます。シナトラはEbで歌っているようです。最高ですね。ジョビンの曲はどれも美しいけれど、この曲は作曲技法的にかなり巧妙な仕掛けがあるのに、ほとんどエレベーターミュージック的に世界中で愛されているのがまた素晴らしい。本当にいい曲。天国。

歌詞の大まかな内容は、恐らく男性が女性に向かって、「大切なのは愛なんだ、海や月や星の動きに抗わず、怖がらずに俺を愛するんだベイベー」的なもの。葡語詞英詞とで少し内容が違いますが、大きい方向性は同じ。

ではコード進行を見てみます。この曲の難しいところはAセクションなのでまずそこだけ切り取ってみます。一見するとややこしいですが、テンションを外して眺めてみると見通しがよくなると思います。最初に書いておくと、この部分は12小節のブルースと同じサイズで、大まかなコード進行もすごくよく似ています(参考:ジャズ・ブルースのコード進行)。

Wave : Section A

順に見ていくと、2小節目のBbdim。これはKey in GのbIIIdimと考えて良いと思います。5小節目のGMaj7に着地するためにAm7-D7(b9)という2-5進行が用意され、その直前にbIIIdimを設置。定番の進行ですが、このディミニッシュは何かのドミナントコードの代理ではないので要注意(故にオルタードとか合わない…と思う)。

で、GMaj7に転調…とも言えるのですが、このGMaj7はKey in DのIVMaj7でもある。ここでお馴染みのIVMaj-IVmのパラレルマイナー進行が登場(黒本ではこのGm6をC7としていますが、C7=bVII7はIVmと置換可能なサブドミナント・マイナーで同じ機能)。

次のF#7-B7-E7-Bb7-A7の部分がよくわからないという人が多いようです。ここでブルースを思い出してみます。ブルースでは7小節目にI7, 8小節目にVI7がよく使われます。

つまりブルースの場合は7小節目からI7-VI7-IIm7-V7となりますが、この曲はIII7-VI7-II7-(bVI7)-V7になっています。トニック代理のIIIm7をドミナントセブンスに変更し、III7にします。これによりVI7に強力に移行。さらに着地先のIIm7もドミナント化してV7へ強めに移行。Bb7はE7の裏コードとして挿入。全部ドミナントセブンス化してブルージーな味付けにしているとも言えるでしょう。つまり元のかたちは3625(サンロクニーゴー)。

この後の2小節に、1625や3625のターンアラウンドがやってくれば、もう完全にブルースです。しかし次に来ているのはDm7-G7。入門者の方はこれを見て「Key in Cの2-5?」と悩むかもしれませんが、試しにG7でオルタードフレーズを弾いてみると、全然合いません。つまりこれはCに向かうツー・ファイブではないことがわかります。

このDm7を、DMaj7の代わりに使われたコードと考えてみます。同じ音から開始する短調に転調した、と捉えます(同主調変換)。キーがDmなら、G7はIV7の和音。マイナースケールは3つあります。IV7が存在するのはメロディック・マイナー。機能はサブドミナント・マイナー。つまりこの箇所は、ナチュラル・マイナーのIm7とメロディック・マイナーのIV7とで小さく揺れ動いているだけです(さざなみのように)。なおスケールとしてはD Dorianが便利ですね。

この「メジャーとマイナーが交互に現れる」動きも、ブルースを想起させます。Aメロの12小節は、型式においてだけでなく、深いところでもブルースに通底しているように思えます。それがこの曲のすごいところではないかと思ったりもします。

サビのBセクションは普通の2-5進行で難しくありません。ただ、ここでもAメロの最後のG7がGm7へと同じ基音のままマイナーに転じ、FMaj7が同様にFm7に転じるといった、「メジャーキーとマイナーキーの揺れ動き、せめぎあい」があります。

Wave : Section B

一般にこの “Wave” の歌詞における「波」という言葉は、「恋愛感情の高まりの喩え」と解釈されることが多いようなのですが、「寄せては返す波のように、メジャーがマイナーになり、マイナーがメジャーになる」という意味も込められているのではないか、などと思ったりもします。「転調」は英語で “modulation” と言いますが、長調と短調という2つの「波」が相互に変換されつつ進行していく曲、と言えないでしょうか。

そしてその「長調」と「短調」を、それぞれ「男と女」に見立てて、ジョビンは詞を書いたのではないか、と考えたりします(どちらが男で女がわかりませんが)。英語の歌詞には “Whenever two can dream a dream together” (ふたりが一緒にひとつの夢を見られる時はいつでも)という部分があり、このWaveという曲全体が、「長調と短調が一緒に見ている夢」という感じがします。

そして2人の目が合った瞬間、そこには「永遠」が発生する。そう、この “Wave” という曲のような、美しい永遠が・・・ グハッ(吐血)

書きながら考えて、あらためて思いました。この曲すごい。ヤバい。Waveヤバい。歌詞の世界とハーモニーの世界の関係がヤバい。神。ミラクル。恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


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