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ジャズギタリストを取り込もうとするフェンダーのプロモーション活動が本気かつ優秀で怖い

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ジャズギター、といえば人はまずギブソン社のギターを思い浮かべるはず。チャーリー・クリスチャンのES-150。ウェス・モンゴメリーのL5。パット・メセニーのES-175。これだけでも「ジャズギター=ギブソン」というイメージを生み出すのに十分でしょう。しかし周知のように近年のギブソンは凋落の一途。2018年5月の経営破綻は世界的な話題に。アーチトップギターも2019年のラインナップから消えました。

ギブソンの2019年モデルからフルアコが消滅
ギブソンの2019年モデルからフルアコが消滅しています。米国公式サイトの"Product"タブから"Electric Guitars", "...

ジャズギタリストが愛好してきたギブソン社のアーチトップギターが市場からすぐに消え去るわけではないにしても、経営資源が乏しい同社はプロモーション活動に力を入れたり、広告を打ったり、イベントに出資したり、魅力的な新モデルを出したり、魅力的ではあっても採算の取れない既存の高級ギターを制作し続ける余力は当面ないでしょう。

競合他社の優秀な経営者がこの空白を埋めてこないわけがない。自社製品に自信を持っているならなおさら攻めてこない手はないでしょう。しかも”Jazz”という単語の入ったギターもラインナップされている。というわけで、最近のフェンダー社のプロモーション活動には目を見張るものがあります。

ジャズギタリストを取り込もうとするフェンダーのプロモーション活動が本気かつ優秀で怖い

ヨドバシカメラの楽器コーナーに行ったらフェンダー・ジャズマスターがたくさんありました。そして弦のあいだには上のチラシが。4月11〜9月16日までにジャズマスターを購入した方の中から抽選で30組60名様を小沼ようすけ・井上銘ライブにご招待!クローズドなスペシャルライブ。攻めてるなフェンダー、と思いました。こりゃ本気だ。8月にはこんな動画も出していました。

フェンダーが今後日本市場でどれだけのジャズファンを獲得できるのか大変興味があります。同社のストラトキャスターやテレキャスターでジャズをやる人々は増えてきてはいても、ギブソン信仰を崩すのはそう簡単なことではないでしょう。しかしこの力の入れよう、明らかに崩しに来ているように見えます。

何にせよ勢いのあることは良いことだと思うので、頑張って欲しいと思います。ギブソン主催のジャズギターコンテストは終わってしまいましたが、フェンダー・ジャズギターコンテストがあってもいいんじゃないでしょうか。優勝賞品は勿論赤いジャズマスター。


グーグルギター

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新しいギターを手に入れた!その名もグーグルギター。ボディにスマホほどの大きさの液晶画面がはめこまれていて、そこに様々な便利情報が表示されるという優れものギターだ。今年モンドセレクションで最高金賞を受賞して話題になった。

グーグルギター
Original image from Fender.com

早速ぼくはCadd9コードをバーン!と鳴らしてみた。ド・ミ・ソ、そしてレ。トライアドに9thを足した、シンプルながらも透明感のある美しいコード。バーン!

ん…? 何か、違う…

余計な音が入っている…

ぼくはグーグルギターのボディの液晶画面を見た。するとそこには驚きのメッセージが表示されていた。

もしかして:CΔ9

違う!違うんだよ!いまぼくはB音を弾きたくなかったんだ…余計なおせっかいしやがって!Cadd9を弾きたかっただけなのに、グーグルギターはぼくが必要としていないメジャーセブンスの音を押し付けてきた。

気をあらためて、今度はAm11コードを弾いてみることにした。ボーン。ボーン…

何だ…何かが違う…

音が足りない…いくら6弦ルートDrop 3のAm11を押さえて弾いてみても、聴こえてくるのはルートのAと、11thテンションのDだけだ…な、何なんだこのギター…ぼくはふたたびボディのスクリーンを見た。するとそこには驚きのメッセージが表示されていた。

含まれない: 3度 7度

含めよ!

腹がたったぼくは窓の外にグーグルギターを放り投げた。

しかしギターがないと困るので、翌日新しいギターを買いに行くことにしたのだ。

ぼくは御茶ノ水のギターショップに向かった…するとお店に入るなり店員さんがぼくに向かって、言った。

お待ちしておりました!今日はジャズマスターか、テレキャスターをお求めにいらしたんですね!

謎のYouTuber ・Jazz Duets氏が選んだジョン・スコフィールドのベストアルバム

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南米アルゼンチン在住のソプラノサックス奏者でYouTuberのJazz Duet氏。この方の動画は本当に面白くてためになるものが多く、過去にこのブログでも紹介させていただきました。

作品レベルに昇華されているJazz Duetsの教則動画がすごい
最近Jazz Duetsというサックス奏者の方のYouTubeチャンネルをよく見るのですが、いやぁ、ペンタトニック・スケールの各音にクロマテ...
グノシエンヌ・スケール(エリック・サティ)
近代フランスの作曲家エリック・サティ。「ジムノペディ」が有名ですが、同じくらい有名な「グノシエンヌ(Gnossienne)」という組曲(18...

そのJazz Duetさん、同じくYouTubeで有名なオランダ在住のデンマーク人ジャズギタリストJens Larsen氏から、お気に入りのジャズギターアルバムを選んでほしいと頼まれたそうです。それに対する回答がこの動画(こういうコラボが流行っているらしい)。前置きで彼は、何かを選ぶとそれ以外が劣っているみたいに判断されるからそういう意味では選べないんだけど…と語っています。

その上でジョン・スコフィールドの”Electric Outlet”(1984)を推しています。彼は1985年にこのアルバムを聴いたのだそうです。このアルバム、懐かしいですね。というのもジョンスコの教則DVD、”Jazz-Funk Guitar”収録の”Pick Hits”が入っているからです。1984年はジョン・アバークロンビーと”Solar”を録音した年でもあり、翌年は”Still Warm”です。あの頃のサウンド。”Still Warm”大好き。

Electric Outlet
Electric Outlet
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Jazz Duets氏、4分の短い動画でこのアルバムの魅力を

  • バラエティに富んだスタイルとグルーヴ
  • シンプルなコード進行にトライアドを乗せるハーモニー
  • ジョンスコ特有のトーンやサウンドの実験
  • ブルース由来のアドリブライン

という4つの切り口から熱っぽく伝えてくれています。短いけれどすごく作り込まれていて、すごく面白い動画だったので是非御覧ください。

私もジョンスコのアルバムを1枚だけ選ぶなんてとても無理ですが、この記事を書きながらまた聴きたいなと思ったのがこれ、”What We Do”。1993年の録音で、この後ジョンスコはまたファンクっぽいグルーヴに戻りました。このアルバムは本当によく聴きました。というかこれ書きながらまた流していますが、うお…鳥肌が立ちます。

What We Do
What We Do
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Blue Note Records (2004-10-01)

世田谷自然ギターのCM

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テレビを付けたら、世田谷自然ギターのCMが流れた。ストラトやテレキャスやレスポールやジャズマス…安価で良質なギター10本セットを電話一本で届けてくれる驚きのサービスだ。

世田谷自然ギターのCM

新宿割烹ギター・中嶋

これはね、ほとんど完璧。
ぼくのいちばんの好みは、ストラトキャスター。スプリングの残響もちゃんと残ってる。
これ、ほとんどプロのギターです。ビックリしました。

四万十ギター女将・田村

本当に素材を生かしていますね。
ベニアと中華パーツが生きてる。
ヒマなギタリストなんていないんですから。
お湯を…とにかくすぐ弾けるギターでないといけませんねえ。

四万十ギタールシアー長・塩野入

本物の音がしますよねやっぱり、作りたての。
うちら(ギター職人)が作るのと一緒ですね。
感心してしまいますね。
うちらのギターよりいい音かもしれませんね。

僕はブチッとテレビを消した。こんなプライドのない世界は、もうたくさんだ!

車輪の再発明を要求するジャズという音楽

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堀江貴文氏のベストセラー「多動力」によると、プログラミングの世界には「車輪の再発明」という現象があるらしい。何かを達成しようとして苦労してコードを書いていった挙げ句、目標は達成したものの、気がつくとそれは既に他の誰かが書いていたものと同じだった、という内容。それは「ライブラリ」として簡単に使用可能なものになっていたりする。そういう現象。

堀江氏によるとこういう「車輪の再発明」は「教養」を身に付けることによって回避できる。彼が言う教養とは、様々な分野にどっぷりと浸かり、80%程度までは理解できるようになることらしい。その分野を極めるにはいくら時間があっても足りないが、何でも80点を取れるくらいに精通しておけば他人に外注したり、オープンリソースの存在を予見できる。結果、よりクリエイティブな仕事に注力できる。

Audibleでこれを聴いていてふと思ったのは、私達がジャズでアドリブができるようになるためにやっていることは「車輪の再発明」に近いことではないか、ということ。

ツーファイブ進行で使えるフレーズ、トニックで使えるフレーズ、静的進行の上で物語を作るような古典的なフレーズを収録した教則本は、ギターでもピアノでもサックスでもたくさん流通しています。でもそういうオープンリソース的なフレーズをカットアンドペーストして実際に使ってみても、まったく面白くない。音楽にならない。

音楽教室もたくさんあって、それは80点を取るまでの時間を短縮するためには大いに役立つかもしれない。でもスクールに通ったからといって人の心を打ついい演奏ができるようにはならない。ソフトウェアを作ることと、音楽表現を作ることはやはり全く違う。

自分で採譜したこのフレーズ、教則本のこのフレーズ、どんなふうにできているんだろう。分析をはじめる。この音はアプローチノートなのか、2拍早めに次の小節のコードのフレーズがはじまっているのか、これなに考えてるんだろ、などと感心したり発見したり悩んだりしながら、自分でその音を追っていく。ソフトウェア開発で言うリバースエンジニアリングに近いことをやる。これがまた面白かったりする。

その「車輪」の意味は、理解するだけならさほど時間はかからなくても、「自分の表現」として自然に使えるようになるまでには膨大な時間がかかる。この部分は、ホリエモンは興味がないところ。でもこの部分を追求しないと多分いい演奏にはならない。頭のいい人はこのことをすぐに理解するので、ジャズをやめてしまう。大学のジャズ研の先輩には天才が何人かいたけど、彼らはもう楽器をやめたと聞いた。

自分でオルタードのフレーズを生み出すとする。b9からトニックへ。13thはナチュラルにしてみようか。ここは長7度飛ばして…という感じでフレーズを作っていった結果、それが例えばジョンスコのフレーズとたまたま一致したとしても、それは無駄なことでは全くないし、むしろそういう過程を経た表現のほうが説得力があるはずだ。ジャズでいい表現ができるようになるには「車輪の再発明」が必要なんじゃないか。

本当に「効率」からは遠い世界だと思う。これではあらゆる面で効率が優先される資本主義社会の中でジャズが先細りしていくのも無理はないんだろう。でも、好きなんだから仕方ないよね。

堀江氏の「多動力」はAudibleのお試し登録で無料で聴くことができます。同意できない部分もたくさんあるけれど、役に立つ話もたくさんあって、面白い!

多動力
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長い曲、短い曲。インスタ時代の音楽表現のこと

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昔々イギリスという国にレッド・ツェッペリンという有名なハードロックバンドが誕生して、「天国への階段」という有名な曲を生んだ。1971年に”Led Zeppelin IV”というアルバムに収録されたその曲は、ロックの歴史に残る世界的大ヒット曲になった。が、当時ラジオ局はこれを最後まで流すことなく、ジミー・ペイジのギターソロ終盤でフェイドアウトさせるのが常であった、と聞いたことがある。

長い曲、短い曲。インスタ時代の音楽表現のこと

そのため、この曲をまずラジオで聴き、次にアルバムを入手して聴いた人々は”And as we wind on down the road…”以下の続きが存在するのを知って驚愕したらしい。そのせいでこの曲の神話性がさらに増幅されたという話も聞いたことがある。

1971年当時としてもこの曲は「長すぎる」ものとして認知されていた。「天国への階段」の演奏時間は約8分。当時UKのバンドがアメリカで売れるためにはラジオ局でどれだけ流されるかが大事だった。当時はラジオが全てだった。そしてラジオ局はクルマのドライバーを意識した選曲をしないといけなかった。その結果、「天国への階段」も「いい具合に」カットして流された、という話を聞いたことがある。

他に「長い曲」はどんなものがあるのだろう。最近だとベン・モンダーが参加しているダン・ウェイスの意欲作”Starebaby”収録の”Episode 8″は14分28秒もある。ベン・モンダーといえば超名盤”Hydra”収録の”Tredecadrome”は15分16秒。これはもう尋常じゃない。

今日は2018年10月14日で、ツェッペリンの「天国への階段」から何年だろ、ええと…えっ、47年も経ってるの!? ほとんど半世紀じゃないか!! マジか…

うん、半世紀も経てば世の中変わるよね。いまどんな世の中かと言えば、端的に言ってインスタの時代。インスタグラム。動画は長くても60秒まで。そういう時代。

こういう時代に生まれ育った人間にとって、「天国への階段」を最初から最後まで聴くのは苦痛なのかもしれない。でも、それに文句を言ったって仕方がない。そういう環境で生まれ育った人たちに、いいから黙ってこの8分の曲を聴きなさい、と言っても、聴いてもらえない。とにかく最初の10秒、いや5秒でリスナーの注意を惹きつける、そういう表現上の戦略が求められるようになってきたのは多分間違いない。

(「天国〜」の最初のギターは最初の1秒でその後をずっと聴かせるだけの魅力はあると思うけど!)

ホリエモンは「多動力」という著書の中で、数年前に話題になった「君の名は。」という映画を褒めていた。なぜか。「君の名は。」は集中力が持続しない最近のインスタ世代の若者のことをよくわかっていて、観客が飽きないようなカット割りとスマホの描写を織り込んでいるから。なるほどな、と思いました。

「君の名は。」は私も見て、感動した。Radwimpsの歌が劇中に入ってくるあたりは、どうも許容できなかったけど、そういう細かい不満を超えた魅力があった。

こんなことを書くと、俺は俺の音楽をやりたいようにやる、リスナーの好みに合わせるような迎合は堕落だ、退廃だ、とプンスカしてしまう人もいるかもしれない。それについて誰も何も言う立場にないし、みんな好きなことをやればいいだけだとは思う。でも少なくとも聴いてもらえなければ、相手にされなければ自分は存在しない。聴いてもらえなければはじまらない。

「そういうマーケティング的な態度は表現活動には不要だ」と言う人もいるかもしれない。でも私は、そうは思わない。マーケティングという経済学的な概念を超えて、自分が未知の他者に向けて何かをやるのか、それとも自己満足で何かをやっているのかは考えなければいけない。それを無視した自己耽溺的な音楽は、あまり良いものになるとは思えない。

さて、最近は私もインスタで”pickupjazz”のようなアカウントを眺めていて、最初の2〜3秒くらいで何らかのフック(注意を惹きつけられるような感覚)がなければ、その先は見なくなってしまった。最初の2〜3秒は本当に大事だと思う。最後まで聴いてもらればわかる、とにかく我慢して聴いてほしい、という態度は、たぶんもう有効ではない。

現代はとにかく効率が優先される時代になった。こういうブログ記事にしても文章量が多すぎると「で、結局は何が言いたんだ?三行で書け。」と文句を言われることも珍しくない。交渉でも会議でも「まず結論を言え」ということが多い。つまらない時代になったなとは思う。と同時に、これは私達が直面している現実の一つであるのも間違いない。

その現実に媚びる必要はないけれども、そういう現実が存在することを理解した上で表現することは今後大事になってくると思う。勿論こういう時代にプルーストやドストエフスキーのような重厚長大な路線で行くのも、それはそれでありだと思う。先に挙げたベン・モンダーなどはたぶんこういう状況を認識した上で長い曲を書いているように思う。彼は確信犯的に15分もの曲を書いているのだ。

自分はこの時代をどうやって生きていくか。どう戦っていくか。やはり時代状況について、敵についてよく知っておくに越したことはない。いま私達は、どんな嗜好がメインストリームになりつつある時代に生きているのか。それを知っておくと、少しいいことがあるんじゃないか。

最近このブログでホリエモンの著書のことを何度か書いていて、読んで下さっている方々の反応を見ると「やっぱりホリエモンは嫌い」という声がとても多い。私はこの人のことは好き嫌いという物差しでは見ていなくて、単に変わった人だな、面白い人だな、と思っている。

好むと好まざるとにかかわらず、ホリエモンは私達が生きているこの時代のある特徴を象徴している。ホリエモンの思想に対して自己をどのように位置付けるかは、どんな分野の表現者にとっても今後必要になってくる作業だろう。「多動力」はAudibleの体験登録で無料で聴けるので、ホリエモンが嫌いな人にも一度聴いてもらいたいと思う。きっと多くの発見があるはずだ。

多動力
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ところで「君の名は。」のAudible版があるのをいま知った。再生時間は6時間33分もあるらしく、なんと3,000円もする! Audibleは無料体験で「コイン」というのが1枚もらえて、その後も利用を続けると毎月1枚の「コイン」をもらえる。そのコインでどんな本も買えるから、実は高い本を買ったほうが得だ。ホリエモンが嫌いな人は「君の名は。」を聴いてみて下さい(笑)。

小説 君の名は。
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勇気付けるコーチング・弱点を指摘するコーチング

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今年はスポーツ界で方向性が全く異なる2種類のコーチングがクローズアップされ、大きい話題になりました。速見佑斗コーチによる新体操・宮川紗江選手への平手打ち動画は、やはりショッキングなものでした。考慮すべき文脈があるとは言え、暴力を伴うこうした指導はもはやどんな文脈でも擁護できる時代ではないし、する必要もないでしょう。

対照的だったのがテニス・大坂なおみ選手のコーチ、サーシャ・バイン氏。練習中の指導はまた別なのかもしれませんが、試合中、落ち込んでいる大坂選手の前でしゃがみこんで「君はできる、君ならできるんだ」と徹底的に励ます姿がテレビで取り上げられ、これも大きい話題になりました。

ところでパット・メセニーは「教えること」についてどう考えているのか。高校生の頃は子どもたちにCのコードの押さえ方を教えたりしてお小遣いを稼ぎ、18歳になるとマイアミ大学で教えるようになったパット・メセニーは、1981年のGuitar Player誌のインタビューで次のように語っています。

生徒に対して印象付けたい、大まかな哲学は持っていますか?

ないよ。教えることに関しての僕の唯一の哲学は、自分の弱点に気付かせるということだけだったよ。でも、それも違うな、だってどの人もみんな違うからね。

良いプレイヤーになるために、心底激励されないといけない人達もいれば、もうある程度やれるようになったこと以外に頑張らないといけない部分があることを知らないといけない人達もいる。

かなり弾けるようになった中級者レベルというのは危険な時期なんだ、なぜなら彼らはうまく弾けないものの代わりに、うまく弾けるものだけを弾こうとする傾向があるからだ。即興演奏に興味がある人は特にそういう傾向がある。

コードチェンジ上での演奏をマスターするということは、いや、ある程度整った演奏をすることさえ、本当に難しいことなんだ。本当に素晴らしいモーダルな演奏をできることも大事だけど、コード進行の上で本当にプレイできるようになるのは難しいことで、忘れられがちだ。チェンジ上でのプレイを学ぶことでモーダルな演奏も改善するよ。

Image source : Pat Metheny Facebook

生徒に自分の弱点に気付いてもらう、というのがメセニー先生の大きい方針だったようです。

「褒められて伸びるタイプ」や「叱られて伸びるタイプ」という言い方があります。人にとってそういう傾向の違いがあることは、多分事実でしょう。

でも「弱点に気付いてもらう」ために「叱る」必要があるのか、というのはちょっと考えたほうがいいのでしょう。「叱る」には「きつく言い聞かせる」ことから「平手打ち」まで様々なグラデーションがあるとは思いますが、大きく見れば実は同じことなんじゃないかという気もします。「叱る」という概念そのものが、なんとなく教育の敗北という感じがする。先生っていうのは大変だと思う。

むかし「セッション」というジャズのビッグバンドを題材にした映画があって、暴力が大きいテーマでした。暴力とパワハラで自殺した生徒や、最後はその暴力を乗り越えて指導者に立ち向かった生徒などが登場します。でも、あの映画私はダメでした。頭が受け付けない(あの映画のファンの方、すみません)。

パット・メセニーやマイク・モレノはきっと厳しい先生なんだろうと思いますが、メセニー氏、14歳のネルソン・ヴェラスのことをこんなふうに褒めていました(4:12〜)

うまいよ、きみ。14歳のわりに、とかじゃなくて、14歳でもすごいと思うけどさ、一般的な意味で、きみはサウンドグレートだよ。

褒めることは、実はそんなに難しくないような気がします。良かったと思ったら素直に良かったと言えばいい。でも弱点に気付いてもらう、叱らずに弱点に気付かせるというのは結構な経験やスキルが必要になってくるんじゃないか。スキルだから、学んで身につけないといけない。でもそれが難しいので、最後は手をあげる人が出てくる(笑)。

ということは、暴力を振るう人は、学ぶことを放棄した人間であると言っていいのでしょう。

マイルスだったら何て言うだろう。弱点に気付かせるために。

違う

それで終わりかもしれない。いや、…「違う」さえ言ってくれないような気がしないでもない。

大人になってわかったデューク・エリントンの魅力

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かつて「スイングジャーナル」というジャズの雑誌がありました。私はほとんど読んだ記憶がないのですが、その編集長を務めていたジャズ評論家・岩浪洋三氏による「musicbook」なるものを数冊聴きました。オーディオブックのAudibleで配信されているものです。

聴いたのは下の3冊。どれも収録時間は19分。岩浪洋三氏は2012年に亡くなっているのですが、2010年に刊行された村上春樹の小説「1Q84」への言及があるため2010〜2012年のどこかで録音されたものなのでしょう。このシリーズ、全部で18本もあるので残りも楽しみです(Audible会員なら1冊350円)。

いろんな音楽に疲れてしまったらデューク・エリントンを聴くとリフレッシュするとか、村上春樹氏も岩浪洋三氏も晩年の喉がやられたビリー・ホリデイの声が好きだとか、面白い話はたくさんあるのですが、何がいちばん面白いかというと、内容もさることながら、やはり「語り」です。口述による歴史。

南米の森の奥の原住民の村で、夜に焚き火を囲みながら「長老」が語る歴史に耳を傾ける、みたいな感じです。オーディオブックは様々なストーリーを頭の中で視覚化する作業が自然と発生するので、テレビでも映画でも本でもないような不思議なワクワク感があります。これが楽しい。

この中では「デューク・エリントンの音楽にはジャズの全てがある」が特に面白かった。古典ジャズの時代の話はあまり知らないので、新鮮なエピソードが満載でした。エリントンが書いた曲数の話、タクシーの中で作曲した話、「A列車」の意味、どれも面白い。

最近ではエリントンの曲をジャムセッションでコールする人はあまり多くない気もします。”In A Mellow Tone”も”In A Sentimental Mood”もいい曲だけど、いまの20代の人にはピンとこないんだろうか。というか私自身、20代の頃、エリントンを真面目に聴いた記憶がない。古くて終わったジャズだと思っていた。エリントンの魅力に気付いたのは大人になってから。20代の自分は完全に子供だったな…

でもこうやって良いものを再発見できるんだから、年を取るのも悪くないなと思います。

Audibleの少し面倒なところは、スマホで本を直接購入できないところ。Kindleもそうですが、PCブラウザで購入して、そこから自分の端末に配信する必要があります。あらかじめて入れておくと通勤電車やジムのトレッドミルが少し楽になります。Audible会員でない方は、体験登録すると1冊無料で聴けます。


YAMADA SA2200が数年ぶりのリニューアル

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ヤマダミュージックジャパンは2018年10月18日、同社の人気セミアコースティックギターSA2200を数年ぶりにリニューアルしたモデルを発表した。カッタウェイ部の突起を削ることでハイポジションの演奏性を高めた。軽量化にも繋がり高齢者にも持ちやすいギターとなっている。Fホールは1つにすることで耐フィードバック性能も向上。コントロールは1ボリューム1トーンとなりリアかフロントかという迷いからギタリストを解放する。センターブロックは従来比75%まで小型化することでよりエアー感のあるサウンドを狙った。希望小売価格は従来通りの260,000 円(税抜)。

YAMADA SA2200

コメント:

  • リュートかよ
  • このギターのハイポジもともと弾きやすかっただろ
  • これあれだろ、シュリンクキャスターと同じじゃね?
  • 許さない
  • そんなに変わったか?
  • 容積減らさずに値上げすれば良かったのに
  • 言われないと気付かないくらい微妙な変化だな
  • 俺はやっぱりヤマハのほうがいい

練習することは脂肪を蓄えていくことである な…何だと…

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練習することの意味や効果的な練習方法について、1年前にTEDからこんな動画が出ていたようです。このブログでも何年にもわたりこのテーマを考察してきましたが、この5分弱の動画を見たらかなりスッキリしました。ありがたいことに、日本語字幕付きです。

文字でまとめると大体こんな内容です。

  • マッスルメモリーというものはない
  • 索軸(axons)と呼ばれる神経線維を覆うミエリン(myelin)と呼ばれる脂質が練習によって厚みを増す
  • ミエリンは電線の絶縁体のような機能を果たし、電気信号の伝達効率を高める
  • 一度習得したスキルは、以後、その行為を想像するだけで練習効果がある
  • あるスキルに熟達するために、ある程度の量の練習時間は必要だが、質も問われる
  • 良い練習とは、一貫性があり、集中の中で行われ、能力の限界値をあげようとしたり弱点を改善しようとするものである
  • 速く弾けるようになるためにはゆっくり弾く練習が必要である

特に「マッスルにメモリーはない」という考え方は興味深いです。まだ研究段階でこの動画の説が完全に正しいというわけでもないようですが、個人的にはかなり納得できる内容でした。

うーん、すると特定の指が動きにくいというのは、「指が弱い」のではなく、その指を動かすための索軸を覆うミエリンが薄い、と言うのが正しいのでしょうか。

ところでこの「ミエリン」という耳慣れない言葉をあらためて調べてみました。

神経科学において髄鞘 (ずいしょう、myelin sheath) は、脊椎動物の多くのニューロンの軸索の周りに存在する絶縁性のリン脂質の層を指す。 ミエリン鞘とも言う。コレステロールの豊富な絶縁性の髄鞘で軸索が覆われる[1]ことにより神経パルスの電導を高速にする機能がある。Wikipedia

下の図の右側に”myelin sheath”と”axon”の図があります。水色の被覆のようなものがミエリン。なるほどこれは…完全に電線ですw

あと面白いのは「想像すれば練習したことになる」というもの。これは確か「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム」という脳科学の本で読んだ気がします。例えば既にギターが弾ける人の場合、ギターを弾く他の誰かの手を動きを観察したり、音楽を聴いてそれを自分が弾くつもりで運指をイメージするだけで練習効果があるのだそうです。

50歳60歳になった超一流のプレイヤーが、練習は1日30分くらいしかしないよ、音楽は色々聴いているけどね…などとよく口にしていますが、きっと「想像」している時間は多いのではないかと推測したりします。

「ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム」は面白い本でした。Kindle版も出ているので興味のある方にはおすすめです。

ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム
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Kindleといえば防水機能付きのものが出るようです。これで修行中に滝に打たれながら脳科学の本を読むことができます。

ところで「気合を入れて練習する」という言い方があります。あの「気合を入れる」というのは、一体どんな意味なんでしょうか。電気の出力上げるという意味でしょうか。あるいは昇圧するということなのか。電気信号の伝達効率とはまた別に、「発電」の部分にもまだ解明されていない事象がきっとたくさんあるんでしょうね。

もしまだソロギターをはじめていないなら、今日からやろう。

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ジュリアン・ラージがマスタークラスのレッスンで手渡している資料に「ギターについての12の考察」という彼自身による素晴らしいエッセイがあるのですが、その中で彼はこんなことを書いています。

ソロギターを弾くというのは、自分の人生で長いあいだ避けてきたことだった。それは上級者のためのものだと信じこんでいたからだ。もしあなたがまだソロギターをはじめていないなら、今日からやろう。それはどんなレベルのプレイヤーにも開かれているものだ。これはごく初歩的で自明なことのように聞こえるかもしれないが、ギターの生徒でソロギターを弾いている人、弾けると思っている人があまりに少なくて、よく驚かされる。ソロギターでは、サポートを得られていないような、何かを忘れているような感じになったり、もっとテクニックがないといけないと思わされる。

僕たちはある意味では常にソロをやっている、合奏で仲間がいる時でも。そして逆説的ではあるけれど、僕たちは決して独りになることはない、自分だけで演奏している時であっても。

うん、だからソロギターは難しいに違いにないからやったことない、という人は、今日からはじめてみても良いんじゃないか。私もジュリアン・ラージと同じように感じていたことがあります。ソロギターは難しい。自分にはまだ早い。いったいいつになることやら…

でも、ソロギターに取り組むようになって思ったのは、やはりどんなレベルでもソロギターは可能だということ。そしてソロギターの練習を通じて、私はものすごく伸びた!(※当社比)

ソロギター、難しいけれど、それ以上に楽しい。「弾けないと…」が「弾きたい…!」に変わったらチャンス。音楽性は深まり、理論も身につき、指もよく動くようになって、リズム感も良くなる。いきなりジョー・パスの”Virtuoso”を目指す必要はなくて、テーマのメロディとルートだけでスタートするのも良し。いや、最初はもうシングルラインだけでもいいかもしれない。どんなソロギターを弾くかは、自分で決める。

でも少しは取っ掛かりが欲しい、とか、憧れのジャズギタリストたちがソロギターで使っている「よくある表現」みたいなものが気になる、知りたい、身につけたい、という方もいると思います。そういう方には、下の3冊は参考になるんじゃないかと思います。

もしまだソロギターをはじめていないなら、今日からやろう。

この3冊についてはちょうど1年前に下のリンク先の記事で詳しく書いてみたことがあります。というか下の記事を書いたことを忘れていてこの記事を書きはじめていた…いよいよボケが来たか。いや、ボケが来たとか、そういうことではないのだ。何回も同じことをやる。やったら忘れて、また戻ってきて、やる。その繰り返しで人は進歩するのだ…

秋の夜長はソロ・ギター・マラソンで自分を充電
秋の夜長、というか冬の夜長みたいな寒さ続きですが、ここ1週間ほどずっと家にあるソロ・ギター譜を延々と弾き続けるという「ソロ・ギター・マラソン...

そしてこれらの本でいろんなスタイルや語彙を楽しみつつ学んだあとに、一度全部忘れてしまって、上で書いたようにメロディとルートだけでシンプルにはじめてみるのも良いと思います。そして少しづつ音を増やしていく。自分はこの曲を、どう弾きたいのか。鈴木氏のバージョン、小沼氏のバージョン、菅野氏のバージョン、どれもカッコいい。じゃあ自分はどう弾くか。自分バージョンはどんな感じになるんだろう…

小沼ようすけのソロ・ギター・メソッド ホップ・ステップ・ジャズ! (Guitar Magazine)
小沼 ようすけ
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目からウロコのジャズ・ギター ソロ・ギター・スペシャル・アレンジ(CD付)
菅野 義孝
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いま上の3冊をamazonで見てみたら、鈴木よしひさ氏の著書のレビューに面白いことが書かれていました。「この楽譜のまま(人前で)弾くには、よほどリズムの良い方でないと間が持たないような、さびしいような感じの部分が結構あります。逆にそれがここもうすこしベース入れようとか、和音加えようとかになるんですけど…」というコメント。

それは私も同じように感じました、ただ私の場合はそれによってこの本の評価はマイナスにはならず、ソロギターの難しさと面白さをあらためて感じることになり、感動した部分でした。このシンプルなアレンジで、独りでこのリズムでやれないといけないのか、と。模範演奏CDは最高です。そして、リットーミュージックさん!小沼さんの著書、品切れじゃないですか!すぐ増刷しないと!(笑)

ソロギターで弾ける曲のレパートリーを増やしていくことはとても大事なことだなと感じています。イントロ。テーマ。アドリブ1〜2コーラス。後テーマ、エンディング。短くてもいいし、華麗な超絶技巧がなくても、いいと思うんですよね。独りでやれないといけない。そして、独りでやっていても、自分以外の存在をそこに感じないといけない。ソロギターは本当に勉強になります。

もしまだソロギターをはじめていないなら、今日からやろう。
– Julian Lage

2声で弾くソロギターのセラピー効果

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先日こんな記事を書きました。ソロギターについての記事です。

もしまだソロギターをはじめていないなら、今日からやろう。
ジュリアン・ラージがマスタークラスのレッスンで手渡している資料に「ギターについての12の考察」という彼自身による素晴らしいエッセイがあるので...

その中で、こういうことを書きました。

いきなりジョー・パスの”Virtuoso”を目指す必要はなくて、テーマのメロディとルートだけでスタートするのも良し。いや、最初はもうシングルラインだけでもいいかもしれない。どんなソロギターを弾くかは、自分で決める。

この部分を少し掘り下げて書いてみたくなりました。

何を言いたいかというと…例えばもう何年もジャズギターをやってきている方は、いろんな曲を下のようなスタイルで弾けると思います(ソロギターに取り組んでいれば)。ジョー・パスのコピーをしたり、教則本にアイディアを得たりして、メロディをなんとなくハーモナイズできるようになってくる(ちなみに下は、テンポ60くらいの有名なバラードを参考にした進行)。

ソロギターのセラピー効果

でもソロギターの入り口は、いきなり上のスタイルでなくてもいいと思うんですよね。私はジャズギターをはじめた時いきなりこれをやろうとして、ソロギターはまだまだ無理だな、と落ち込みました。

でも今になって思えば、いきなりこんなふうに弾けるわけがないんですよ(才能のある人は別として)。このスタイルにたどり着くにはいろんなプロセスを経ないといけない。順番がある。でもそういうことは本には書かれていなかったし、先輩も教えてくれなかった…「ジョー・パスやってりゃうまくなるよ、まぁ頑張れ!」いやいやいや…

例えば、最初はこういうのがいいんじゃないか。同じ曲。メロディとルートだけ。同じポジションでアドリブも取れるように、自分でコードトーンが扱える場所で弾くようにします。この練習にたどりついたのは、ずっと後。最初からこれをやっていればもっと上達早かったんじゃないかな…

ソロギターのセラピー効果

でも、それは結果論。ジャズギターをはじめたばかりの私はテンションが入ったジャズっぽいコードを弾きたかったのだし、たぶん上の練習には魅力を感じなかったと思います。いまはこういうアプローチの意味と意義がわかって楽しくやれていますが、18歳19歳の頃などはジョー・パスのコピー本を弾いているほうが楽しかったし、それこそが練習だと思っていました(※それはそれで無駄ではなかったと思いますが…)。

下、同じ曲のサビ。さすがにベースラインがさびしいので、ルート以外に5度を使ったり。シンプルですが、曲の理解が深まってきます(さらにこれはマイウォーキングベースライン誕生の瞬間でもあった…)。そして、これだけで鑑賞に耐えるものとして弾けないといけない思うんです。音が切れないようにレガートに。テクニックも強化されます(指の独立にもすごくいい!)。ソロギターはほんといいことづくめ。

ソロギターのセラピー効果

この練習の良いところは、テクニック以外にも和声の感覚、ボイスリーディングの感覚が鍛えられること、さらには対位法的表現の入り口にもなるところです。ジュリアン・ラージやムースピール、ラーゲ・ルンドといったギタリストの複雑なポリフォニック表現も、スタート地点は、ここじゃないのかな。

たとえばジョー・パスのコピーをして、様々な曲を近いスタイルで弾けるようになったとしても、2声対位法的な弾き方ができるようになるかといえば、たぶんならない。反対にこのメロディーとベースラインのみの練習からはじめると、対位旋律的な表現だけでなく、ジョー・パス的なスタイルにもたどり着けるはず。

再び最初の譜例に戻ると…買ってきた楽譜にこういう感じのものがあったとして、「曲のしくみ」を理解せずに丸暗記してもたぶんあまりうまくいかない。ただこういうスタイルがあることを理解するのは有益だったりするので、上で書いたようなシンプルなことをやっていった結果、こんな感じで自然に内声もついてくるようになると理想的なんじゃないかな、と個人的には思います。

ソロギターのセラピー効果

ソロギターで曲を本当にシンプルなところからあらためてさらっていくような練習は、ある種「セラピー的な効果」があるような気がします。その曲のことが前よりもわかるようになるし、自分の感性も再発見できる。セブンスコードの重いボイシングで埋め尽くすより、サウンドも新鮮(コードクオリティが開かれているせいもある)。曲も自分も生まれ変わるような感覚になるんですよね。すごく気持ちがいい…

あとやっぱり、メロディーとベースラインだけで音楽的に聴かせる演奏は、絶対に目指すべきではないかと。小沼ようすけさんのソロギター本の”Hop”編の演奏、鈴木よしひささんの模範演奏を聴いてそれはあらためて思ったのでした。音を足していくとしても、自分のテクニック不足をごまかす感じ、空間が怖くて埋めていく感じになってはいけないんだ、と。音を足すというのは、そういうことじゃないんだ、と。

2声でこれくらい立派にできるようになりたい(これはデュオだけどw)。

下は”Darn That Dream”を弾くジュリアン・ラージ。華麗なイントロから始まってはいますが、テーマ(0:49〜)は基本的に2声の表現じゃないですか(コードもあるけど、やはり曲の骨格をすごく感じる)。これですよ、これ。道は遠いけれど、これは誰にでも許されているタイプの表現だと思います。時間はかかるけれど、誰でも自分なりの表現にたどり着ける道筋だと思います。

そして「曲の理解」と「ギターの理解」が結びつくと、こういう演奏が発生したりする… なんて最高なんだ…

ソロギターで曲をシンプルに弾き直してみるということは、ある種、音楽のリバースエンジニアリング的な面があるような気がします。複雑なものが紐解かれていくプロセスは、気持ちが良いです。ソロギター、気持ちいいですね! 時間がかかっても全然OK。自由探求だから楽しいし、残りの人生かけてやればいいだけなのだから。そしてシンプルな表現だからといって複雑な表現に劣ることも、ないはずなのだから。

ギタリストはチューナーを使って6本の弦を1本1本合わせないといけないの?

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朝起きてすぐ、でも、帰ってきてから、でもいいですが、チューナーを使ってギターをチューニングするとします。それは大切なことだ。私達はそのように教えられます。それは、基本だ。マナーだ。そういう思い込みを私達は持っていて、弾く前にちゃんとチューニングする。多くの場合、チューナーを使って。

チューナー

これは悪いことでも何でもないでしょう。チューナーを使ったチューニングは、間違いのない、確実な方法の1つと言えるでしょう。

チューナー

でも個人的に、そのことに微妙な違和感を持っていました。チューニングという行為自体は、必要不可欠だとは思うのです。でもチューニングを、チューナーのLEDの光や針によって、視覚的に確認していくという行為に、それが客観的で多くの人に迷惑をかけない便利なソリューションであることは間違いないとはいえ、ビッミョーに何か違うんじゃないか、というモヤモヤとした疑問を、感じていたのでした。

最近、ジュリアン・ラージがチューニングについてこんなことを語っているのを知って、ちょっと共感しました(原文を読みたい方は、John Zorn Arcana VIII: Musicians on Musicで読むことができます。ジュリアン・ラージがかなり興味深いエッセイを寄稿しています)。

僕は何年もチューナーにべったり頼って生きてきた。そしてチューナーが、お前の音は合っていると言ってくれたら、それを疑うことはなかった。

ある水準では、イントネーションというのはホーン・プレイヤーやヴァイオリニスト、シンガーが取り組まないといけない問題だと思っていた。チューナーを使ったギターというのは、そういうことから免れていると思っていた。

最近になって僕は、ある特定の音に、チューナーを使わずにそれに合わせられるかを試すようになった。驚くべきことに、僕はイントネーションを貧弱にしか理解していないことを悟ることになった。一般的な意味だけでなく、自分が使う特定のギターそれぞれについて。…

疲れている時、僕はフラット気味にチューニングするかもしれないし、コーヒーを飲んだら1弦のEはシャープ気味になる。こういうのはとてもパーソナルで、こういう好みを積極的に受け入れたほうが、いい結果をもたらすことがあるようだ。

僕は完全には音が合っていないことが多くある、だがその良い点は、僕がその楽器のことを学びはじめているということ、そしてその楽器が最高の鳴りで響くために、何が必要なのかを学びはじめているということだ。

ジュリアン・ラージはこの短い文章に、「1ヶ月のあいだ、チューナーを捨ててみる」というタイトルを付しています。これを読んでから、私も試しています。朝起きてすぐにチューニングとか、しない。何かと合わせて弾いていておかしいと思ったら、とりあえずA弦だけ合わせる。残りの弦は、耳でやる。

音叉

合奏者がいるなら、チューナーで合わせないとダメだよ、という方もいるかもしれません。そういう考えも、あるかもしれない。でもそうじゃない考えも、あっていいような気もします。

ひどい風邪をひいて、すごい熱が出ると、聴覚が無茶苦茶になるのを感じたことがある方は少なくないでしょう。もう音楽できないんじゃないか、と不安になるくらい、半音近く音が上下して聞こえることがあるじゃないですか(そのくらいひどい風邪は10年に1回くらいかもしれないですが…)。

主観を大事にしないといけない、という単純な話ではないと思うんですね。他人と合奏する以上、落としどころは見つけないといけない。でもその落としどころを、チューナーに見つけさせるのか、自分で決めるのか。このギターをどうチューニングするかを、チューナーに決めさせるのか。自分で決めるのか。そういう話だと思います。

チューナー

自分で「このチューニングでいい」と思ったら、最終的にはそれでいいんじゃないかと最近思います。たとえそれがチューナーで測った時に、メモリ0.5個分シャープだったりフラットだったりしても、ある程度の時間の中での演奏は、その程度の音程の上下の違いは、弦の押さえ方によって吸収できそうな気もします。というか、それが正解じゃないのかな、と。

チューナー

こんなことを書くと、音楽学校の先生に怒られそうではあります。けしからん、と。ちゃんと合わせろ、と。でもその「ちゃんと」って、何だろう、という話です。基準音は、絶対要るとは思いますが、そこから離れた音をどう調弦していくかは、やっぱり幅があるんじゃないか。

ジャズ・レジェンドたちの演奏を、スローで再生して音を拾っていく時、それはソフトウェアのスロー処理上の問題もちょっとはあるかもしれないけれど、音程がビッミョーなことが結構あるんですよね。それは、ノーマルスピードで聴いた時は何の違和感もなかったりする。でもスローで聴くと、採譜が半音間違ってしまうくらい音痴に感じることもある。

わりと揺れがあると思います。そして、その「揺れ」はリアルな何かの1つではないか。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

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ここ数年、いちばん愛用しているピックは自作です。自作というか、ゼロから作るのではなく、既存のピックを改造して使っています。なぜそんなことをしているかというと、自分が理想とするピックは市販品として流通していないからです。

これが現在、私が愛用しているピックです。D’Andrea Pro Plec PRO-351という既成品(写真右下)をベースにしています。厚みは1.5mmですが、縦の長さは大体20〜22mmになるように削っています。

理想のピックがなかったら、自分でつくればいいじゃない

ちなみにJim Dunlop JAZZ IIIシリーズが実測で縦25mm、BlueChip BC JAZZ 60が24mmくらいなので、このピックはそれらより2まわりくらい小さい感じです。

自分が求めているピックがどんなものかは具体的にイメージできています。ピックの形状による音色や弾きやすさの違いは下の記事でも触れましたが、私はダンドレア351の音色が好きだということがわかっていました。同時に、351は自分にはでかすぎることもわかっていました。大きさはJAZZ IIIくらいがいい。

ジャズギタリストのピック選び スルーされがちなピックのことを真面目に考えてみる
凄いステージを見てしまった後、ギタリストに「すみません、ピックは何を使っているんですか」などと聞くと「そんなことより音楽の質問をしてくれ...

しかしダンドレアにはJAZZ IIIくらいの大きさのティアドロップがラインナップされていません。この時、私は悟ったのでした。そうか、ならばつくればよいのだ、と。

右側のダンドレア351を、左側の大きさくらいまで削ります。これはやや使い古いした個体ですが、新たに「改造ピック」を作る時、過去に作ったこれらの個体を「型」として利用します。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

まず下のように、新品のダンドレア351の上に、「型」を重ねます。そしてはみだした部分を、ハサミでカットします。ジョキッ。というか、バチン!

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

左側もバチン。この時点でひし形のような形状に。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

上辺もカットします。全部で3回、ハサミを入れます。左側にある「型」に大きさが近づいてきました。右側にあるのはカット前のダンドレア351。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

このまま使ってもいいのかもしれませんが、私は指にあたる部分はなめらかなほうが好みなので、ヤスリで削ることにしました。まずこういう金属製のヤスリでガリガリ削ります。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

ダンドレア351はそれほど硬い材質ではないので、ガリガリというより、ゾリゾリ、という感じで簡単に削れてくれます。力は要りません。むしろ削りすぎに注意が必要な感じです。右側の部分をまるく削った様子。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

左側も同じようにまるく削ります。大体できました! この後、エッジが気になる個体はさらに目の細かい紙ヤスリで切断面を軽く磨きます。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

手間暇かけて作ったピックなので、専用ケースに大事に保管します(笑)。使う時はこの中から使用頻度が少なそうな個体を選び、ローテーションして使います。どれも同じ摩耗具合にしたいからです。1回の作業で10枚くらいまとめて作ります。年に1〜2回。これが私の普段使いのピック。気分に応じてBlueChipとかJAZZ IIIとかDAVAとか色んなピックを使いますが、いまのメインはこれ!

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

さて、先日とある親切な方が、ダンドレアからJAZZ IIIシェイプのピックが出てるよ! と教えてくださいました。これは朗報! もしそうなら、もうピックを改造する必要はないかもしれない…と思い、買ってみました。D’Andrea Pro Plec PRO-651。下の写真の真ん中のピックがそれです。

理想のピックがなかったら 自分でつくればいいじゃない

で、実際どうだったかというと、写真で見てもわかるように、私の自作ピックよりだいぶ大きかったんです。351よりは小さいですが、縦の長さが27mm弱。JAZZ IIIよりもひとまわり大きいくらいなのです。弾いてみても、私には質量が大きくて速く弾く時にひっかかりを感じます。そんなわけで、自分にとって理想のピックは、まだ売られていないのでした。

理想のピックがなかったら、自分でつくればいいじゃない

理想のピックがなかったら、自分でつくればいいじゃない。

ギブソンの新CEOに就任したのはリーバイスの元ブランド・プレジデント。今後ギブソンに何が起こるだろうか

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少し前にギブソンがCEOを募集していて話題になりましたが、新CEO、決定したようです(英文詳細)。ジーンズメーカー・リーバイスでブランド責任者を努めていたジェムズ”JC”カーレイという人物が今後同社の舵を取っていくことになります。下の写真を見ると、もうギブソンのTシャツ着ちゃってます(笑)。カッコいい人ですね。

James “JC” Curleigh, image from Gibson official site

リーバイスといえばいかにもアメリカな感じがするブランドだし、カーレイ氏の外見も音楽産業とは相性が良いように見えます。今後ギブソン社はカーレイ氏の方針の下で経営を立て直すことはできるのか。

カーレイ氏がどのような経営戦略を以ってギブソンの再建にのぞむかについては、まだ情報は何もありません。とはいえ少し気になるのが、リーバイスという企業がもはやアメリカ合衆国本土に工場を持っておらず、すべての製品が中国のようなコストの安い国に生産をアウトソースされているらしい点です。

かりに同じ方向性が取られるなら、ギブソンのギターは米国ではなく、エピフォン等のラインを手がける中国の青島工場で生産されることでしょう。北米でアーチトップ職人を大量解雇していることなどを考えると、これは現実味のあるシナリオのように思えます。

でもそうすると、ギブソンの廉価版という位置づけのエピフォンブランドとカニバリズムを起こすことになり、ギブソンブランドをどう差別化するのかがよく見えてきません。

海外掲示板Redditでもこの件について議論が行われていますが、興味深い会話を見つけたのでご紹介。

  • この男のことはあまりよく知らないけど、これはギブソンにとっていいことなのかどうか… ギブソンがいま必要としているのは、ノスタルジーをそそるようなブランド(a nostalgia brand)の経営が前職だった人間ではないのではないか。
  • そうは思わない。ギブソンはノスタルジア・ブランドだよ。ギブソンが必要としているのはまさにそれだ。イーサネット搭載ギターのようなギミックに注力するのではなく、いちばん得意なことに注力する会社に戻すような人間が必要なんだ。人々がギブソンを買うのは、時代を超えた、クラシックな楽器が欲しいからだよ。

ノスタルジア・ブランドであるリーバイ・ストラウスの社長がギブソンのCEOに、と考えると、ある種の安心感はあります。それと同時に、リーバイスがもはや北米で生産されていないことを考えるとビミョーに不安な気分にも。

いや、待って。だからこそこの人に白羽の矢が立ったのか。

タイムレスな価値を持ったクラシックな楽器を提供するというギブソンのコア・バリューを維持しつつ、これまでよりもコストエフェクティブな環境で製品を開発・製造していくというミッション。これは誰がやっても難しい仕事ではないかと思います。同時に、やりがいもありそうな気がします。クリエイティブな仕事ですよね。

伝統を維持しつつ、革新も少しは取り入れていかないといけないでしょう。でもフェンダーみたいにネットワーク対応型のアンプを作る、みたいな方向性を真似しても仕方ないだろうし、かといってレスポール・スタンダードとES-175だけ作っていても明るい未来はなさそう。これは難題だと思いますが、個人的にはそんなに悪くない人選かな、という気がしました。皆さんはどう思われましたか。


なんかいろいろおかしいと思ったらドレイクに聞けばいいんだよ

私がよく見る欧米の音楽解説系YouTuberたち

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私が最近よく見るようになった欧米の音楽解説系YouTuberたち6人をご紹介します。なぜこの方たちの動画を観るようになったかというと、何か調べていて自然にたどり着いたり、あとはYouTubeのオススメに上がってきたりしたのでした。どの方のチャンネルにもクオリティの高い動画が大量にアップされているので、興味を持ったものから視聴されてみてはどうでしょうか。

Adam Neely

アダム・ニーリーは欧米の音楽解説系YouTuberの中でいま最も熱い男といって良いような気がします。特にジャズに特化しているわけではないもののバークリーに学んだベーシストで、鍵盤や電子楽器の扱いにも長けています。YouTuberデビュー当時から知っているわけではないですが、初期はごくごく普通のベースレッスン動画をアップしていたらしいのが面白い。

現在彼が扱うテーマは中世教会音楽から現代音楽まで非常に幅が広いです。制作前に徹底的にリサーチしている感じで動画の編集にも時間がかけられている印象。そのせいかアップされるのは週に1本か2本。高い知性と豊かな教養を持ち、おバカなことをやる余裕もある。私はこういう人好きです。

彼は非常に早口で喋るのですが、滑舌の良い明瞭な発音で、全く淀みない論理的な語り口なので内容が理解できなかったことはありません。音楽の歴史の全てを語りつくそうとしているかのような野心が感じられます。なおちょっと前まで丸刈りでしたが最近髪を伸ばしはじめました。丸刈りのほうが私は好きでした。イケメンなだけでなく声もいい。何より人間的な魅力があります。

Jens Larsen

イェンス・ラーセンはデンマーク出身で現在はオランダ在住のギタリスト。いわゆる「ジャズギター」にほぼ特化したYouTuberで、最近は5〜10分程度のコンパクトなレッスン動画・演奏解説動画が多いです。毎回ポイントが絞られていて、情報価が高い。しかも毎日のように動画が出ます。王道のジャズギターレッスン系YouTuberという感じでしょうか。

北欧出身の方らしく迷いのない早口の英語を話すものの、日本人の耳にはやや聴き取りにくい発音かもしれません。特徴的なのは”z”が柔らかい”s”のようなサウンドで発音されること。彼が「ジャス」という時それはJazzで、「プレイスライク」はplays likeだったりする。でも慣れると聞き取れるようになります。

動画はかなりテンプレートに沿ったつくりで、中盤にチャンネル登録・シェア・いいねしてね!という文字による宣伝が入ります。YouTube動画によくあるタイプの構築法です。直球勝負の王道的かつ真面目な内容で、見て損をした、ということがまずありません。ハメを外したおふざけ動画はなかったと思います。

Rick Beato

リック・ビアートは過去にビルボード入りしたヒット曲に共通するコード進行の話、ダブル・ハーモニック・マイナーという謎スケールの解説、ギブソンの倒産についての友達との雑談等々、守備範囲がかなり広いYouTuber。ピアノとギターを少々弾く方と思われます。ジャンルもポップスやハードロックから現代ジャズ、映画音楽と幅広い。

滑舌が良く聞き取りやすい英語を話します。論理的な喋り方なので何を言っているかわからないということもあまりないです。世の中にモノ申す系の動画もあり、そのシリーズでは「最後にモノ放り投げる」というお約束アクションがあります。例えばアップル社を批判する動画の最後では、これまでに買ったiPadの箱を床に音を立てて落としたりしていました。

少しやんちゃなところのある強烈なキャラクターの持ち主だけにアンチも少なからずいるようですが、憎めないところがあるおじさんで私は好きです。

Jazz Duets

Jazz Duest氏は南米アルゼンチン在住のサキソフォン・プレイヤー。動画ではソプラノサックスがよく演奏されていますが、ギタリストを意識した動画も多いです。奥様はピアニスト。この方の動画は驚くほどクオリティが高いです。エデュケーションとエンターテイメントが一体となったエデュテイメント的なテイストのある内容で、単なる教則動画を超えている感じがします。

とにかく動画自体に不思議な作品価値を感じてしまいます。丁寧なイラストが多用され、編集も凝ってます。最近顔出しするようになりました。最近ファンがかなり増えてきているようです。こういう一見地味な方が評価されていくのは見ていて嬉しいですね。

Nahre Sol

ナーレ・ソルはジュリアードに学んだピアニスト。クラシック畑の人で、「クラシックの人間から見たボサノバ」や「クラシックの人間から見たブルース」のような面白いタイトルの動画があります。韓国系の方と思われます。

ショパンの曲から取り出したオブリガードを素材にミニマルミュージックを制作したりと、他ではあまり見られない発想の動画が多いです。ピアニストは勿論、ギタリストが見ても面白いと思います。

Samuraiguitarist

ここ最近メキメキと頭角を表しているのがサムライギタリスト。カナダ出身で、日系人らしい。幅広いジャンルに対応したオールラウンダーな感じのギタリストで、ジャズの訓練も受けているそうです。ブレのないタイトなグルーヴの演奏をする人で、熱狂的なファンが増えている模様。

動画で扱っている内容は幅広く、ギター用ガジェットのレビューからギターの試奏、ミュージシャンとしての心構え、視聴者からの質問に答えるQ&Aシリーズなど多岐に及びます。コンパクトな動画の中に多くの情報を詰め込むハイ・デンシティな手法はアダム・ニーリーの影響でしょうか。面白いYouTuberは皆、飽きさせずに最後まで見せる工夫を凝らしています。

基本的に笑わないのはサムライというキャラ設定ゆえか… たまに背後に置物や掛け軸が写ったりするのですが、それが日本風というより中国風に見えることがあり、信頼が揺らぎそうになるものの真面目でまともな人だと思います。インスタグラム世代のユースという感じで、良いものは良い、嫌いなものは嫌い、という是々非々な態度が面白い。

最後に

ここで紹介した6人は相互に響き合うところがあるらしく、たまにお互いをゲストに招いてコラボ動画を制作したりもしています。そうすることで単純にお互いのチャンネル登録者数を増やせるという大人の事情もあるのだろうけれど、それよりも楽しんでやっている感じがあって面白い。

彼らは本気の職業YouTuberです。片手間でこれらの動画を制作するのは無理でしょう。これは彼等の職業であり、メインの収入源でもあるはず。現状、音楽の演奏や音源の販売だけでは生活が立ち行かないという悩みは世界共通。その中で生き残るためにYouTubeに進出し、独自の動画表現を洗練させてきたこの人達に学ぶことは、音楽以外にも多いです。

カッコいい演奏は、いつも何かがズレている

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自分がカッコいいと思う演奏は、ほとんどの場合、何かがズレています。たとえばフレーズの開始点が、普通とはズレている。「そういうフレーズは、1拍目の裏の8分音符からはじまることが多いのに、1拍半休んで2拍目のウラから入った」。それで、そういう効果を狙って、即席でこしらえたフレーズを、音高も音価もそっくりそのまま、開始点だけズラして弾く練習をしてみる。

これはリズミック・ディスプレイスメントの話。でも、「ディスプレイスメント」(ずらし)にはリズム以外の種類もあります。

自分がカッコいいと思う演奏をコピーしていると、フレーズが4拍おきや2拍おきに変化するコード進行とは、ズレていることがあります。わけのわからないアウトした音がたくさん鳴っている。いったいなぜそのコードでその音使いが可能なのか、分析できない。しかしそのフレーズは、やがて後続のコードと出会った時、魔法のようにストンと落ちる。

そういうのは、プレイヤーが小節線を超えて、ハーモニーを先取りしたり、引き伸ばしたりしているからであることに、ようやく気づく。

イェンス・ラーセン氏の上の最新動画は、パット・メセニーのそういう「小節線を超える表現」のことなどを説明しています。やっぱりカッコいい演奏にはこういうズレがある。ちなみに、この”I can see your home from here”というBbブルースはジョン・スコフィールドとの共演で、ラーセン氏によるジョンスコの演奏解説ついては下記事で紹介してあります。

ジョン・スコフィールドと歌えないラインの魅力
デンマーク出身で現在はオランダに活動拠点を置くギタリスト、イェンス・ラーセン氏。YouTubeに10分前後のレッスン動画を精力的にアップされ...

こんなふうに、バッググラウンドで流れるコード進行に支配されず、自分がハーモニーを決定していくことの重要性は、多くのギタリストが口にしているような気がします(マイク・モレノもちょっと違う文脈で触れていた)。

カッコいいな、と思うものは、何かズレていたりする。リズミック・ディスプレイスメントもそう。そして「小節線を超える表現」。これは、そういう言い方は聞いたことがないけれど、「ハーモニック・ディスプレイスメント」と言っても良いのだろうか。

ちょっとググってみよう。Harmonic displacement.うん、やっぱりそんな言葉は存在しないようだ。

“Playing over the bar line”で検索すると、外国のサイトがたくさんヒットします。

それで、自分でもこういう練習をしてみます。いろいろズラします。フレーズの開始点をズラす。着地点をズラす。コードが切り替わるタイミングをズラす。音を1オクターブ、ズラす(オクターブ・ディスプレイスメント)。

そうそう、オクターブ・ディスプレイスメントといえば、オズ・ノイも教則動画で紹介していたけれど、Jazz Duets氏も先月この動画で紹介していました。

何でもいいからあるスケールを用意する。そのスケールを上っていく。ただし、1つおきに音を1オクターブ上げる、という練習法。メジャースケールでこれをやると、結果的にM9とb9とM7とb7のインターバルが出てくる。楽しい練習だ! 慣れたら下降もやります。

そんなふうに、いろんなものをズラして、アドリブ練習してみます。そして、自分の演奏をICレコーダーで録音します。

Coffee cup, IC recorder

でもここで、うーむ、と顎を撫でることになります。なんか…なんか、カッコよくない。何かをズラした俺の演奏は、あんまりカッコよくないぞ。なぜだ。

そして気付かされます。俺はリズムが悪いのだと。何かをズラした表現が成功するのは、リズムが本当に良い時だけなのだと。何かちょっとでも指が動かなかったり、迷いがあったりしてポケットを外していると、全然サマにならない。

というわけで、ちょっとズレた表現を目指せば目指すほど、リズムにキレがないといけないことに気付かされます。これは逆を言うと、小節線を超えない表現、コードネームの変化に合わせて律儀に音の選択を変えていく演奏をしていれば、ハーモニーがある程度リズムの弱さをカバーしてくれる、ということなのでしょう。

だから、そういう演奏ばかりしていると、リズムもあまり磨きがかからないのかもしれないな、と思ったのでした。

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サムライギタリストが語るギタリストあるある21連発

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サムライギタリストの最新動画、面白くてニヤニヤしてしまいます。「ギタリストだけが直面する問題」というタイトルですが、すぐに大爆笑というより、じわじわくる系のジョーク動画なのです。まずはご覧ください。

  • 君のバンドはアンコールを準備していたが誰もアンコールをリクエストしなかった
  • 君がアコギからピックを取り出すために要している総時間はかなりバカげたものになりつつある
  • 女の子をステージに上げて踊らせるのはクールだと思っていた。予備ではないギターのうち1本がスタンドから倒れ落ちるまでは
  • アルバムというのは満足が行った時に完成するものだと君は思っていた。実際は予算が尽きた時にそれは完成する
  • 君はついにギターがうまくなった。そして君は自分がギターには向いていないことを理解した
  • ネズミの巣みたいにゴチャゴチャしたものの中で何か接続が切れている。それは君のエフェクターボードだ。原因を探るのは楽しいかもしれない
  • 君の前回のギグを撮影した写真家の仕事を時間をかけて眺めた結果、どの写真もFacebookのプロフィール写真に使えるものではないことが判明した
  • 君がインスタでフォローしているギタリストはみんなインスピレーションを与えてくれるが同時に君はギターをもう手に取ることはないだろうと思ってしまう
  • バンド練習にやってきた君は君のためのマイクがないことを知る。君のバンドは君が思っているほど君のボーカルを評価していない可能性がある
  • ヴィンテージのレスポールにドリルで穴が開けられフロイドローズが取り付けられているのを見た日、君は人間を信じることをやめた
  • 君がヴィンテージ・レスポールにほどこしたフロイドローズ改造には誰も感心していないらしい
  • 君は蓋を閉じることなくギターケースを持ち上げてしまった。そしてそれははじめてのことではなかった
  • ギグの前に飲むビールは7本がスウィートスポットだと思っていた。実際は2本くらいが良かったことが判明する
  • 君はYouTubeで教則動画を見た。以後、髪がお団子の同じ馬鹿野郎による動画をオススメされ続ける
  • 君は自分のギターがジェントリーにウィープするというより、恐ろしく悲惨なものから抜け出すために苦しみながら叫んでいるようなものではないかと密かに疑いはじめている
  • 君は18歳の時にお気に入りのバンドの名前をタトゥーしたが31歳になると彼らはもはや絶対に君のお気に入りバンドではない
  • ヘッドバンギングで痛めた首は30代になるとマジで深刻な問題となる
  • 君の本棚は高価な教則本でいっぱいだが君はそれを1度開いてから2度と見ていない
  • 君の元カノが他のギタリストとデートしているようだ。そいつは間違いなく君よりも優れたミュージシャンだ
  • 撮影の時に君は複雑に見えるコードを押さえるよう全てのショットで入念に配慮した。しかし1度だけ君はオープンCを押さえてしまいそれがアルバムカバーに採用された
  • 君はBOSSのエフェクターを全部売り払って金をたくさん足してブティックペダルを買った。音の違いがよくわからない

これの何が面白いかと言うと、わりと一瞬「ん!?」と思うような、ちょっとひねった感じのワーディングで文章を作っているのですが、それを早口で矢継ぎ早に語り続けるので、ようやく1つを理解する頃にはすでに次のジョークが開始している、という具合。ジェットコースターで怖いところを通過した途端、またいきなり急降下、みたいな感覚です。動画の作り方、うまいなーと思います。

正直になり、自分の内側にあるものを弾き、そしてみんなから盗む - John Scofield

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2014年のThe Irish Timesにジョン・スコフィールドのインタビュー記事があり、読んでいたら面白いエピソードがあったのでいくつか抄訳でご紹介します。

Author: Tore Sætre License: CC BY-SA 4.0

彼はビル・エヴァンスやセロニアス・モンク、マイルス・デイヴィスがマンハッタンのクラブで演奏するのを見た時のことを思い出している。しかし哀しそうに微笑みながら、ジョン・コルトレーンのライブを見逃したことも思い出した。なぜならその時ウェス・モンゴメリーが道向こうの別のクラブで演奏していたからだ。

「そのコルトレーンって誰だよ?」彼は若かった頃の自分を非難するように笑って言った。「俺はウェスを見に行くぞ」。

ジョンスコがウェスやビル・エヴァンスをライブで見たエピソードは知っていましたが、こんなふうにコルトレーンを見逃したという話ははじめて聞きました。後になって相当悔やんだのではないでしょうか。

(バークリーに通うようになってから)一ヶ月もたたないうちに僕はビバップ・スノッブになっていたよ。ブルースのレコードを全部片付けて、ベレー帽をかぶってでかいギターに太い弦を張るようになったのさ。

大型のフルアコを買ったのでしょうか。たぶん誰しも一度は大きいフルアコを買うのでしょう。ベン・モンダーでさえチャック・ウェインに学んでいる頃は大きいジャズギターを抱えていたといいます。最初はやはりこのスタイルに憧れるのでしょう。ベレー帽って誰の影響でしょうか。グラント・グリーンかな? ジョンスコみたいなすごい人でもいわゆる「かたちから入った」のが面白い(笑)。

そしてゲイリー・バートンと毎晩のようにセッションしていたジョン・スコフィールドはある日、今ではよく比較されることになったある有名ギタリストの話を聞かされます。

「ある日、ゲイリーが部屋に入ってきて言ったんだ。『ミズーリからやってきた16歳の少年に会った。そしてそいつは、お前より上手い。』」

その少年の名はパット・メセニーだった。スコフィールドとメセニーは、バークリーの同窓生であるビル・フリゼールと並び、しばしばコンテンポラリー・ジャズ・ギターの「ビッグ・スリー」と形容されることがある。しかしスコフィールドはこの表現をはねつける。

「その言い方は嫌いだ」と彼は言う。だが不機嫌な言い方ではない。「それは1975年のビッグ・スリーなんだ。すごいギタリストはまわりに山ほどいたよ。それにジョン・アバークロンビーがいた、彼は僕たちより前にそれ(コンテンポラリー・ジャズギター)をやっていたんだ。」

これは面白いエピソードですね。ゲイリー・バートンは通勤ラッシュに疲れていて、なら人が少なくなるまで僕の家に遊びにきませんかと誘ったジョンスコのアパートで、他の生徒たちとセッションしていたんだそうです。それにしても「お前より上手い」ってストレートですね。ジョンスコはどんな気持ちになったんでしょうか。でも時代を代表する2人になりました。お互いに良い刺激を与えたんでしょうね。

僕が最初にこういう音楽に深く感動したのは、ブラック・ミュージックだったんだ、レイ・チャールズやジェイムス・ブラウン、BBキングといった連中さ、ラジオでかかっていたんだ。…

彼らはアート・ミュージックを演奏していたわけではない。僕は、あれはアートだと思う。でも彼らはアートを目指してやっていたわけではない。

でもね、ポピュラー・ミュージックとアート・ミュージックを区別するってことは、昔からあるけど間違っているよ、それは正しかったことがない。かなり意識的にアート・ミュージックを指向していたものは、意識的にポピュラー・ミュージックを目指していたものと同じくらいうまくいっていなかったよ。

ブルースやジャズをアートと言ってはいけない。そんなに偉いものではないだろう、という意見をたびたび目にします。このテーマについてのジョン・スコフィールドの回答は個人的に納得が行くものです。やっている人はアートだと思っていなかっただろう。でも僕にとってはアートだ。いいこと言うな、と思います。

「僕たちがアーティストとしてやろうとしていることは、僕たちがどこからやってきた人間であれ、正直になること、自分の内側にあるものを弾くことだと思う。あと」

彼はにやっと笑ってこう付け加えた。

「盗めるようならあらゆる人から盗むことさ」

元記事のタイトルは “Be honest, play what’s inside, steal from everyone you can” となっています。いいインタビューですね。

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