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ブルースという名の実験場(1):もう迷わないジャズ・ブルースのコード進行

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ジャズの世界におけるブルースは不思議な立ち位置を占めていると思います。「1コーラス12小節」という小さいサイズとコード進行のシンプルさから初心者向けの素材となるのは勿論、成長中のプレイヤーにとっては様々なアイデアを試せる格好の「実験場」と言えるのがブルースでしょう。

この記事ではジャズ的なブルースのハーモニー構造を観察してみたいと思います。「これがジャズのブルースだよ」と手渡されるやや複雑な感じのコード進行に戸惑った方も、順番に考えていけば迷わなくなると思います。では早速見ていきます。キーはBbで説明します。

ブルースの太古の姿

ブルースの起源は19世紀後期に遡るらしいのですが、原始的な進行は下のようなものだったようです。これはロック系・ブルースギター系の方にはお馴染みの進行だと思います。ジャズ・ブルースも大局的にはこれと全く同じ構造をしています。これがどんどん進化したので、結果的に複雑に見えるようになった。

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全体は「問いかけx4・問いかけx4・答えx4」というA, A’, B的な構成でしょうか。最初のBb7はトニックです。Dominant 7thコードがトニックとして登場する不思議な型式、それがブルース。先回りしておくと、Bb7をBbΔ7に、とコード・クオリティを入れ替えても誰も困らない。そんな緩さもあるのがブルース。

2段目に登場するEb7はIV7、機能はサブドミナントと考えて良いでしょう。心が少しだけ高揚するというか、揺らぐ。そしてまた安定のトニックに戻る。

3段目のF7-Eb7-Bb7は「ドミナント→サブドミナント→トニック」となっていて、クラシックの和声理論だと基本的に禁則とされるのも有名。全体的に西洋の和声理論ではうまく説明できないところがある、それもまたブルースの特徴(元々アフリカ音楽だったからでしょうか)。最後のF7は頭に戻るためのもの。

ジャズ・ブルースの簡単な姿

これを簡単にジャズっぽくしてみると下のようになります。2小節目にもIV7が登場。長いトニック・セクションに変化を付けたい人がいたからでしょうか。勿論1段目全体をI7で通しても問題なし。3段目のCm7-F7-Bb7に2-5進行が入り、一気にジャズっぽくなります。これは「原始的な進行」のF7を2-5化したもの。

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「次の4小節」への移動をよりドラマティックに

さらに少し進化させます。1段目4小節目のBb7altは、次のEb7に強い解決感を伴って着地するために設定されました。2段目最後のG7も同様で、Cm7へのドミナント・モーション。そして3段目の3〜4小節目は「1625の循環進行」です。この部分は「ターンアラウンド」と呼ばれ、様々な変種・珍種(?)が存在します。

ところで2段目の2小節目にEdimがあります。IV#dimですが、これは何故でてきたのか。これは3小節目のBb7をBb7/Fと考えるとわかります。Eb→E→F(Bb7の5度)という半音で上昇するラインを設定するとスムーズで気持ち良くなるからです。このEdimは経過的なパッシング・ディミニッシュです。勿論使わないのも自由。

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ドミナント・セブンスは全て2-5化してしまう

次の進化形を観察。3小節目のFm7は4小節目のBb7を2-5化して出てきたものです。つまり天から新しいコードが降ってきたのではなく、元々そこにあったものと言って良いでしょう。2段目最後のDm7-G7altも同様。それ以外のドミナント・セブンスも同様の処理が可能。

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少しややこしくなったジャズ・ブルースの姿(推定14歳)

こうしてジャズ・ブルースがスクスクと成長すると、下のように(も)なります。1段目2小節目のEdimの登場経緯は上で説明しました。4小節目はBb7をShort 2-5に分割。2段目3小節目も同じ。

注目は3段目のF#m7-B7です。これは元々のF7の裏コード(増4度関係にあるセブンスコード)であるB7を設定し、それをさらに2-5化して出てきたものです。ウェス・モンゴメリーが聴こえてきますね。最後は「1625の循環進行」の代わりに「3625」を設定。Bb7もDm7も同じトニックに属するため、入れ替え可能。

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何でも2-5化しすぎて少し悩めるジャズ・ブルースの姿(推定16歳)

もう手当たり次第に2-5化することも可能。誰も止めないし、怒りません。もっと細かく考えるのもあり。ただし演奏中にこんな細かいことを考えるわけはなく、フレージングの可能性として練習段階で色々試しておくと良いと思います。

ここでもうお気づきの方もいると思いますが、ジャズ・ブルースは「ブルース・スケールを一瞬たりとも使わなくとも2-5的な考え方だけで弾く」ことも可能です。ブルースが好きではない、という人も、だからブルースを毛嫌いする必要はないと思うんですね。勿論ブルース・スケールやリックはいつでも使用可能。

2段目4小節目のAb7はG7へのクロマチック・アプローチ。3段目最後の2小節はターンアラウンドの変種。3625の6と5を裏コードに変更しています。結果的にこういう半音下降的な進行になります。

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異性の目を強く意識するようになったジャズ・ブルースの姿(意識高い系・推定18歳)

例えばチャーリー・パーカーがブルースを演奏すると下のような感じになります。I7はIΔ7やIΔ6にしても良いし、IV7もIVΔ7にしてもいい。だから1小節目にBbΔ7があります。2小節目のAm7(b5)9-D7は、「貴様、何処から現れた!」という感じですが2段目頭のEbΔ7に着地するために4度進行を「遡って設定した」と考えると良いと思います。着地点からの発想。

2段目の2小節目のEbm7-Ab7は、bVII7であるAb7を2-5化したもの。つまりサブドミナント・マイナー。この段はIVΔ7 – IVm7のパラレルマイナー進行になっているわけです(同主短調からの借用。モーダル・インターチェンジとも言う)。スタンダード曲ではお馴染みの進行。

続くDm7-G7は1小節全体が前のEbm7-Ab7からそのまま半音下降しています。さらに1小節まるごと半音下降させたDbm7-Gb7は3小節目頭のCm7に着地。この2小節はバップでよく使うクリシェ的な表現ですね。色々な解釈が可能だと思いますが単純にダブル・クロマチック・アプローチと考えても良いと思います。

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セッション等で普通に使用されるジャズ・ブルースの進行

ジャズ・ブルースにはこの他にも色々な進化形がありますがこの記事ではここまでにしておきたいと思います。とにかく一見したところ複雑に見えるジャズ・ブルース進行でも、元々は素朴でシンプルなものだったこと、そして大きい骨組みを忘れなければ迷わなくなると思います。

その上で、ジャズ・ブルースとして恐らく最も普及しているように思われる進行を下で紹介しておきます。異論のある方もいるかもしれませんが、大体この進行を踏まえて演奏すれば大きい問題は起きないと思います。

何故下のような進行なのか。自分で説明できるようになると、ブルースのハーモニーを自分なりに如何ようにも進化・変形させることが可能になるはず。但しバッキングで凝り過ぎるとソリストの表現を制限してしまうのでその点は気を付けたいところです。上で紹介したコード進行はまずフレージングのアイデアとして考えるのが良いと思います。

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ブルースについては今後も時々様々な角度から観察していきたいと思います。ブルースは単純で簡単。複雑で難しい。明るくて暗い。と、不思議な2面性があるので、全く飽きません!


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