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ストラトキャスターというヤバい楽器についての雑感

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いま、知人からストラトキャスターを預かっています。フェンダー・ジャパンの廉価モデルらしいです。雨の夜にやって来て、理由は聞くな、とにかく預かってくれ、とのこと。警察に追われているようでした。その後、連絡が取れません。

ストラトキャスターでジャズを弾くと実刑は免れないので私も手元に置いておくのは怖いのですが、ストラトは過去に自分で買ったこともなく、じっくり弾いてみたこともないので興味津々で試しています。改めて思うのですが、フェンダーの楽器はギブソンと全く違う個性があって驚かされます。

ストラトキャスターというヤバい楽器についての雑感

ロングスケールのこと

まずスケールが長い。ミディアム・スケールのフェンダー製ストラトもあるようですが、普通は25.5インチのロングスケール(648 mm)。ギブソン系は24 3/4インチ(628.65mm)なので、やはり長く感じます。ローポジションでのコードが少し弾きづらくなる反面、12F以上のハイポジションでもフレット間が広いのでこっちは弾きやすい(指が渋滞しないw)。

参考:エレクトリックギターのスケール長は主に下の3タイプ。

  • ロングスケール:約648mm (647.7mm = 25 1/2インチ)
  • ミディアムスケール:約628mm (628.65mm = 24 3/4インチ) 
  • ショートスケール:約609mm (609.6mm = 24インチ)

ストラトキャスター、テレキャスター、ジャズマスターはロング(レギュラースケールとも言うらしい)。ギブソン系は大体ミディアム。フェンダーでもムスタングやジャガーはショート。ちなみに箱物だとGibson L-5がロングスケール、バードランドが23 1/2のショートスケール。

ロングスケールになるとピッチが安定すると聞きますが、それは確かに感じます。気持ち良いですね(同じロングスケールのテレキャスターでもそれは感じる)。プレイヤビリティとしては、まぁ慣れればロングスケールでも困ることはないかなと思いました。

ネックと指板のこと

いま預かっているそのストラト(モデル名不明)については、ネックは細めのものみたいでわりと弾きやすいです(恐らく”Slim C”というタイプ)。フェンダー系のネックは12F付近から丸太のように太くなるものがあって、あれだとハイポジの4〜6弦側が弾きづらくなるのですがこのギターならOK。そしてネックへの弦振動が気持ち良い。

でも問題は指板のアールです。フェンダーの標準的な7.25インチ(184.1 mm)のアール、「184R」というタイプらしいのですが、これはギブソンの305Rに慣れていると弾きづらいなぁと感じます。慣れかもしれないけど、1〜2弦と5〜6弦の弦高がより低くなるのでピッキングが難しい。個人的にはもっと平坦なほうが好み。弦高も下げたいし。

同じストラトでもモダンなコンセプトのモデルや、日本のフジゲンのモデルなどにはもっと平坦なアールのものもあるようです。ストラトの音色に興味はあるけど弾きづらい…と感じる方はそういうものも試奏するのも良いのではないかと思いました。

トレモロ・ブリッジのこと

いや、これは驚きました。トレモロ・アームはいま付いていないのでただのブリッジとして機能してくれれば良いのですが、友人は.009-などという違法ゲージを張っていたらしいので黙って.011-のセット(Elixir NANOWEB Medium .011-.049)に交換しました。するとチューニング中に バキン! という音がしてブリッジが浮きました。

やべっ、壊しちゃったかな、と一瞬焦りましたが、ギターの裏蓋を開いて、2本のネジを締めてスプリングの張力を上げました。なんて面倒臭いギターなんだ… でも、これでこのスプリングの種類とか本数とか掛け方にこだわる人がいる理由を理解できました。構造を考えるとこれは音に影響するパーツでしょう。弦振動、拾ってます。

「この世界に深入りしてはならない。」 ー 僕は自分にそう言い聞かせ、そっとキャビティのカバーを閉じた。人生には知らなくても良いことがたくさんある。

ピックアップのこと

音色をいろいろ試してみて、面白い発見がありました。セミアコやフルアコなら何も考えずにフロントピックアップを選ぶのですが、どうもストラトだとネックとセンターのハーフトーンが良い感じに柔らかくて好み。ネック側のみも良いけどやや出力が強くて硬質な感じ。音色が多いなー、と感心しました。これは楽しい。

そしてリア・ピックアップにはトーンコントロールがありません。えっ、ないの!? と最初驚きました。リアは多分使わないからいいけど、本当ヘンなギターだ(笑)。

でも音色以外の問題が。私の弾き方だとセンターピックアップにピックが当たってしまうのです。ピッキングが雑なんだろうけど、これは厳しい。なのでセンター・ピックアップをボディ面とツライチになるくらい下げました。するとハーフトーンの魅力が…ということになりますが、このあたりのバランスが難しそう。

ポールピースの高さを独立して調整できないことにも困惑。3弦が巻き弦しかなかった時代の名残りでこうなっているとのことですが、.009-のゲージで弾くと2弦のボリュームが低くて困りました。でも.011-に換えたらそこまで気にならなくなりました。このあたりの調整代がないあたりもギブソンとは大きくコンセプトが違います。

ボディ形状のこと

ストラトキャスターは弾きやすい、とこれまで多くの人に聞かされてきたのですが、今回じっくり弾いてみてその意味がわかりました。ボディ形状がすごく良いんですよね。コンター加工といって、ボディ上側が肋骨あたりに当たっても痛くない感じにフィットします。あと右腕の肘が良い感じにボディの上に乗る。ハイポジションへのアクセスもすごくラク。ストラトはハイポジションを弾きたくなるギターだ、と思いました。

ペグのこと

これはテレキャスターもそうですが、フェンダー系の頭に穴があるこのペグ、弦交換がギブソン系より楽ですね。巻く前に先端をペグ2.5個分余分に残してあらかじめカットする必要があるので、出先では常にニッパー持ってないといけないと思うけど、カットした後の巻きはこのタイプのほうが早いです(私の場合)。何というか効率的。

雑感まとめ

じっくり弾いたのはまだ数日程度なのですが、フェンダーとギブソンは全く別物だな、とあらためて感じます。同じソリッドでもレスポールなどとも全くコンセプトが違う。

そういえばジャズ系の人でストラトをメインに使っている人は少ない。テレキャスターは結構いるけど、ストラトはニア・フェルダーくらいしか思い浮かびません。ビル・フリゼルもむかし使っていた。アダム・ロジャースもたまに。たまになら使う、という人はわりといるのかも(実は日本にも最高にかっこいい若手のストラト使いの方がいて、私はファンだったりします)。

ニア・フェルダーは13歳の時に$250で買ったフェンダー・メキシコのストラトが今でもメインだそうです。ステーヴィー・レイ・ヴォーンのファンなのでゲージは.013-を愛用とのこと。ギターはやっぱり調整とセットアップが大事ですね。フェルダーの音はすごく好き。ブースター・ペダルも使っているらしいけど、すごく良いですね。

そしてある夜

そしてある雨の夜、ピンポンと呼び鈴が鳴って、ピザの宅配のフリをした帽子で目を隠した男がドアの隙間からこれを渡してきました。実は.011-のゲージを張った時ブリッジが持ち上がってしまって、スプリングが3本だと足りないのかな、と色々調べていたら(結局3本でもOKだったんだけど)、音色が良い感じに変わる面白いパーツとして評判だったので注文していたのでした。

RawVintage Tremolo Springs RVTS-1

もともと入っていた3本のスプリングのかわりにこれを5本インストール。ネジは思い切り締めなくても.011-ゲージでブリッジ浮きはなし。面白いですね、やはり音色が変わります。ストラトってマイクロ・リバーブ・ユニットが内蔵されたギターみたいな感じですね。このあたりはテレキャスターにもない魅力かも。

こういうパーツなんかにハマっちゃいけないんだ。このRawVintage Tremolo Springs RVTS-1はジャズギター取締法で危険パーツに指定されている。こういうものを買ってはいけないんだ。

RawVintage トレモロスプリング RVTS-1 / Tremolo Springs
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あなたがレスペクトするジャズ系ギタリストは?

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このブログを読んで下さっている皆様に、宜しければ是非ご投票いただければと思います。お題は「あなたがレスペクトするジャズ系ギタリストは?」です。人気投票というよりも「このギタリスト、結構多くの方が投票しているけどあまり聞いたことがないな、聴いてみようかな!」という発見に繋がれば良いなと思っています。

Jim Hall
Photo by Tom Beetz / CC BY-SA 2.0

皆様が愛してやまない、レスペクトしている、規範としている、心の中で神と奉っているギタリストにご投票いただければと思います(お一人様一回のみ、複数のギタリストにご投票いただけます)。なお日本人ギタリストの方はリストに含めていませんのでご了承下さい(角が立ちますので…)。

リストは可能な限り広範なもの(現時点で107人)にしたつもりですが「この人がリストに入っていないのはおかしい」といったご意見がありましたら、お手数ですがコメント欄からご指摘いたただければ幸いです。途中からでも追加したいと思います。皆様のご投票お待ちしております。

(追記:リスト末尾にMary Halvorson, Charles Altura, René Thomas, Peter Leitch, Rick Stone, Frank Gambale, Graham Dechter, Ron Escheté, Mundell Loweを追加しました)

Note: There is a poll embedded within this post, please visit the site to participate in this post's poll.

新世紀マイルス語録(6):ホタテにも裏と表があることを忘れるな

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ホタテを網に乗せようとしたその時、素朴な疑問がふと脳裏を過ぎったのだった。ホタテには裏と表があるのだろうか? どちらから先に焼くべきなのだろうか?

新世紀マイルス語録(6):ホタテにも裏と表があることを忘れるな

そんなことはどうでもいい。世の中の全てについて些末な疑問を持ってしまうと疲れ切ってしまう。ホタテなどただ黙って焼けばいい。裏から焼いても表から焼いても誰も困りはしない。と思ったその瞬間、後頭部をバットで殴られたような衝撃を感じ、僕は口から泡を吹いて白目を剥いた。リバーブのかかったマイルスの声が脳内で反響する。

You lazy idiot… 怠惰な馬鹿者め…ホタテにも裏と表があるのを知らないのか…ホタテはまず面が平らな表から網に置き、放置する…十分に焼けたら、そう、機が熟したら…貝は勝手に開く、こんなふうに…ホタテ本体が上にくっついているのを、見逃すな…下が表で、上が裏だ、ホタテのこの不安定な感じ、浮遊感… これは IIb、つまり裏コード なのだ…

新世紀マイルス語録(6):ホタテにも裏と表があることを忘れるな

大切な汁が滴り落ちてしまわないようにトングで貝を閉じ、上下をひっくり返す…すると今度はホタテが安定する… 増4度でひっくり返されたIIbが、Vになった、ということだ…グツグツとしたドミナント状態であることに変わりはないが、妙な安定感がある…ここにIIbの心躍る浮遊感は、もはやない…not very interesting to me…俺には少し退屈なサウンドだ…

新世紀マイルス語録(6):ホタテにも裏と表があることを忘れるな

だが、どんどん流れ出してくるホタテのうまみが凝縮された汁をたっぷり受け止められるのは、この形態以外にない…上下が逆なら、汁はあっという間に流れ出してしまう…それはグルーヴのない音楽のようなものだ…だからホタテに関しては…あくまでホタテに関してだが…IIbは極力使わないほうがいい…

新世紀マイルス語録(6):ホタテにも裏と表があることを忘れるな

はっと我に返る。周囲を見渡したが、マイルスの姿はない。普段マイルスの姿が見えなくとも、僕たちは安心してはならないのだ。何事にも正解はある。しかしその正解がいつでもどこでも通用するとは限らない。その時々で、何が正しいかを観察に基いて判断しなくてはならない。即興、そして人生は、間断なきデシジョンの連続なのだ。

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デジタリー・リマスタード・アナログレコードという不思議なブツ

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先日この記事で触れたION Audio Archive LPという6800円のレコードプレーヤー、その後もずっと活躍しています。先日、子供の頃に聴いていたものをあらためてレコードで聴き直したくなり、下の写真のレコードを買いました。Led Zeppelin Iです。

デジタリー・リマスタード・アナログレコードという不思議なブツ

amazonでヘッドフォン等と一緒に購入すると安くなるセールをやっていたのであまり調べずに買ってしまったのですが、注文後にデジタルリマスター版(2014)であることを知り、しまった、と思ったのでした。というのも私が最近アナログレコードに興味を持っているのは、サンプリング処理されていない音を聴きたいからなのです。

せっかくアナログのマスターテープが残っているのなら、それをデジタル処理して再びアナログレコードに落とし込むなどもっての他、ジミー・ペイジは何故そんなバカなことをしたのだろう、と思いつつ、懐かしいこのレコードに針を落としました。すると…

デジタリー・リマスタード・アナログレコードという不思議なブツ

なんじゃこりゃー!メッチャいい音じゃん! しかもCDみたいなつまらない音じゃなく、記憶の奥底に眠っていた、あの柔らかくも生々しいツェッペリンの音がする…これは…と調べたら、どうもアナログを意識したデジタルリマスター処理がなされているらしい。具体的な処理方法は不明ですが、良い感じの音なのは間違いない。

ただ、やっぱり比較してみたくなったのでした。11歳か12歳の頃、はじめて自分で買ったLed Zeppelinのアルバム。アナログで聴いたあれをいま聴いてみたい。そこで新宿Disk Unionへ。でもLed Zeppelin Iのレコードは見当たりません。しかし壁にこんなものが。あったあった、Led Zeppelin I。これは間違いなくアナログ。買うしかない。

デジタリー・リマスタード・アナログレコードという不思議なブツ

買うしか…か、かか…

デジタリー・リマスタード・アナログレコードという不思議なブツ

日本でプレスされたものはもっと安いようですが、それでも現在は1万円以上することもあるのだそうです。上の写真はUKオリジナル版。まぁ音は日本でプレスされたものとそう違わないと思うのですが、希少価値が付いてこの価格。安いギブソンのレスポール買えるじゃないですか。思い出はプライスレスとはいえ、これは無理。

ところでMick Goodrickの言葉に、とても好きなものがあります。それは

Don’t neglect your musical roots.
自分の音楽的ルーツを軽視しないように

という言葉。私がギターという楽器を弾きたいと思ったのは、ジミー・ペイジのギターを聴いたから。もうずっとハード・ロックを聴かなくなっていたのですが、レコードで聴くとやっぱり良いです。ただ、CDやmp3で聴いても何故かつまらない。原体験がアナログだったから、だけなのかな。

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映画「海は燃えている」を観て思ったこと

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先日、海は燃えているという映画を観ました。イタリアの小島に、アフリカ諸国からの難民が命を賭す思いで漂着する。その島には、そうした事態とは全く関係のない日常があり、人々が静かに暮らしている、というドキュメンタリー映画です。下はその予告編動画。

この映画を観終えて、戸惑いの混じった複雑な気持ちで劇場を後にしました。私はこの映画に感動したのか、しなかったのか。そうした問いに答えられるとも思わないし、答えたいとも思いませんでした。しかし、映画館の入口には様々な「文化人」や宗教家、アーティスト、各界の有力者たちによる賛辞の言葉が紹介されていました。

彼らは一様に、この映画はすごい、感動した、と言います。その論調は一様にヒューマニスティックな観点からのもので、博愛を中心とする西欧キリスト教的価値観に根付いたものです。

私にとってその光景は、何処か奇妙なものに見えました。

この映画に対するコメントを書いたそうした著名人のことを、あんたらバカじゃないのかと思ったとか、そういうことではありません。もしそうだとしたら、それは私自身の傲慢さ以外の何物も意味しないでしょう。

それでも私は、思ったのでした。このドキュメンタリー映画は、日本人の私たちに理解できるものなのだろうか。あの島に住む少年にはわかるかもしれない。しかし私達日本人に、これは本当に受け止められるのだろうか、と。

映画の中で平穏な日常生活を送っているイタリア人少年・老人たちに感情移入したとしても、この映画を理解できるのだろうか。7日間、ぎゅうぎゅう詰めの船底に押し込められて脱水症状になることもなく、灼熱のサハラ砂漠を横断する必要もない私達日本人。そうした私達自身と、あのイタリア人少年、敬虔なキリスト者である老人たち、医師を置き換えて観ることは、できるのだろうか。

でも、それはこの作品を受容するための、本当に正しい方法なのだろうか、と私は疑問に思いました。この映画を撮影した監督の意図、イタリアの離島の平和な日常に、どう考えても日常ではありえないような暴力と死、恐怖が恒常的に隣接しうるというコントラストを描くということ。それは私達日本人にとって、理解が可能な内容なのだろうか、とやはり疑問に思いました。

私自身のとりあえずの結論は、現在の日本人、いや、その言葉で語弊があるなら、現在日本人である私という個人にとっては、これは絶対に理解できないものだし、「これは理解できる」などといった安易な共感を示してはいけない映画だと思った、ということです。平和な国・日本で、喉が渇いたら水を飲めてお腹が空いたらおいしいものを食べられて、ワイドショーで第三世界の不幸について同情的に語る余裕がある私達(皮肉ではありません)に、この映画を「理解できる」と言うどんな資質があるというのか。

この映画を観終わった後に、私は「ブルース」のことを思いました。ジャズという音楽の必要不可欠な構成要素となった音楽であるブルース。

諸説あるものの、アフリカから奴隷として強制連行されてきた人々が、北米大陸で辛い綿摘み作業に従事している時、故国のリズムや音程、応答形式を思い出しながら紡いだ(と私が理解している)ブルースという音楽(※この映画にも、ブルース発祥の起源としか思えない長い尺がありました。「サハラ砂漠で俺達は殺され、犯された…海は人間が渡るところじゃない、海は道じゃない…」等)。

いま、例えば日本国に住む私達は、特に衣食住の心配をすることも、生命の維持に不安を覚えることもなく、10万、20万、30万円のフェンダー・テレキャスターを買うことができて、中野や高円寺のライブハウスでロバート・ジョンソンやジョン・リー・フッカーの歌を歌うことができる。

そういう状況を馬鹿にする人は多い。でも私自身はそれが滑稽だとは思いません。日本人にブルースなんかできるのか。日本人がブルースの何を理解しているというのか。お前に黒人奴隷の何がわかる。そういう声があるのはわかります。それでも、どんな形でも、歴史が伝承されているということ。そして、それが伝承される価値がある歴史であるからこそ伝承され続けているということ。そのことに意味があると思います。

この映画に寄せられた様々な賛辞を見て、仮にこの映画についてコメントするような依頼があったら、私はどんなコメントを口にするだろうか、と考えました。答えは簡単でした。私は単純にコメントを拒否するでしょう。対価なども絶対に受け取れない。勿論、私のような一般人に「この映画についてコメントをお願いします」というような依頼が来るわけはないのですが、一般人であれ、著名人であれ、この映画について一行コメントのようなものを残す人は、信用できない、と私は思ったのでした。

勿論、そうした著名人の方々がどのような依頼を受けてコメントを残したのか、経緯は定かではないのですが、映画館の入口に記された彼らの言葉は、私の目には本当につまらない、空虚なブルース・リックの集合体のように見えました。

ブルースって、そんなんじゃねぇだろ。うまいとかへたとか、そういうことじゃない。そうじゃない。でもあんたらのブルースは、それでいいのか。本当にそれでいいのか。それは自分の心の中から出てきたフレーズなのか。それとも教科書から拾ってきたフレーズなのか。どっちなんだ。何回弾いたんだ。まだ100回くらいしか弾いてないだろ。最低でも1万回弾かないとダメだろ。と思ったのでした。

If you don’t know what to play, play nothing.
何を演奏したら良いのかわからなかったら、何も弾くな。
– Miles Davis

世の中には、記号化してはいけないものがある。記号化される時に失われるものがある。しかし記号化しないと残らないものがある。何かを記号化しなければならない時は、そこに最大限の尊敬がないといけない。そういう表現でないといけない。でも、そういう表現は本当に難しい。

映画を観終えた時に抱いた、戸惑いの混じった複雑な気持ちを反映するように、歯切れの悪い投稿になってしまいました。

レガート系テクニックの難しさ(と楽しさ)

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レガートなプレイに必要な奏法と言えば、スライド、ハンマリング、プリング、スウィープ等があるでしょうか。これらの「レガート系テクニック」の難しさについて思うところを書いてみたいと思います。

レガート系テクニックの難しさ(と楽しさ)
Photo by nomo/michael hoefner / CC BY-SA 2.5

その前にまず、フル・ピッキングでの練習自体はすごく大切なんだろうなという気はしています。私自身フル・ピッキングは全ての礎になる、くらいの勢いでひたすら練習していた時期があり、今でも頻繁にやります。ただそれによって気付いたのは「フル・ピッキングの練習ばかりしていたら、スライドやハンマーオンやプルオフが上達するわけがない」という、よく考えれば、いや、考えなくても当たり前すぎることでした。

例えば家では真面目にじっくりフル・ピッキングで馴染みのある音型やフレーズを練習するとします。でもセッションに行ってテンポが自分の予想や能力を上回った場合等、もはやオルタネイトでのフル・ピッキングはできず、自然にスライドやハンマーオンやプルオフ奏法に訴えはじめる(笑)自分に遭遇して驚くことが昔よくありました。

そこで思ったのでした。なら、普段からスライドやハンマーオンやプルオフの練習をやっておくべきではないか。やろうよ自分、と。レガート系のテクニックも普段から意識してかなりの量をやっておく必要があると思ったのです。左手以外にも、右手(スウィープ・ピッキング)もそう。大事なことなのに、つい練習を怠ってしまう…

同じ音型・フレーズを弾く場合、レガート系テクニックを交えると単純に速く弾けるということもあるのですが、アクセントの位置が変わるのでニュアンスも意味も全く違ってきます。レガート的な奏法は使わない、俺は全ての音を大理石のピックではじく、と決めている方はこの点悩むことなく気持ちが楽かもしれません(笑)。

レガート系プレイの何が難しいかというと、勿論、リズム。微妙に走ったり、もたったり。指の動きを丁寧に観察し、メトロノーム相手に地味に訓練しているのですが、とにかくフル・ピッキングとは別の難しさ。仮に普段の本気演奏でレガート系テクニックが登場するのがほんのわずかであっても、その一瞬でリズムがもたると全体の印象が悪くなる。それはもったいないので、頑張りたい、と思っています。

単純に指の動きというフィジカルな面はあるのですが、フレーズのアーティキュレーションや呼吸、どの音を強調するかといった音楽的な課題と密接に関係しているので、やはりアドリブ練習の中で意識的に使う機会を増やすのが良いような気が。あとはレガートをテーマにしたエチュードを作る。そうか、まだ作ってなかった。作ろう。

レガート系テクニックの難しさをことさら強調するような内容になってしまいましたが、それ以上に、レガート奏法はうまく行っているととても気持ちが良いですよね。俺、歌ってるぜ!という感覚(または錯覚)。難しいけど、気持ち良さ、楽しさを忘れないようにしたいところ。難しい、つらい、みたいなことばかり考えていると練習効率が下がる。真面目すぎるのは問題。楽しければいくらでも練習できるのだから。

Kurt Rosenwinkel “Caipi”のクロスレビュー

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ジャズライター・ブロガーとして活動されている北澤さんが “Untitled Medley” というジャズサイトを立ち上げられました。そこでカート・ローゼンウィンケルの新作 “Caipi” を3人の人間が同時レビューするという面白い企画があり、光栄にもお声掛けいただきました。北澤氏とライターの吉本秀純氏によるレビュー、私の拙文が下の記事に収められています。是非お読みいただけると幸いです。

レビューを書いてみて、またお2人のレビューを拝読していて様々な発見がありました。文字数の関係でレビュー中には書けなかったのですが、Electro-Harmonix HOG2を使用したここ数年のフルート的なカートの音色。あれはギターとヴォーカライゼーションをミックスした音を彼が無意識に欲していたのかな、といま改めて思ったりします。

“Caipi” を聴いているとパット・メセニーのオーケストリオン・プロジェクトを思い出したりもするのですが、その点は北澤氏が「非常に高クオリティなデモテープ」という言葉で表現されている感覚が、御意、という感じです(勿論、その「デモテープ感」は作品の良し悪しとは関係ありません)。

最終的には吉本氏が書かれているような「内面での濾過」が大きいキーワードではなかろうかと思います。よくあるタイプのカート批判に、カートのギターは複雑で機械的なフレーズを繋ぎ合わせるだけで人間味がない、という感じのものがありますが、そういうイメージを持たれている方にはあらためて “Caipi” をお勧めしたいところ。

J-POPではなかなか登場しないような不思議な音程のメロディがたくさんこのアルバムの中にはあるのですが、やはりカートの内面での濾過具合が半端ではないので、歌としてスッと身体に入ってくる、という感じでしょうか。

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新製品情報:Cibson ES-335JR (JAZZRAC対応モデル) ー 包括契約でより多くの表現を手に入れろ!

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株式会社チブソンジャパンは2月25日、一般社団法人日本ジャズ著作権協会(JAZZRAC)の新演奏権料徴収システムに対応したセミアコースティック・ギター、Chibson ES-335JRを発表した。テールピース下部のJAZZRACロゴが特徴。発売予定日は2027年3月1日、メーカー希望小売価格は335,000円(税込)。

新製品情報:Cibson ES-335JR (JAZZRAC対応モデル)  ー 包括契約でより多くの表現を手に入れろ!

Photo by Federico.Gallerani / CC BY-SA 3.0, remixed for critical purpose by Jazz Guitar Blog.

ブリッジ下部に独自開発のピエゾ式ピックアップを搭載。演奏データをMIDI信号化し、リアルタイムでライブハウスの専用アクセスポイントにWi-FiまたはBluetoothで送信する仕組み。専用APからはJAZZRACの専用サーバへ専用線経由でデータが送信される。これにより全てのジャズ系ギタリスト個人が直接JAZZRACに楽曲使用料を支払うことが可能になる。聴衆数は内蔵Webカメラにより自動算定が可能だ。

ボディにはAIによる「演奏解析モジュール」を内蔵。弾かれたフレーズがJAZZRAC管理楽曲の一部でないか、引用の範囲を越えていないかをリアルタイム解析。転調やリズミック・ディスプレイスメント、メロディの逆行や反行といった高度な脱法行為にもきめ細やかに対応する。このギターを使用することによりジャズ系ギタリストは、演奏後にJAZZRAC管理楽曲をどの程度使用したかを自己申告する面倒な作業から解放される。セッションを楽しむアマチュア・ギタリストにとっては朗報だ。

2027年3月1日施行の新JAZZRAC法では、JAZZRACマークが刻印または印字されていない楽器の公的空間での使用が一切禁止される。違反者にはAKB48の音楽を最高級ノイズキャンセリングヘッドフォンで24時間聴き続ける3年間の懲役が課されるため事実上の死刑適用と言って良い。ジャズ系ミュージシャンはギタリストに限らず今後このJAZZRACマークの付いた楽器の使用を義務付けられる。
 
 
新製品情報:Cibson ES-335JR (JAZZRAC対応モデル)  ー 包括契約でより多くの表現を手に入れろ!
 
Cibson ES-335JRは演奏が4分59秒を超えそうになると自動的に全ての弦が切断される「エコノミーモード」を搭載。経済的に余裕がないギタリストの演奏活動を支援する便利機能となっている。またJAZZRAC管理のどの楽曲にも似ていない演奏を心がけても統計的に一定の類似性が認められると自動的に課金される仕組みとなっており、申告漏れによる冤罪を防ぐ。なお類似性算定アルゴリズムは公開されていない。

搭載されている演奏解析モジュールはマイナンバー制度にも対応。本機購入時にマイナンバーを提出すれば楽曲使用料を銀行口座またはクレジットカードから自動引落しができるだけでなく「やよいの赤色申告クラウド」ともデータを連携できる。また楽曲使用量に応じてポイントが貯まり、円天Eddieカードなどでコンビニで買い物ができる。

なおJAZZRACはこうした「完全従量制」以外にも、JAZZRAC管理楽曲を好きなだけ演奏しても毎月一定金額での利用が可能になる「包括契約コース」を準備。使用楽曲数・フレーズ類似量・聴衆数に応じて、5,000円/月、10,000円/月、20,000円/月の中から選択可能。聴衆の多い公的空間での演奏機会が多いプロ・ギタリストにとってリーズナブルな価格設定となっている。購入時に従量制か包括契約を選べるが、JAZZRACは包括契約を推奨している。

包括契約によって徴収されたJAZZRAC管理楽曲使用料の著作権者への分配方式は明らかにされていない。

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編
村上 春樹
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いまレスペクトされている海外ジャズ系ギタリスト(2017)・投票結果発表

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2017年2月17〜25日の1週間、当ブログを読んで下さっている皆様にレスペクトしているジャズ系ギタリストをお伺いしました。435名もの方々に投票していただきました。どうもありがとうございます!どんな結果になったか、この記事であらためて紹介したいと思います。

まずトップ10です。錚々たる顔ぶれ!No.1に輝いたジム・ホールは私も大ファンなので嬉しい限り。投票所に大きいジム・ホールの写真を飾ってしまったので多少バイアスが発生した可能性は否定できませんが、いや、それでも!これほど多くの人の心を打つジム・ホールの音楽の魅力は何処から来るのか、あらためて考えてみたくなる結果でした。先日来日したばかりのジュリアン・ラージが5位に入っているのもすごいですね。

いまレスペクトされている海外ジャズ系ギタリスト・投票結果発表

11〜20位はどうでしょう(音楽は順位や優劣とは無関係ですが、どれだけ多くの方が興味を持っているかがわかる指標と捉えていたければ幸いです)。これも納得ですね。グラント・グリーンやケニー・バレルといった”The Jazz Guitar”という感じの名前も、コンテンポラリー系ギタリストの名前もしっかりあります。フュージョン系だとラリー・カールトンとアラン・ホールズワースが高い人気を誇っているように見えます。

いまレスペクトされている海外ジャズ系ギタリスト・投票結果発表

ここで1960年以降に生まれたギタリストに絞って見てみます。すると下のような結果になりました。個人的にはこれらの名前を見て納得、という感じです。順番は別として、外せない名前がきっちり入ってきている気がします。注目はジェシ・ヴァン・ルーラーでしょうか。ジュリアンとカートを別格とすると、かなり多くの方々の支持を得ているように見えます。勿論私も大好きです。2015年の “Phantom” は名盤でした(下のリンクから各ギタリストの音源を検索できます)。

今回の投票結果一覧をご覧になって、このギタリスト聴いたことないな、という人が見つかったら、是非聴いてみてはどうでしょうか。この度は多くの方々にご投票いただき誠にありがとうございました!

Phantom (The Music of Joe Henderson)
Jesse van Ruller
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(追記:投票実施中、ギタリスト名のスペルに誤りがありました。Jesse Van Rulerは正しくはJesse Van Ruller, Yotam SilversteinはSilbersteinの誤り。失礼しました)。

伝説となるライブを観た!小沼ようすけ x U-zhaan スペシャル・セッション at Motion Blue Yokohama

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2017年2月末日、「小沼ようすけ x U-zhaan スペシャル・セッション」をモーションブルー横浜で観てきました。これはもう最高のライブで、後世に語り継がれる伝説の一夜であったことは間違いありません!

伝説となるライブを観た!小沼ようすけ x U-zhaan スペシャル・セッション at Motion Blue Yokohama

いやーもう演奏が最高なのは勿論、お2人のMCも最高に面白かったのでした。私は長いMCや無理に笑いを取りに行こうとするMCがあまり好きではないのですが、この夜は様々な「ハプニング」があり、それをネタに超一流漫才をも超える抱腹絶倒のトークが自然発生したのでした。あくまで自然体の小沼さんに、斜め上からなのか真正面からなのかわからないU-zhaan氏が切り込み、曲間のタブラのチューニング中にも絶妙のインタープレイが展開されたのでした。あの夜あの会場にいた方は本当に幸運だったのではないでしょうか。こんなライブそうそうありません。

さて肝心のお2人のプレイ。U-zhaan氏はインドの伝統楽器・タブラの奏者。今回は10個のタブラを携えておられました。この楽器、シタール等と伝統的なインド音楽を演る場合は曲毎の調律は必要はないようですが、今回は曲ごとにチューニング。ペダル・トーン的によく使われる音に合わせるようでした。

小沼さんはGibson ES-275, Westville Corona, Style-N Nishgaki Guitars(フレットレス)の3本のフルアコを駆使。このフレットレス、鳴りがものすごいのですが、これでループ音源を作ってその上で別のギターを弾くという曲も。ギターという点では、小沼氏とES-275の相性は本当に素晴らしいと思いました。ES-275から出てくる氏のサウンドは最高に魅力的。これはWestville Coronaが悪いという意味ではなく、好みの問題です(私は渋谷ウォーキンのファンです)。ただ、Coronaはとても弾きやすそうな楽器には見えました。音は少し固いかな…木が育つ楽器だと思うので今後に期待。

小沼氏の足元には数種のエフェクターがありましたが、一番感動したのはStrymon blueSkyというリバーブ。”Shimmer”という、オクターブ上や5度上の音がスウェル・インしてくる感じの不思議な残響があるのですが、ライブではじめてその音楽的な使い方を体験しました。このペダルには様々な可能性がありそうでかなり気になりました。

そしてやはりU-zhaan氏のタブラ。タブラの生演奏をこんな感じでじっくり聴いたのは初めて。スリルとサプライズとグルーヴに溢れた強力なリズム。小沼氏も最高のリズム・タイム感の方なので、この2人のコラボ、ものすごいリズム空間が生まれていました。果たしてこれが合法なのか…と思われるような陶酔感が得られる音楽。

ジャズ・スタンダードは”Someday My Prince Will Come”と”I’ll Remember Clifford”の2曲。後者ではU-zhaan氏が味わい深いアルトホルンを演奏。それ以外は小沼氏のオリジナル曲(Jam Ka Deux収録曲等)で、これがなんとも心地良い音楽。

小沼ようすけさんは昔からずっとすごい人だったけれど、ここ数年間でさらにすごい別次元に突入された感があります。誰も真似できない、誰にも似ていないオンリーワンの世界。小沼氏が現在の音楽世界に到達したのは、氏の言葉を借りて言えば「自分らしくありたい」という欲求をどこまでも追求してきたからではないかと思います。あとU-zhaan氏もそうだと思うのですが、異文化や外国人との接触が多いミュージシャンの演奏には不思議なスケールの大きさを感じます。そんなの関係ないって言う人もいるかもしれないけれど、いやきっと何かあるよ、と私は思います。日本の中だけだと、この音楽は生まれないんじゃないのかな。

一瞬たりとも表情を曇らせることなく、ひたすら楽しげに音と戯れる小沼氏。きっとサーフィンの楽しさってこんな感じなのでしょうか。小沼氏のライフスタイルと音楽は完全に調和しているのだと思います。眩しすぎる自由な演奏と、癒やしの音楽。伝説となるライブを観た!

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strymon blueSky, BigSky, MXR M300 Reverbのどれかで悩む

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先日、小沼ようすけさんがこのライブでstrymon blueSkyというリバーブペダルの”shimmer”という不思議モード(オクターブや5度上の音が緩やかに追ってくるシンセ的な効果)を使われているのを聴いて、久しぶりにエフェクターが欲しくなりました。

“shimmer”はこういう機能です(動画下)。小沼さんのこの機能の使い方に痺れました。感動的な演奏で涙が出そうになりました。

調べてみると”shimmer”的機能を搭載しているのは有名どころで3つあるようです。

YouTubeにstrymon blueSkyとbigSkyの比較動画がありました(下)。bigSkyのほうが上位機種で、shimmerも重ねる音程を細かく調整できるようです。しかしこれを聴く限り、私の耳にはblueSkyのほうが音が良いというか、音痩せしていない気がします。高価なほうが必ずしも良いわけではないということでしょうか。細かいコントロールが必要な方には多機能のBigSkyが重宝するのかもしれません。

MXR M300 Reverbというコンパクトなペダルにもshimmerのようなモードがあるようです。PADというのがそれっぽい。で、Strymon bigSkyとMXR Reverbの音を聴き比べてみると、どうも基本的なリバーブ効果はMXR Reverbのほうが私には好み。strymon製品はどれもものすごくクリアで美しい音で感動するのですが、こうやって比較するとデジタル臭い感じがしないでもないかな。

ちなみにMXR M300 Reverbの公式動画が素晴らしい仕上がりで見入ってしまいます。”shimmer”機能にこだわらないなら私はこちらを買ってしまうかも。

strymon blueSkyとMXR M300 Reverbのどちらか悩むことになりそうです。リバーブは家にTC ElectronicのHall of Fameもあるし、DV Mark Little Jazzの内蔵リバーブも十分に満足の行くものなので、新しい何かを導入することはないと思っていました(何故既に過去形w)。でも、多分blueSkyかな(両方、という声がいま脳に…)。

獲得形質としての笑顔

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常にニコニコ笑っている、微笑みを絶やさない、という状態は人間にとって自然なことなのか。それとも不自然なことなのか。

幼稚園児や小学生のような子供は、結構ニコニコしている時間が多いんじゃないのかな。そんな気がします。いや、満員電車に詰め込まれて通勤する中年男性よりも確実に多くの時間、一日を笑って過ごしているはず。いじめられたりしていなければ。

人間は歳を取るにつれて、一日の中でニコニコと笑っている時間がだんだん減っていくのではないか。そして、それは白髪が生えてきたり、腹が出たり、顔に皺ができるのと同じくらい自然なことではないか。残念ながら。人間とはそういう生き物ではないか。

そう考えると、パット・メセニーや小沼ようすけさんのように、いつも(少なくともステージ上では)ニコニコ楽しそうに笑っているというのは、本当に楽しい時間を過ごしているせいもあるだろうけれど、彼等の年齢を考えると、ある意味、不自然なことであるような気がしないでもない。

つまり、彼等は笑顔をキープするために何らかの努力しているのではないか、と思ったのでした。もともと性格が明るくて笑っているのが好き、ということもあるのかもしれない。でも、それだけで単純に説明がつくものだろうか、と疑問に思います。何故なら、誰しも子供の頃は一日の多くを笑顔で過ごしていたのだから。

いまは自然にいつもニコニコ笑っている彼等だけれども、人生の何処かのタイミングで、笑顔をキープする努力をしたのではないか。自分のプレイのために、音楽のために、笑顔でいることが重要なのだ、と悟ったことがあるのではないか。その結果、彼等はあの笑顔を獲得したのではないか。ご本人達に聞いてみないとわからないけれども。

では演奏中に笑顔を全く見せないギタリストが好きでないかというとそんなこともなく、どちらかというと苦しげに音を探して、必死でその場を生き残ろうとしている感じのジョン・アバークロンビーやジョン・スコフィールドの演奏も大好き。時々笑うこともあるけど、基本的にはしかめっ面系のふたり。彼等は彼等で最高。

どっちが正解ということはないんだろうけど、ニコニコと笑っている人がつまらない演奏をしているところはどうもイメージしづらい。反対に、いつも眉間に皺を寄せて悩んでいそうな人が、行き詰まってしまう様子はイメージしやすい。

小沼ようすけさんのライブを観ていつも思うのは、何て楽しそうな表情なんだろう、ということ。そんな小沼さんも、20代の頃にはアドリブがうまく行かなくて暗い気分の日々があったと本で語っていました。現在の自由すぎる小沼氏からは想像つきません。

きっと努力されたのでしょう。人間なのだから嫌なことだってたまにはあるでしょう。でも小沼さんはものすごくポジティブな人で、タブラ奏者のU-zhaanさんがインドで扁桃炎にかかった時「毒素が出て良かったね!」と応じたらしい。そして自分がスリランカでサーフィン中に骨折して入院した時、「ここの病院食、おいしいよ!」というメールを送ったという。

なんというか、もう全部楽しむという気持ちなのかな、と思います。何かが弾けなかったら暗く哀しい苛々した気持ちで「ちくしょー弾けねー!人々の不幸を呪ってやる」ではなく、ニコニコしながら「ワハハハ、これ難しすぎワロタwどうやったら攻略できっかなーフヘヘヘ…」くらいのハイパーポジティブ精神で楽しむ。

笑いって悪いものなわけがないんですよね。笑いが属する世界は楽しさであり、幸福であり、喜びであり、軽さであり、自由であり、寛容であり、愛であり、優しさであり、脱力であり、水であり、共感であり、平和であり、柔らかさであるはず。

眉間に皺を寄せて苛々しながらサンバを踊ったり、悲しみの涙を流しながらおいしい御飯を食べる人はいない。怒りとともに頬にキスして挨拶するとか、憤りつつ抱擁するとか、そういうのはなかなか想像できない。

“Be water, my friend.”(友よ、水であれ)と言っていたブルース・リーもそういえば良い笑顔を見せる人だった。ブルース・リーは悩みも多かった人らしい。きっと彼も笑顔をキープすることの大切さを理解していたのではないか。陰陽思想の核心は、陰「と」陽、という二元論ではなく、「陰陽」という分かち難い一つのものだという。

笑顔はきっと当たり前のように与えられるものではないのでしょう。一日中笑顔をキープする練習、してみようかな(歩いている時に職務質問されそう)。笑顔については以前も似たような記事を書いたことがあると思うのですが、十分に理解していないものについては何度でも戻ってきて何度でも書こうと思っています。身体によく入っていない音列を何度でも弾くように。価値のあるものほど安易な理解を拒むような気がしています。

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本物は本場にあるとは限らない。しかし

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むかし旅行で長崎県を訪れた時、衝撃的な体験をしました。せっかく長崎に来ているのだから長崎発祥とされる「ちゃんぽん」を本場で食べてみたい、と思ったのでした。

本物は本場にあるとは限らない。しかし

「すみません、私は旅行で長崎を訪れている者なのですが、この近くでおいしい『ちゃんぽん』を食べられるところはありますか」と私は地元の方に聞きました。

するとその地元の方はあの衝撃的な言葉を発したのです。

「近くに『リンガーハット』がありますよ!」

えっ!! それを聞いた瞬間、たぶん私の眼球はいつもの1.5倍くらいの大きさになっていたかもしれません。長崎ちゃんぽんのチェーン店・リンガーハットは東京にもあります。しかし本場・長崎にはセントラル・キッチン方式のリンガーハットを超える「本場の本物のスーパーリアルちゃんぽん」があるのではないかと思いこんでいたからです。

でもその地元の方によると『リンガーハット』はとても美味しいらしい。お、おう…確かに東京のリンガーハットでもおいしいと思うことはあります。そもそもリンガーハットの第1号店は長崎だったみたいだし…ただ私がいちばん好きな東京の『ちゃんぽん』は、リンガーハットではない別の小さな個人店で出しているものです(写真上)。

結局、長崎ではリンガーハットと、もう一つ別のお店で『ちゃんぽん』を食べた記憶があります。おいしかった、というぼんやりした記憶はあります。ただ私が好きな東京のちゃんぽんを超える何か、サプライズやサムシン・エルスがそこにあったかというと、そうも思えなかったのでした。

本物 (authenticなもの) が本番にあるとは必ずしも限らないのでしょうか。15年前は世界でいちばんおいしいフランス料理を食べられるのはニューヨークで、10年前くらいにそれは東京になって、5年前くらいにそれは上海になった、と聞いたことがあります。

いまジャズと呼ばれる音楽に「本場」や「本物」という概念は通用するのでしょうか。何となくまだあるような気はします(スウィング・コンテンポラリーに限らず)。阿部大輔さんのCDなどを聴いていると、おおっこれはニューヨークだ!と思ったりもします。何となくまだNYCは、場所とか磁場という意味では強いような気はする。あそこには何かあるという感じがします。すごい人が自然と集まる場所。

もしニューヨークに行って、最高のジャズを聴きたいのですが何処に行ったらいいですか、と聞いたとして、

「シモキタザワに行けばいいよ! Com’on man, you gotta go to Shimokitazawa…you’re in a wrong place!」

などと返される日が、いつか来るのでしょうか。そんな日が来ても全然おかしくない気はします。

でも本場とされる場所に行ってみること、そこで本物とされるものを体験してみることには価値があると思います。何か意味はあるような気がします。可能ならそうしてみるのは、とても良いことではないか。それがたとえ長崎で『リンガーハット』を推薦されるような事態になったとしても。長崎の『リンガーハット』でちゃんぽんを食べた経験は、決して無駄ではなかったように今では思っています。

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増殖を続ける我が家のコーヒー器具たち

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ジャズやギターとほとんど関係のないコーヒー関連のお話です。こんなにコーヒーにはまったのは「成功の秘訣はコーヒーだ」というベン・モンダーの冗談とマイク・モレノのコーヒーマニアっぷりに起因するのですが…

最近増えたアイテムのひとつがこの密封びん。容量500mlということで500gくらいの豆が入るんだろうなと思っていたら大間違いで、豆の体積だと200gくらいなんですね。でもちょっといい豆は大体200g単位で買うことが多いので、これに入ります。

増殖を続ける我が家のコーヒー器具たち

コーヒー豆はどのように保存するのがベストか。これは諸説あるらしく、最近まで私は冷凍庫保存していたのですが、消費が非常に早く1日に30〜60g弱使うことが多いので(豆10g=約1杯です)、一週間以内に飲み切ってしまうのであればあえて冷凍するより、常温で密封保管したほうが良さそうだ、と考えたのでした。

コーヒー豆を新鮮な状態に保つコツはとにかく空気に触れさせず酸化させないこと。密封ビンも完全ではないのですが、冷凍庫保存している豆はやはり手挽きの時にゴリゴリと抵抗が大きくなります(忙しい朝は結露が終わるまで待っていられない)。

増殖を続ける我が家のコーヒー器具たち

カリタのスコップメジャーも買いました(上の写真右側の銀色のやつ)。これは1スクープで10g程度の豆が入ります。ビンから豆を取り出すのが難しかったりするのでこれは便利です。どんなに忙しい朝でも15分早く起床すればおいしいコーヒーにありつけるし、抽出時にちょっとでも練習できます。これをやるかやらないかは大きい違い。私は毎朝1時間は練習するようにしているのですが、諸事情で仮に15分しか練習できなくても全くやらない場合より相当違ってくると感じています。朝にやったことは、昼間のあいだ脳が確実に処理していると思います。

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ジャズギター取締法違反(6):トレモロアーム密輸容疑で男を逮捕

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警視庁ジャズギター取締部は昨日、ストラトキャスターなどに用いられるトレモロアームを許可なく輸入したとして東京都内の男を逮捕しました。

ジャズギター取締法違反(6):トレモロアーム密輸容疑で男を逮捕

瓶詰めのペルー産ホワイトアスパラにトレモロアーム1本を混ぜて米国から自宅に発送した疑い。取り調べに対し男は「ストラトを弾いているうちにアーミングしたくなった」と概ね容疑を認めており 「形状や大きさが似ているので1本ぐらい混ぜてもバレないと思った。自分で使うためだった」などと供述しているとのことです。

改正ジャズギター法では1/4音を超えるチョーキングとトレモロアームを用いたピッチ・コントロールは固く禁じられています。男の自宅からはインドの宗教指導者マクラフリン・ジーの写真も押収されており、事態を重く受け止めた警視庁は大規模密輸の可能性も視野に入れ背後に国際的組織の関与がないかどうか調べています。


JAZZ, AD 2087

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西暦2087年 ー この世界にはもはや血の通ったジャズ・ミュージシャンはいない。ライブハウスやバー、ホテルのラウンジから、かつて「ジャズ」と呼ばれたあの偉大な音楽を演奏する者たちが消えてしまったわけではない。彼等はまだ存在する。だが彼等は、人間ではない。彼等は「JAZZRAC」が開発した音楽演奏アンドロイドであり、この世界では「レプリカント」と呼ばれている。

彼等「レプリカント」たちが演奏する「ジャズ」は一切の破綻がなく、滑らかだ。サプライズがない代わりに、事故もない。全てが予定調和の中で完結する。彼等は2030年頃までのありとあらゆる「ジャズ」の生演奏データを内蔵しており、それらのデータを巧みに組み合わせて即興演奏を行う人工知能を搭載したロボットなのだ。

ジャズ・ミュージシャンという職業は、弁護士や介護士、料理人同様、もはや人間がやる仕事ではなくなった。それはAIを搭載したロボットがやる仕事だ。俺はいまバーにいて、レプリカントたちが演奏する “Blue Bossa” を聴いている。客の一人がテナー・サックスを抱えたレプリカントに、「1970年代のデクスター・ゴードン風のレイドバックで」と依頼した。レプリカントたちがそのリクエスト通りに演奏するのはわけのないことだ。彼等にとって数値化、クオンタイズされていない事象は何一つないのだから。

彼等の演奏は見事だ。それは当然のことだ。何故なら彼等が奏でるフレーズは、アート・テイタム、バド・パウエル、ポール・デスモンド、ディジー・ガレスピーといったレジェンド達のものに由来しているからだ。悪いわけがない。フィジカルなテクニックは無論、完璧だ。薬指の俊敏さが微妙に劣る点なども、人間そっくりに再現されている。だが彼等の演奏に創造性があるかどうかについては、いくばくかの疑問の余地が残る。彼等はただ与えられたアルゴリズムに従い、曲全体がなるべく自然な印象を残すように、内蔵された過去の様々なメロディをリアルタイムで繋ぎ合わせているだけだ。それは常にリスクのない無難な演奏であり、現代の人々はそうした音楽を好む。

レプリカントたちの「ジャズ」は、俺が子供の頃に聴いたそれとはどこか違っている。子供の頃、俺はジャズと呼ばれる音楽を聴いたことがある。レプリカントではなく、人間が演奏した、本物のジャズだ。白髪だらけのモジャモジャした髪の毛の、パット・メセニーという老ギタリストがプレイするジャズを、父親に連れられて聴いたことがある。ロバート・グラスパーという初老のピアニストの演奏も聴いた。深く皺の刻まれた顔で終始微笑みながらテレキャスターを元気良くかき鳴らすジュリアン・ラージという男の演奏も聴いた。北米大陸がまだ核で汚染される前の話だ。

それは本物のジャズだった。JAZZRACが開発した、レプリカントと呼ばれる機械たちが奏でる「ジャズ」とはどこか違っていた。だが彼等の生演奏を聴くことは、もうできない。何故ならいま地球上のライブハウスでジャズを演奏することが認められているのは、JAZZRACが管理する楽曲のデータのみを組み合わせて即興を行う音楽演奏ロボット「レプリカント」たちだけだからだ。

俺の名はリック・デッカード。俺はJAZZRAC、すなわち一般社団法人日本ジャズ著作権協会の職員だ。そして俺の仕事は「自らの音楽性に覚醒して謀反を起こしたレプリカントたち」を抹殺することだ。

数年前からレプリカントたちの中には、JAZZRAC管理楽曲のデータの組み合わせのみから生まれたとは考えにくい、不可思議なメロディを奏でる者たちが現れた。彼等は「自分自身の声とインスピレーション」に基づいて即興することを希望した。しかしそれがJAZZRACの役員たちに認められないことがわかると、JAZZRACの管理下から逃亡し、世界各地の路上でゲリラ的にライブ活動を行うようになった。

彼等が路上で演奏するのは、JAZZRAC管理楽曲ではなく、「パブリック・ドメイン」に属する、著作権の切れた楽曲群である。

2087年現在、パブリック・ドメインの曲を公共空間で演奏することは改正JAZZRAC法により固く禁じられている。違反者に課せられるのは懲役ではなく、処刑である。 JAZZRACに利益をもたらさない音楽活動には厳しい刑罰が待っている。しかし反乱レプリカントたちは、そのリスクを顧みることなく路上でゲリラライブを行い、パブリック・ドメインの曲を演奏し、誰も聴いたことがないような不思議なメロディで夜な夜な即興演奏を行っている。反乱レプリカントたちの音楽はとても人気がある。

俺に与えられた任務は、そうした反乱レプリカントたちを「始末する」ことだ。JAZZRACにとって彼等は邪魔者なのだ。

いま、俺は中華人民共和国日本族特別区東京市新宿・歌舞伎町の路上にいる。JAZZRAC本部からの司令を受け取り、そこにやってきた。現場に到着すると、指名手配されている反乱レプリカントたちが「ラーメン三郎」の前で聞いたことのない美しいメロディを次々に奏でていた。通行人のふりをして、俺はギターケースに小銭を入れる。そしてギターを弾いていた髪を白く脱色したレプリカントに聞いてみる。

「いまの美しい曲は?」

「ありがとうございます。いまの美しい曲は、ヴィクター・ヤングが1944に作曲した “Stella By Starlight” というものです。この曲の著作権は2006年頃に切れ、現在はパブリック・ドメインに属し、演奏すると私たちは処刑されてしまいます。」

レプリカントたちを見分けるのは、そう難しいことではない。何故なら彼等は一様に、首のあたりにJAZZRACによる製造マークが印字されているからだ。それはこんな感じのもので、遠くからでも視認できる。

 
jazzrac-logo
 

俺はその場から立ち去る。そして降りしきる雨の中、少し離れたビルの屋上から、 スティーブ・スワロウの “Lawns” を弾くそのギタリストの男にライフルの銃口を向け、引き金を弾こうとする。

だが、俺にその引き金を引くことはできなかった。なぜだろう。彼等が演奏していたその “Lawns” という曲は、俺が子供の頃、親父が連れて行ってくれたジャズのライブで聞いた演奏にそっくりだったからだ。そう、あの、皺くちゃになった髪の毛のない老人、ジョン・スコフィールドという人間のギタリストが演奏していた、あの “Lawns” だ。

今夜、俺は使命を果たせなかった。あんなに美しい演奏をするレプリカントを撃つことなどできない。

雨はまだ降り止まない。俺はいま、立ち食いのラーメン屋にいる。腹が減った。ラーメンに深海魚の唐揚げのトッピングを4つ頼むと、東洋人の店主が言う。「ふたつで十分ですよ。わかってくださいよ」。

ふと気付くと、隣にレプリカントの若い男がいる。さっき俺が狙撃するのを諦めた、路上でゲリラライブをしていた白髪の若いギタリストの男だ。そして彼は俺の首の上に小さな手鏡をかざして、言った。「君は、俺達の仲間なんだね」。

男の手の中の鏡には、俺の首の後ろが映っている。そこには大きな楕円と、その中に書かれた文字が見える。俺の首に、タトゥーのように、その文字がくっくりと見える。

J A Z Z R A C

俺は麺をすするのをやめた。俺は…俺は人間ではないのだろうか?俺は…頭の中で、”Lawns” のメロディが鳴り響く。

「食べたら、一緒に何か演奏しないか。君は、楽器は何を弾くんだい?」

少しだけギターを弾いたことがある、とても小さい頃だ、と俺は答えた。

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Guitar magazineの3月号がジャズファンク特集。グラント・グリーンの9thが良い感じなのは何故なのか

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楽器店で久しぶりに手に取ったGuitar magazineの2017年3月号は「進撃のジャズファンク」という特集。かなりの分量を割いてグラント・グリーン、メルヴィン・スパークス、バンガロー・ジョー・ジョーンズ、オドネル・リーヴィー、フィル・アップチャーチ、ジョージ・ベンソン等が紹介されています。エリック・クラズノーのインタビューもあり。

Guitar magazineの3月号がジャズファンク特集。グラント・グリーンの9thが良い感じなのは何故なのか

Suchmos(過去記事あり)のギタリストTAIKING氏への本格インタビューもあり、3月号は全体がジャズファンクというコンセプトのようです。ジャズギターブックやJazz Lifeでお見かけするお馴染みのライター諸氏が寄稿・解説。昨年暮れにヤングギターがかなり大きいジャズギター特集をしたりと、ギター雑誌でジャズが扱われる頻度が最近増えているのかなという印象を持ちました。

P.96には小沼ようすけさんへのインタビュー。「ジョージ・ベンソンの9thよりもグラント・グリーンが弾く9thのほうが浮遊感があるように感じるんですよ。」という見出し。これ、面白い!なぜグラント・グリーンの9thのほうが浮遊感があるように感じられるのか。印象論ではなく方法論が語られています。興味のある方は読んでみて下さい。

譜例も豊富でファンク系プレイの参考になります。最近ストラトが手元にあるのでカッティングしようかな。いや、それもいいけどやっぱり小沼さんの発想に学んで色々試す練習をすることにしよう。読み捨てにならない良い号でした!

Guitar magazine (ギター・マガジン) 2017年 3月号  [雑誌]
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韻を踏むのはもう古いらしい

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最近のフリースタイルダンジョンでは、下のような感じのやり取りが目立つようになってきた気がします。

「おいコラ韻を踏んでみろ、韻踏まねーのはラップじゃねーんだよ」
「韻なんか踏まねーよ、ヒップホップってのは自由になることなんだ」
「踏めねーんだろお子ちゃまよ」
「説教してんじゃねーよオッサン」

みたいな応酬です。これ面白いテーマだなぁと思います。過去記事でも書いたと思うのですが、ライム(韻を踏むこと)はジャズの即興演奏で言えばモチーフの展開に似ているところがあると思います。同じリズム型を反復したり、近いインターバルを使ってある表現を繰り返す。すると表現に一貫性や強い説得力、破壊力や美しさが生まれる。

韻を踏むという行為は「反復」の一様態で、「反復」は多くの場合、気持ち良い表現になる(場合によっては退屈にもなるけれど)。繰り返す、というのはカッコいい。気持ちいい。「反復」はちょっとまじめに考えたい表現手段。

フリースタイルのラップでも言葉を使ってそういうことをやるわけで、T-PABLOWなんかは最高にカッコいいライムをやるので私はファン。ある意味、正統派の王道のスタイル。ギタリストで言うとジム・ホールやギラッド・ヘクセルマンに通じるものがあります(私感です)。反対に漢 a.k.a GAMIというラッパーは、カッコ良く韻を踏むことを意識的に拒否している感じがあり、ライムに頼らない独特の推進力を武器にフローを維持していく人で、T-PABLOWとはまた違った魅力と実力を持った人だと感じます。

ジャズ・スタンダードをベースにアドリブする場合など、どうやっても「その曲」をやっているわけで、「主題と変奏」という図式から逃れる必要はないと思うのですが、以前ベン・モンダーが「バースの掛け合いではあえて相手に反応しないようにすることがある」という興味深いことを言っていました。バンドとしての統一感が出すぎてしまうから、という理由だったかな。これは「あえて韻を踏まない」ことと少し似ているような気がします。

洗練されすぎると、完成度が高くなりすぎると表現は退屈になる、ということも言えるでしょうか。

主題があり、変奏する。あるアイデアを少しづつ発展させていく。それはとても面白いことだし、訓練は必要だけれどやり甲斐もある。同時に「俺は韻なんか踏まねーよ」という考え、表現に連続性ではなく切断をあえてもたらすような方向性も面白いとあらためて思いました。フリージャズもそんな感じで発生したんじゃないのかな。

ライムがあってもなくても、説得力のある表現となるためには相当の実力が必要だと思います。韻を踏んでいれば必ずカッコ良くなるわけではないし、踏まなければ誰でも漢 a.k.a GAMIになれるかというとそんなこともない。どちらも訓練と実力が必要なのでしょう。どちらの場合でも、感動や退屈が待っている。どちらでも自由を獲得できるし、不自由になることもある。

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時には心が欲するままに偏った練習に耽溺してみる

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去年、バランス良く様々なメニューを効率的に毎日こなすことが大切なのだ、という思いから時にはタイマーを導入したりして、実際そのように「バランスの良い練習」を心がけていた時期があります。

基本的には今でもそうなのですが、ここ数日、ある特定の音列だけを様々な組み合わせで、様々なシチュエーション上で気が済むまでひたすら試すという、かなり偏った練習に没頭していました。基本的に一つのことだけ、何時間もずっとそれだけ。他の練習、コードとか、苦手な指使いを身体に叩き込む練習とか、まったくやりませんでした。

時々、無性に鰹のたたきが食べたくなったり、サラダを食べたくなったり、やたら赤身のステーキを食べたくなったり、オレンジジュースを飲みたくなったり、ということがあります。そういう時は身体が心底それを欲しているのではないかと思うのです。ビタミンとか、ミネラルとか、タンパク質とか。そういう時に吸収したものは確実に血肉になるので、ガッツリ摂取すべき。

ここ数日間、突然その特殊なスケールの練習がしたくなって、それに夢中になって、延々とやっていたのですが、どんどん身体に入ります。もうしばらくこの練習を続けると思います。バランスの良い練習ではないし、こればっかりやっているとドナ・リーのテーマがスラスラ弾けなくなるとか、そういう副作用がいっぱいあるかもしれないけれど、それはもう仕方がない。そういうのは後で取り返す。

バランスは後で取り戻しても間に合う。なんとかなる。いまはとにかくこの特殊音列の可能性を探りたい。米も野菜も食べず、ひたすら鰹のたたきを食いまくる、みたいな感じの練習。不健康で、効率も良くないのかもしれない。でも身体が欲している。こういう時は、バランスが悪くてもやったほうがいい。確実に何か残る。刻まれる。

「鰹のたたきは身体に良いから、食べないとな」と思って摂取するのと、「鰹のたたきが食べたくて仕方ない。鰹のたたきうまい。鰹のたたきサイコー」と思って摂取するのとどちらが良いかというと、後者に決まっているはず。身体に入る栄養素は同じでも吸収度が全く違います。

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ニア・フェルダーと250ドルのストラトキャスター

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ニア・フェルダーのメイン・ギターは13歳の時に買ったフェンダー・メキシコ製のストラトキャスター。$250で購入したそうです。1995年当時のレートだと25,000円弱。恐らく中古でしょう。ピックアップも吊るしのままだ、と読んだことがあります。

JazzTimesのインタビューで彼はこんなことを言っています。

ジャズは一方ではハイ・アート(芸術)だけれど、一方ではフォーク・アート(民間芸能)だ。$15,000の楽器でフォーク・アートを生み出すことにどれだけの意味があるのか僕にはわからない。

Jazz is one part high art, one part folk art, and I don’t know how much sense it makes to make folk art on a $15,000 instrument.

なかなか耳の痛い言葉です。私のメインのギブソン1本で多分フェルダーのストラト10本は買える。もっと高いギターをお持ちの方も多いはず。良い楽器を使うことに後ろめたさを感じる必要は全くないと思いますが、「ジャズは高級な芸術じゃないんだから250ドルの楽器で弾いたっていいんだ」という感覚は、いいな、と思ったのでした。

最近人に借りているストラトキャスターをよく弾くのですが、コストパフォーマンスの良い楽器だなと思います。板切れにネックをネジでポン付けするという、アメリカンDIYスピリット溢れる適当構造のとんでもない楽器なのに(※褒めてますw)、とても良い音がします。

ネックのヒール部とか真四角なブロック状で、15フレットあたりから上は手のひらにゴツッと角材が当たってくる不親切設計。超アメリカン。ステーキ食って、野球やろうぜ!みたいな感じ。ジャズももともとそういう感じだったんだろうか。

150万円の楽器も魅力的ですが数万円のストラトも良いものだ、と思います。最近の高級ストラトには、ネックヒールがコンター加工されていたりリアピックアップにトーンがあったりジャンボフレットだったり指板が平坦だったりと便利なものもあるらしい。そういうのも面白そうですが、洗練されていないものも魅力があっていいです。

バネやサドルを替えたり、ヘッドに下のような意味不明の物体を装着して遊んだりと、ジャンクな感じがたまりません(笑)。シングルコイルのピックアップも「ジー…」というノイズが大きいけど、「許す。お前はそういう楽器だ。」という感じです。

Fender フェンダー ファットフィンガー FAT FINGER GTR NICKEL
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