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1万種類のキックを1回だけ練習した男を私は恐れない。1種類のキックを1万回練習した男を私は恐れる – Bruce Lee

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截拳道(ジークンドー)という独特な拳法の創始者であり映画俳優でもあったブルース・リーは、ジャズギタリストではありませんが、私にとっては即興演奏における「心の師」です。

Bruce Lee

ブルース・リーは洞察に満ちた様々な箴言を残しています。それらの名言をまとめた日本語の書籍があるかどうかはわからないのですが、私は “Tao of Jeet Kune Do” をはじめ英語の書籍を何冊か愛読しています。それほどまでに私はブルース・リーを尊敬しています。

不思議なことにブルース・リーがマーシャル・アーツについて語る言葉のほとんどはジャズ・インプロビゼーションにおける真理として読み替えることができます。いつどんな攻撃を繰り出してくるかわからない相手に立ち向かう武術と、いつどんな状況でどんな音を出すかが前もって定まっていないインプロビゼーションには驚くほど多くの共通点があると思います。

「実戦前の練習」について語る彼の言葉も、そのまま楽器演奏の「本番前の練習についてのヒント」として読み替えることができます。例えば次の名言。

1万種類のキックを1回だけ練習した男を私は恐れない。1種類のキックを1万回練習した男を私は恐れる
I fear not the man who has practiced 10,000 kicks once, but I fear the man who has practiced one kick 10,000 times.

「キック」を「リック」や「フレーズ」に読み替えてみるとどうでしょうか。1万個のリックやフレーズを1回だけ、とは言わないまでも、せいぜい10回や100回「なめてみた」だけで、それを自分の言葉として使うことができるでしょうか。自分の言語の一部に統合できるでしょうか。

それよりもむしろ、1個とは言わないまでも、例えば10個のリック(またはもう少しサイズの大きいフレーズ)をそれぞれ1万回弾いたほうがはるかに多くのものを得られるのではないでしょうか。というか私はそう感じています。

発想を広げたり新しいアイデアに触れるために他人の演奏を数多く、またはランダムにコピーしたり、リック本を開くのは悪いことではまったくないでしょう。しかし実戦で本当に役に立つのは「1万回はやったあれ」とそこから派生してくるものだと思います。

それはチャーリー・パーカーのヘッドの一部かもしれないし、ソニー・ロリンズのビバップ・リックかもしれない。ほんの数個のフレーズ。1万回も弾いていると、それらの小さいフレーズがかなりの可能性を内包しているものであることに気付きます。

今度は「キック」を「ソング」に読み替えてみるとどうでしょうか。1万種類の異なるソングを1回だけ弾いたことのあるギタリストと、1種類のソングを1万回弾いたギタリスト。どちらが良い演奏をするでしょうか。前者も発想豊かな演奏が期待できそうですが、個人的にはやはり後者ではないかと思います。

ちなみにミック・グッドリックはこんなことを書いています。

一つのトーナリティーで獲得した全ての成果は、他のトーナリティーでも扱えるようになる(取り組むのなら!)
All the material that you accumulate for one tonality can become available in many other tonalities (if you work at it!)

ブルース・リーとミック・グッドリックは時々かなり似通った言葉を述べています。やはり武術の奥義とインプロビゼーションの奥義には共通するものがあるのだと思います。1つの何かをどこまで深く理解するか。それはかなり大事だと思います。

自由になるために、全てを無意識のレベルで完全に扱えるようにする。逆説的ではあるものの、「型」を1万回はやる。スタンダード曲でアドリブに取り組む前に、まずテーマを100回200回と味わいながら弾いてみる。マイルス・オカザキは同じ練習をやり過ぎないようにしているとのことですが、それはまたちょっと次元の違う話だと思います。


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