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Not “Old school” but “Swing style”

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ジョン・アバークロンビーが教則動画で良いことを言っていたのを思い出しました。ビバップ風の、ダブル・スラーの入ったマイナー・ツーファイブ的なフレーズ(初期ロリンズやグラント・グリーンっぽいノリ)をハネ気味の8分音符で弾きながら「これはオールド・スクールなノリだが…」と言った後に、こう訂正したのでした。

オールド・スクール (Old school) っていうのは適切な言葉じゃないな。スウィング・スタイル (Swing style) って呼ぶことにしよう。

オールド・スクールというのは、古い流儀、古い派閥、みたいな意味ですが、自動的に「既に乗り越えられた過去の遺物」のようなニュアンスを持ってしまうことがあると思います。アバークロンビーは多分話しながらそのことに気付いて、そう訂正したのでしょう。ホントいい人だなぁ、と思いました。歴史へのレスペクトを感じたのです。

コンポンポラリー・ジャズから聴き始めた人にとって、バド・パウエルやハンプトン・ホーズやオスカー・ピーターソンのグルーヴはもしかすると古臭く感じられるのかもしれないし、最近のスウィングの8分音符は当時のそれに比べてかなりイーブン気味になっているけれど、何か決定的な断絶があるようには個人的には思えません。

「スウィング・スタイル」は古臭くてかっこ悪い、俺には関係ない、さよなら、という感じで安易に「乗り越え」られるものかというと、そういう類のものではないだろう、と。私も「オールド・スクール」という言葉を使うのには抵抗があります。

スタイルの一つとして意識的に「スウィング・スタイル」を選択しているミュージシャンは現代でも少なくないと思います。ギタリストではパット・メセニーがこの記事で絶賛していたイタリア出身のパスカレ・グラッソもそうかもしれないし、イスラエル出身のヨタム・シルバーステインもそういうタイプのミュージシャンかもしれません。

日本にもたくさんの「スウィング・スタイル」のジャズ・ギタリストがいます。重鎮の方は勿論、中堅の方から20代の期待の新人まで「スウィング・スタイル」を選択されている方、たくさんいますね。私もそうしたスタイルの方々の中に大好きなギタリストが何人かいます。

何かこう、コンテンポラリー・ジャズなんか認めん!とか、ビバップなんかもう古い、みたいなつまらない喧嘩のような風景を時々目にすることがあるのですが、なんでどっちかじゃないといけないんだろう。私はチャーリー・クリスチャンもカート・ローゼンウィンケルもどっちも楽しめるので、そういう諍いとは幸い無縁です(笑)。

格好悪くもないし古くもない。単にスタイルが違うだけ。いまこのスタイルでやるかどうかは別として、真面目に追求したら一度はここに至るはず。パット・メセニーは最近こういう世界に夢中らしい。ジム・ホールも確か言っていました。枝を切って、幹を切っていったら、残る根っこはフレディ・グリーンなのだ、と。

「スウィングしなけりゃ意味ないね」という曲がありますが、カート・ローゼンウィンケルもジョナサン・クライスバーグもマイク・モレノも私にとってはスウィングしているミュージシャンです。反対に「スウィング・スタイル」だから「スウィング感」が保証されるのかというと、そんな甘い世界でもないらしい。

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ジュリアン・ラージという種目

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2017年1月31日から2月3日にかけて最新アルバム “Arclight” を引っ提げて来日するジュリアン・ラージ (Julian Lage)。一昔前はジュリアン・レイジなどと呼ばれたり、ノルウェー出身のラーゲ・ルンド (Lage Lund) と混同されたりもした人ですが、Smapの草薙君似のこの好青年は普通ではないなと常々思います。

Julian Lage
Photo by David Becker / CC BY-SA 4.0

カート、モレノ、クライスバーグ、モンダー、フェルダー、勿論みんな普通ではないですよ。ですが、なんとな〜く彼らを「コンテンポラリー」という言葉でとりあえず括れたとしても、私の中ではジュリアン・ラージはそこに入ってこないのです。私にとってのジュリアン・ラージの魅力はスタイルの新旧とは関係がないっぽい。

仮にオリンピックに「スウィングスタイル・ジャズ」や「コンテンポラリー・ジャズ」等の種目があるとしたら、そこには別途 「ジュリアン・ラージ」という種目 を設けないといけない。そんな気がします。単独で類を形成している ような、そんなすごさ。ジュリアン・ラージというカテゴリー。下の動画など最高です。

今月はソロ・ギターのことをたくさん考えてみようと思ってYouTubeでいろいろ観ているうちに上の動画に辿り着いたのですが、ジュリアン・ラージのスタイルがわかりやすく凝縮されている好演だと思います。モーツァルトってこんな感じの人だったのだろうか。2:24〜のポリリズムはラージの18番ですが、とにかく自然で歌ってます。

ダイナミクスのコントロールがやはりすごいのですが、特徴的なのはクラシック音楽で言うところの “sfz” (スフォルツァンド)的な、局所的な大きいアクセント表現。こういう弾き方する人、他にあまり思い浮かびません。すごく魅力的です。

自然で、自由で、正直で、確信に満ち溢れた演奏。竹を両手で掴んでぐっと曲げて、片方を離せばビュン!としなるだろう? みたいな演奏です(な…何を言っているのか伝わるだろうか…)。One of a kind. A class of his own. 唯一無二。ジャンル不明。もしかすると 宇宙人ジョーンズ のような存在なのかもしれません。

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CHEMEXのコーヒーメーカー

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先日この記事で紹介した “Bear Pond Espresso” でドリップ用のコーヒー豆をおみやげ購入したのですが、お店に「CHEMEX用」という表示がありました。何のことだろうと調べてみるととても有名なコーヒーメーカーらしい。そこでCHEMEX CM-1Cというモデルをゲットしました。使いやすそうな3杯用。

フラスコとか砂時計を思わせるデザインで、スミソニアン博物館やニューヨーク近代美術館に永久展示されているそうです。下側のボタンのような突起まで淹れると大体400mlで私の場合は3杯分になりました。フィルターもちょうどそのあたりまで伸びるので一度に淹れるのは3杯までかな。目一杯淹れようと思えば550mlまで可。

あまりこういうものに凝らないのですが良いものを使うとやはり気持ち良いですね。木製のリングとレザーの紐が良い感じです。インテリアにはほとんどこだわりがないのですが、最近テーブルや机なども木製のものが落ち着くなぁと思うようになりました。

CHEMEXのコーヒーメーカー

このコーヒーメーカーは専用のフィルターが必要。ちょうどフィルター100枚とのセットがあったのでそれを選びました。箱が巨大で笑いました。折り紙みたいに折っていって、注ぎ口のほうが3重になるようにセットしろと説明書にはあります。

CHEMEXのコーヒーメーカー

毎朝、起きてすぐにコーヒー豆をゴリゴリと手挽きして3杯分のコーヒーを入れるのがここ数ヶ月のルーチンになっています。ギターを首にかけてコーヒーが滴り落ちるのを眺めます。ちなみに豆は自分でその都度挽くのが良いです。香りが脳に届きビシッと覚醒します。コーヒー飲まないと一日調子が悪いです。コーヒー最高。

五線譜を読んでいると上手くなる説

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人は五線譜を読めば読むほど、ギターが上手くなるのではないか。という仮説を持っています。どういうことかというと…

例えば「黒本」(最近便利なハンディ版が出ました)のリードシートを例に説明します。私はいま、通勤電車に乗っていて “Confirmation” のテーマメロディを読んでいるとしましょう。p.48のAセクションが見えます。

知っているメロディなので頭の中で鳴ります。最初の音、Aは上に書いてあるコードFの3度。次のCは5度。4度から3度へカッコよく下降して、クロマチック・アプローチでEm7(b5)の3度であるGに着地。と、このように日々考えているうちに、「実音A=FMajの3度・実音G=Emの3度」という関係が脳に定着する。繰り返しやっていれば。

そしてこのメロディを指板の何処で弾くか。脳内で指板をイメージします。最初のA。4弦7Fを薬指で押さえることにしよう。すると見えるのはあのFのフォーム。同じ音を人差し指で弾く。こっち側でも弾ける。どっちが弾きやすいかな。2小節目のC#、A7の3度であるこのC#は何処で弾こう。5弦の4Fか、それとも6弦の9Fか。

1オクターブ上で。2弦10FのAを薬指で。Drop2のFのルートフォームの近く。3弦14Fを薬指、または人差し指で。どのポジションで続けても常に周りにコードトーン・自分の知っているコードボイシングが見えるかな。等々、考えながら読譜します。同時に、音も頭の中で鳴らします。この結果、指板上の音名がより頭に刻まれるのではないか。

実音Aとは? と聞かれたらすぐに B7の7度、GMajの9度、F#m7の3度、GmMaj7の#2、EbMaj7の#11、と次々と答えられるようになるのではないでしょうか。続けていれば。同時に、それを指板の何処で、どの指で押さえればいいのかということも同時に脳に定着するのではなかろうか。という仮説です。

ギターで押さえられないコードの楽譜を読むのも良い効果があるように感じています。例えば下のようなものはギターでは押さえられないのですが、C#7の上にDmトライアドをのっけているのか、C#7(b9, b13)とも取れるな、アルペジオだと指板の何処で弾けるかな…と考えたりします。ギターでは無理な表現から学ぶことも多いです。

五線譜を読んでいると上手くなる説

あと以前、脳神経科学の何かの本で読んだのですが、他の演奏者の指の動きを目で見たり、脳内でイメージすると「指を動かす脳神経細胞」が活性化するらしいんですね。なので実際に弾くのに近い練習効果はあるように思っています。通勤電車の中で下のようなものをボーッとニギニギしているよりもずっと効果的なのではなかろうか…

五線譜を読んでいると上手くなる説

どんな楽譜でも(初見の曲でも)脳は鍛えられると思います。下のような簡単なものでも良いのではないかと。頭の中で音を鳴らしながら、指板の何処で弾けるか、何処で弾こうか、この音程は5度なんだな、などと考える。音楽脳がはたらいているのがわかります。

五線譜を読んでいると上手くなる説

五線譜が読めない、または、読めるけど苦手だ、という場合、あえて読むようにすると良い効果があったりしないのだろうか。私自身は、むかし「視覚的要素に頼りたくない、右脳だけで自由にアドリブできるようになりたい!」と思い、楽譜から距離を置いていた時期があります。それはそれで必要な練習だったのかもしれないのですが…

一つ言えるのは、ギターでよく使われるタブ譜。フィガリングを説明するために必要不可欠な局面はあるものの、あれだけ見ていても脳は活性化しないと思います。ダイアグラムのほうがまだいい。いちばん良いのはやっぱり五線譜。五線譜を読みながら脳内で指板をイメージする。

今年はこれまで以上に楽譜を読んだり書いたりしたいと思います。脳が関与しない指の訓練はあんまり意味がないように感じています。指を動かすのは脳。脳を鍛えるのだ! ゆっくりでもいいので、丁寧に読んでみる。楽しいです。時間が過ぎるのを忘れます。

終点・八王子〜八王子です やべーっ乗り過ごした遅刻!! 

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Ibanezが新しいジョージ・ベンソン・モデルGB40THとGB40THIIを発表

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フルアコファンは注目のニュースです。Ibanezから新しいジョージ・ベンソン・モデルが発表されました。コラボ40周年記念とのことで、GB40THとGB40THIIという2つのモデルが出るようです。日本のアイバニーズサイトでの発表はまだですが北米サイトには既にページがあります

Ibanez GB40TH

Ibanez GB40THII

Images quoted from George Benson GB 40th Anniversary | Ibanez Guitars

Ibanez GB40THは日本語情報ではGB10より1/2インチ「薄い」そうですが北米サイトのスペックを見るとGB10が3 3/8″でGB40THが3 1/2″と、この新モデルのほうが厚いんですよね。あと元になった20周年記念モデルのGB20よりも1/2インチ厚いとご本人が下の動画で言っています。いずれにしてもボディは全部メイプル。価格は税込み¥324,000で40本限定らしいです。

もう一つ出るGB40THIIですが、こちらはどうもトップがスプルース単板らしいです。日本語の情報でも「単板スプルース材」とあるし、アイバニーズ北米サイトではGB10がspruce top, GB40THIIが”solid” spruce topとあるので単板の可能性が高そう。GB10は基本合板のはずなのでこのモデルはちょっと面白そうです。

でも販売店を見ると価格が¥186,300なんですよね。単板トップでこの価格ということは中国製でしょうか。GB10SEより2万円高い。これはちょっと弾いてみたいです。いま新しいギターは要らないのですがGB10は大昔に弾いていたので懐かしいです。ちなみにGB40THIIはパット・メセニー・モデルのPM2と同じアンティーク・アンバーカラーなんですね。

GB40THは4月下旬、GB40THIIは2月下旬発売だそうです。この情報、知らないほうが良かったかな(笑)。新しいギターはいりません。ES-175とES-335でずっとやって行くと決めたのです。しかし、人は変わるものだ。考えが変わったっていいじゃないか。もう1本くらい、別にいいじゃないか…誰が困るわけでもない…もう1本くらい…

ジュリアン・ラージが局所性ジストニアに陥った後、それを克服した話

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ジュリアン・ラージが昨年(2016年)4月にラジオ番組で行われたインタビューの中で、左手を痛めた話をしていました。長いのですが、興味深い内容だったので要点をまとめてみました。なお英語でのインタビュー文字起こしは Jazz Guitarist Julian Lage On ‘Arclight’ And Shifting Musical Genres で読めます。

最後のほうの “That’s Julian Lage playing his song “Day And Age” from his last year’s acoustic solo album…” あたりからこの話題になります。下のプレイヤーで、18:39頃からその部分のジュリアンの肉声を聞くことができます(イイ声してます!)。

  • 左手を吹っ飛ばして(blew out)しまった。3〜4年前、カリフォルニアのショーで弾いていた時、左手が痙攣した後、言うことをきかなくなった。とても強くグリップしていたので指が完全にコントロールを失ってしまった。
  • そんなことは全くはじめてで、なんてこった、僕は何をやってしまったんだ?と思った。そのショーは薬指と小指だけでなんとか乗り切った。ステージを降りると左腕がだらんとしていた。そちら側の神経を完全にショートさせてしまったように感じた。医者に診てもらってMRIを撮ってもらったりしたが、これといった神経の損傷は見当たらずはっきりとした原因はわからなかった。
  • それって「局所性ジストニア」(focal dytonia)っぽい症状だね、と周りの人が言いはじめた。神経症状の一つ。簡単に言うと、脳が同じ活動を何度も繰り返しやるように命じられるとーたとえばタイピングとか、ピアノとか、ギターを弾いたりとかー、脳はもっと効率良くなろうとすることがある。その結果、人差し指にひとつの信号、小指にひとつの信号を送るかわりに、脳はこんなふうに言うんだ、「なんだ、全部同じ場所に信号が行ってるじゃないか。ならこれらの信号を束ねてしまおう」。
  • その結果、手がまるで1本の巨大な指になったか、2本しか指がないように感じることになる。手に指が5本あることが感じられなくなる。退屈な練習を何年も続けてきたんだろう、脳がおかしくなっても無理はないよ、と言われた。
  • ギターについての思い込み (beliefs) を常に再検証しないといけない。ギターについてこれまで自分が持ってきた考えは、今の自分にもあてはまるのか。ミュージシャンはこういう更新作業をよくやる。僕がこれまで一度も振り返ってこなかった最大の事は、僕が「力」をどう捉えてきたかということだ。
  • 5歳の時、ギターは僕よりも大きかった。そのためギターを弾くには、ギターに抱きつくようにして、大人のような音を出すために力を入れなくてはならないと思い込んだ。左手も右手もギュッと力を入れていた、一つはきちんとした音を出すために、そしてもう一つは、ギターを落としてしまわないように。
  • そして考えてみた。僕はその頃よりも背が大きくなったし、力も付いた。自分はそういう変化を上手に使っているだろうか。それともギターがまだ自分の3倍の大きさであるかのように握っているのか、と。
  • そうしてまずはじめたのが、プレイをやりなおす練習ではなく、ギターをどうやってバランスよく持つかという練習。ここに座る、膝にギターを置く、そしてギターが落ちるまでどの程度身体を傾けられるか試して見るんだ。
  • ギターがずれはじめると、身体がこわばって腕がヘンな感じになるんだ。この時、一音たりとも弾いていないんだよ。もうちょっと身体を傾けて、ギターが落ちそうになったらキャッチする(という練習をした)。カウチのそばでそれをやる。カウチにギターが落ちるのに任せる。ギターを放し、それをもう一度掴むというのが(リハビリの)第1段階。
  • 第2段階ではとても基本的なテクニック面を見直した。フラメンコとクラシックの素晴らしいギタリスト、ファニート・パスカル (Juanito Pascual) とジェラルド・ハーシャー (Jerald Harscher) もこの症状を経験していて、彼らに救われた。いちばん大きかったのは、子供のとき僕は左手を、オレンジを持つように、ギターに触るんだと教えられていたということ。
  • 左手でアルファベットのCのようなシェイプをつくり、(ネックに)圧力をかけていた。でもこの2人の先生は、手が実際にどう動くものかを教えてくれた。そして手がほとんどギターに潰れるような持ち方を教えてくれた。だからいま僕は、左手をネックに押し付けるようにしている。戦闘機のパイロットが正確にターゲットを撃つ時のような感じじゃなくて。大きい意味で正確さを放棄したんだけど、皮肉なことに、このおかげでより大きい正確さを得ることができたんだ。

このインタビューは新作 “Arclight” の成り立ちについての部分もかなり面白いのですが、この局所性ジストニアについての話ではジュリアン・ラージの秘密に触れたような気がしました。

ラージのあの躊躇のない、クリアで輪郭のはっきりした(そして時々デカイ)音。あれは子供の頃に、小さい身体だけれど「大人に負けない感じの音」を出そうと頑張った結果なのでしょう。それが彼の魅力的な音色と楽器の完璧なコントロールに繋がった。そして皮肉なことに、それは局所性ジストニアに繋がることにもなったのでしょう。

ただ最近のラージの左手のフォーム(下の動画は2016年6月4日撮影)と、LAで左手が痙攣する以前のフォームをいくつか見比べてみたのですが、私には極端に大きく何かが変わっているかは判別が付きません。恐らく力のかけ方、脱力具合はかなり変わっているのでしょう。

この「局所性ジストニア」の話で特に興味深かったのは、次の箇所でした。

同じ活動を何度も繰り返しやるように命じられると、脳はもっと効率良くなろうとすることがある。その結果、人差し指にひとつの信号、小指にひとつの信号を送るかわりに、脳はこんなふうに言うんだ、「なんだ、全部同じ場所に信号が行ってるじゃないか。ならこれらの信号を束ねてしまおう」。その結果、手がまるで1本の巨大な指になったか、2本しか指がないように感じることになる。手に指が5本あることが感じられなくなる。

In a nutshell, it deals with the fact that your brain, if asked to do a certain activity so many times repeatedly – like, you know, typing, playing the piano, playing the guitar – the brain can start to almost try to become more efficient. And rather than giving you, you know, one kind of signal for your index finger another signal for your pinky, your brain will say, hey, we’re – it’s all going to the same place. Let’s kind of combine those.So you end up feeling like you have one big finger or you have two fingers. You don’t feel the five digits of your hands.

私達が何のために楽器を練習しているかというと、ある意味、脳に効率的な動きを覚えさせる、という面があると思います。脳というのはもともと怠け者で、高い効率を求めます。最小の労力で最大限の効果を得ようとする。だからこそ、良い練習をたくさんやれば、誰でも少しづつギターが弾けるようになってくる。脳がどうやれば効率的に弾けるかを学習するから。同じ内容を死ぬほど繰り返していれば大抵のものは、個人差はあっても、遅かれ早かれ、弾けるようになる。

しかしそれがある閾値を越えてしまうと、脳は「わっはっはっ、いつも左手の指をガシガシ動かしてるなー、この複雑な動きにも慣れてきたけどさらに効率的にしてやるかー。このバラバラの信号をまとめて一回で送信しちまうかーワハハハ」というハイパー怠け者になってしまい、手が痙攣する、ヒューズが飛ぶみたいに神経回路が飛ぶ、ということが起こるのでしょう。

腱鞘炎のような筋繊維面での怪我も気を付けないといけないですが、この「局所性ジストニア」という症状はどうも「上達すること(効率良くなること)」と表裏一体の関係にある症状のように思えるので、恐ろしいなと思いました。でもジュリアン・ラージ、これを乗り越えてさらにミュージシャンとして成長してしまったのでしょうか。

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ジュリアン・ラージの神童時代

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5歳の頃からギターを弾きはじめたジュリアン・ラージ。この記事で触れた彼のフォーカル・ジストニアは、小さい頃「大きいギターを落とさないように、大人のようなしっかりした音で弾こう」としていたことに遠因があったようです。

下はそのジュリアンが8歳の時の動画。確かに、既に立派な音を出していますね。頭の後ろにギターを抱えたT・ボーン・ウォーカー・スタイルでJ.S. Bachのインベンション(2声・No.4 D moll)などを弾いています。誰が教えたw

下は9歳の頃のジュリアン。まさかのカルロス・サンタナとの共演(1:40〜)。子供の頃は主に父親制作のテレキャスターとポール・リード・スミスのストラトを弾いて育ったとのことなので、このストラトはPRSなのかもしれません。そして9歳にしてこの泣きのギター。一緒にジャック・ダニエル飲もうぜ!

12歳でグラミー賞のステージに上りました。この時すでにリンダ・マンザー作のフルアコ “Blue Note” を弾いているんですね(デビュー作 “Sounding Point” のジャケットで抱えているギター)。12歳なのに「オヤジ、ストレートだ。チェイサーはいらねーぜ!」。お、おう…

確かに8〜12歳の時点でこれだけ弾けているとなると、大人になってからも「同じ力のイメージ」でネックやギターをホールドしていたらトゥー・マッチになるのかもしれないな、と思いました。

そして神童は最高にカッコいい大人になりました。ジュリアン・ラージ、現在29歳。下の動画は去年、28歳の頃。

下の4枚は上から順にこれまで出たジュリアンのリーダーアルバム。デビュー作 “Sounding Point” は8年前、2009年の作品。当時21歳。「神童も二十歳過ぎればただの人」になるとよく言われますが、この人は本物のアーティストになりました。これからどうなっていくのか見当も付きません。

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ギターであることに抵抗し、ギターであることを受け入れる

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私達が音楽表現の際に使用する楽器がギターであるとして、そのギターという楽器の制限・制約にどのように向き合えば良いのか。これまで様々なギタリストの言葉を見聞きしてきたのですが、大きく分けて2つの異なる意見があるように感じています。

意見A:ギターという楽器の制限に縛られるべきではない。楽器の構造がメロディの発生や展開を妨げるようなものであってはならない。「弾きやすいから」という理由でそのメロディ、そのフレーズを弾くのは、どうなのか。また、どんなメロディもあらゆるポジションで同じニュアンスで弾けるよう、訓練を重ねるべきである。私達はサキソフォンのようなホーン・プレイヤーたちに学ぶべきだ。何故ならジャズという音楽、とりわけビバップはサックス奏者が進化させてきたのだから。またホーン奏者において、メロディは呼吸と深い関係を持っている。それは「歌」にとても近い。ギターは息を止めていても延々と弾き続けることができる。しかし、それでいいのか。

意見B:私達が表現のために使っている楽器は、ギターである。サックスでもない。ピアノでもない。ギターである。その現実を受け入れるべきだ。ギターで弾きやすい音型と、弾きにくい音型がある。サックス奏者やピアニストに学ぼうとしても、ギターでは同じ流暢さで弾くのが難しいフレーズも少なくない。ギターで弾きやすいメロディを弾いても良いのだ。そしてチョーキングやダブル・ストップやスライドや異弦同音やカウボーイ・コードのような「ギター的な表現」をもっと積極的に使ってもいいのだ。ロックギタリストが使うようなマイナー・ペンタニックのフレーズを使ったっていいのだ。何故ならそれはギターなのだから。

上の各意見は、誰か特定のギタリスト1人の言葉ではなく、様々なギタリストの意見を総合したものです。どちらの意見にもそれぞれの正しさ、説得力があるように感じます。意見Aに傾いているギタリスト、意見Bに傾いているギタリスト、どちらも好きです(ただ自分自身はかなり長いあいだ意見Aの中で生きてきたような気がします)。

意見Bのほうが、どちらかというと少数派のような気もします。ジュリアン・ラージは明らかにこのタイプ。ティム・ミラーやオズ・ノイは、そういう発言はしていないけどテクニック的なアプローチを考えると多分こちら。少し上の世代だとジョン・マクラフリンやマイク・スターンもこのタイプじゃないかな。ヴィック・ジュリスとバーンスタインもかな。ビル・フリゼルも絶対こっち。なんだ、わりと多い(笑)。

意見Aは、これを全てバシッとこの通りに主張しているわけではないのですが、ジョン・アバークロンビー、パット・メセニーが代表的かもしれません。アバークロンビーは教則動画の中でギターの制限に縛られないことについて語っている時、”I have nothing against guitar…(ギターという楽器に不満があるわけじゃないんだけど)”と付け足したことがあって、その時「これは結構奥深いテーマだな」と思ったのでした。

先日ジュリアン・ラージのクリニック動画を見たのですが、子供の頃にパット・メセニーのレッスンを受けたのだそうです。その時、マイナー・ペンタトニック(6弦ルートを人差し指ではじめるアレ)で適当に弾いたら そんなの弾いちゃダメだっ! と怒られたのだそうです(容易に想像できて可笑しい)。でもジュリアンは、僕はそうは思わないんだよ、これは弾いたっていいんだ…と語っていたのがとても印象的でした。

隣の芝生は青く見える、というか、誰でも自分以外の存在に、外の世界に憧れを持ちますよね。自分にないものに憧れる。音が早く減衰する宿命のギターを弾いていると、ホーン奏者の力強いロングトーンやオルガンに憧れる。10本の指で音を叩くピアノに憧れる。ドラムに憧れる。ギターを使って、ギターでは難しい表現を試したくなる。

ではギターはダメなのか。ギターだからこそ可能な、ギターならではの表現を追求してはいけないのか。というとそんなことは決してないだろう、ということですよね。

ギターという楽器の恩恵を受けること。ギターという楽器の魅力を最大限に弾きだすこと。ギターに助けられること。それはきっと、悪いことではまったくない。多分、ギターという楽器の性質に惰性で頼ってしまうと、いい表現にはならない。それだけのことなのかな、と思います。ギターに依存するのではなく、信頼すること。共に歩むこと。

即ち、愛。愛があれば、それでいい(き、決まったぜ…)。

これは「自分自身であることに抵抗し、自分自身であることを受け入れる」という話にも繋がって行くのでしょう。自分自身を越えたい。自分にはまだない、より豊かな表現を目指したい。誰でもそう思うはず。だからといって自分を否定する必要もない。自分を理解し、自分の魅力を引き出す努力をする。自分に愛を持って接する。それが大事。

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カート・ローゼンウィンケルの使用ギター変遷 (2001-2016)

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カート・ローゼンウィンケルの使用ギターについて時系列順に振り返ってみます。

Ibanez AS120 (?)

下は2002年のIbanez USAのカタログからのスキャン。アイバニーズとエンドース契約を結んでいたとは驚きです。当時31〜32歳と思われるカートが手にしているのはAS120かな。心配になるくらい痩せてますが、ちゃんとごはん食べていたんだろうか。大成して良かった(これを弾いているカートの動画は残念ながら見つけられず)。

カート・ローゼンウィンケルの使用ギター変遷 (2001-2016)
Image quoted from ibanezrules.com

Gibson ES-335

若い頃のカートはGibson ES-335を使っていた時期が長かったようです。赤い335を持っている姿はよく雑誌で目にしましたが、下の最初の動画では白い335を弾いています。サックスはマーク・ターナー、2001年の録画。もしかすると現存する最も古い「動くカート」の映像でしょうか。2番目の動画は2009年。

D’Angelico NYSS-3B

カートといえば日本製ディアンジェリコのセミアコ・NYSS-3Bを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。はじめてカートのライブを見たとき彼が弾いていたギターもこれでした。ES-335から少しづつこのギターを使う頻度が増えた感じだったのかな。カートに憧れて私も一時期使っていましたが、とても重いギターでした。

Moffa Archtop

ドメニコ・モッファ (Domenico Moffa) というイタリアの個人制作家のフルアコも使っています。ダブル・カッタウェイとシングルカッタウェイ(2番目の動画)の2本を所有しているようです。名盤 “Reflection” は2本のモッファ・ギターで録音されたと聞きます。シングルカッタウェイのモデルは “Maryan” という名称らしい。

Moffa Semi-hollow

最近、同じドメニコ・モッファの手によるものと思われるセミアコ的なギターを弾いている姿もよく見かけるようになりました。この演奏、最高ですね。

YAMAHA SG

そして3〜4年前、カートは来日公演でまさかのYAHAMA SG(恐らくSG2000)を使用。下のOJMとの演奏は録画年が不明なのですが、SG使ってます。ソリッドです。穴の開いていないギターです。でも音はカートです(笑)。

Westville Butter

ここ数年、カートは渋谷のアーチトップギター専門店Walkin’プロデュースのギターを使うことが多いようです。下ではWestvilleというウォーキンブランドの “Butter” というセミアコを弾いています。このギターを弾いているカートのライブも実際に見ました。知人所有の同機種を借りたことがあるのですが、これも重たいギターでした。

Westville Vanguard Plus Double Cutaway (Kurt Rosenwinkel Signature Model)

上の “Butter” は現在でも制作・販売されているようですが、カートのシグネイチャー・モデルのためのプロトタイプという位置付けだったらしく、最終的に下の “Vanguard Plus Double Cutaway” に結実したようです。このギターもカートがライブで弾くのを聴きましたが、最高に良い音 でした。というか “Butter” よりも好みの音でした。

他にもYAMAHA SA2200, Ibanez GB-10, Peerless CremonaやMcCurdyを使っている姿も目撃されています。現在ベルリン在住のカートの家のリビングの写真を見たことがあるのですが、素性の良くわからないギターがごろごろ転がっていました。一つのギターにこだわるというよりあれこれ試すのが好きな人なのかもしれません。

ここ数年のカートはElectro-Harmonix HOG2等でかなり音をいじっている(フルートっぽい音はこれで作っているらしい)ので、サステインがあって弾きやすく、エフェクト乗りの良いギターなら大体何でも良い、という傾向になってきているのかなと推測します。渋谷ウォーキンのギターは勿論良いものなんだろうけど。

Electro-Harmonix HOG2 並行輸入品
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追記:YAMAHA SA?を弾く20歳頃のカート

Twitterでカート最古の動画と思われるものを教えていただきました。1990年録画なのでカート20歳。黒いギターは一瞬バリトンスイッチ付きのES-345かなと思ったのですが、ヘッドストックを見るとYAMAHA SA系のようです。ピックガードを外して、ギターシンセ用ピックアップが付いているようにも見えます。

このお宝動画教えていただいた方、どうもありがとうございました。

そして来月2月10日はカートの新譜 “Caipi” がリリースされます。エリック・クラプトンの参加で話題になっています。海外版も同じ日のリリースで現在予約受付中です。

カイピ Caipi (Japan Edition)
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練習したら飲みトーク

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夜の練習をガッツリ終えてひと風呂浴びたら、冷蔵庫から冷えたビールを取り出します。そしてテレビ…ではなく、最近のマイブームはこれ。ジャズギタリスト・宇田大志さんのYouTubeチャンネルの楽しい動画を鑑賞します。

宇田さんのYouTubeチャンネルには説明がとてもわかりやすいピンポイントレッスン動画がたくさんあって、時々参考にさせていただいています。そしてレッスン動画以外に「飲みトーク」という雑談中心の動画シリーズがあり、これがまた楽しいのです。

練習したら飲みトーク

毎回、宇田さんが世界各地の(?)ビールを片手に昔どんな練習をしていたか、ライブやセッションでどんな経験をしたか等々、様々なテーマでお話してくれます。で、こちらもビールを用意し、モニターに映る宇田さんを前にして飲みます。テレビよりずっと面白い(笑)。

最近レッスンでお忙しいらしく新作動画のアップ頻度が少なくなるかもとのことですが、面白い過去動画がたくさんあるので未見の方は是非。レッスン動画も面白いです。その宇田さん、今年は本格的な教則動画を製作予定だそうです。これも楽しみですね。

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Julian Lage Trio at Cotton Club

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2017年2月初旬、コットンクラブでジュリアン・ラージ・トリオのライブを観ました。これは 万難を排して目撃しておくべきステージ だったと思います。すごいものを観ました。行けて良かった!

ベースはJorge Roeder、ドラムはEric Doob。最新作 “Arclight” からのナンバー、数週間前に録音を終えたばかりという新作からのナンバー等をたっぷり演奏してくれました。

Julian Lage Trio at Cotton Club

機材はギターがFender Telecaster、アンプがDeluxe Reverb。足元はPolytune, Tube Dreamer+strymon Flint。ジュリアンはアンプのリバーブを使うのがいまはあまり好きでないみたいで、Flintはトレモロでなくリバーブのために使っているようです。ある意味、直結に近い漢らしいセッティング。演奏中は全く操作することもなくかけ放し。

音量は予想よりも小さめでしたがその分ダイナミクスがよく伝わる演奏でした。後半に進むにつれ熱くなっていったので、マージンを取っているのかなと思いました。クランチがかったテレキャスの音色、素晴らしいのですが、楽器というより指による音色のコントロールが本当にすごい。

同時に押弦している音が全部、音色が違う。太い音、テレキャスらしいトレブリーな音が混在。いったいどうなっているんだと思いました。4本の各指が音色レベルまで制御されているかのような印象。そんな繊細なコントロールができているのに、ダイナミックすぎる演奏。俺は何を見ているんだ…

そしてクオンタイズ不可能に思えるほどの自由すぎる譜割り。8分、3連、16分、5連符、6連符…加速したければ加速し、昇りたい時に昇って下りたい時に下る。指板はどんな障壁もないフリーダムすぎる世界。あとこのメロディは何だろう。ビバップ的なフレーズなんか一瞬たりとも出てこない(笑)。

超絶技巧という言葉さえ意味をなさないほどの自由さ。普通の人間がギターを使ってメロディを弾くとしたら、ジュリアンは自分自身がメロディそのもの。メロディ生物。と同時に、本当にギターらしい表現でもあり、最高のメロディであると同時に最高のギター・ミュージックでもありました。

ジョー・パスがバーチュオーゾだとしたら、ジュリアン・ラージは魔法使いという感じでしょうか。これが同じ人間なのかと。しかし、そんなジュリアンも昔はコード1つにつきボイシング1つしか知らなかった、みたいな時期があったらしい。絶対音感もないから作曲する時はよく音高を間違える、とか。人の子なんです。本当か(笑)。

指板は全くと言っていいほど見ない。楽器のサイズ、指板のエリアを身体で正確に感受しているんだと思います。特筆すべきは「身体の大きな動き」。アップピッキング時の腕の大きいモーションや、コードをかき鳴らす時の、膝を折って前に身体を投げ出すようなダイナミックな動き。あれは彼の演奏を理解するヒントになると思いました。

先日この記事でも触れたのですが、ジュリアンは一時フォーカル・ジストニアに陥ったらしい。その遠因の一つが、幼少期からギターを弾きはじめたため意識の中でギターという楽器が非常に大きいものであり続けてしまったこと。

ジュリアンは他の場所でも、「ギターのサイズを小さく感じ取る練習方法」を紹介しています。ギターを持ったまま左手をヘッドの向こう側に伸ばして、手前に戻す運動とか。そういう大きい動きで、ギターと自分の関係を調整した。そのことが、今回の演奏でもよくわかりました。アレクサンダー・テクニークとも関係がありそう。

ロック・ギタリストが開脚ジャンプしたりギターを振り回すことがあるけれど、ジュリアンの大きい動きは少し意味が違うのかもしれません。しかし元気に、ダイナミックに動きます。見ていて気持ち良いです。あれは感情の発露というより、「ギターとの適切な接触感」をキープするために彼の中で必要な動作なのだろうと思いました。

ホルヘとエリックも “Arclight” のメンバーでなかったのでどうなんだろうと思っていましたが、すごく良かった。ちなみに、ジャズかどうかと聞かれたら、ジャズではないんだろうけどジャズを通過していないとできない音楽なのでしょう。”Arclight” というアルバムはとても面白くて、ビバップ以前のアメリカ音楽のカバーなんですね。

ジャズ以前の音楽を、ジャズをくぐり抜けてきた男たちが演奏する。ジュリアン・ラージ、29歳。これから先、何処に行く。「ライブの後、後ろで飲んでるからギターの話をしに来てよ…!」。すごくいい青年でした。間違いなく世界最高のギタリストの一人でありましょう。ジュリアン、素晴らしいギター音楽をありがとう!

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パット・マルティーノを巡るアンビバレンス

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海外のギタリストが時々、”…like someone like Pat Martino.” という言葉をポロりと口にすることがあります。「パット・マルティーノのような人(みたいにさ)」。この言葉を耳にする度、何とも言えない不思議な気持ちになるのは私だけでしょうか。

パット・マルティーノを巡るアンビバレンス
Photo by Tom Beetz / CC BY-SA 2.0

例えばジョン・スコフィールドは何かのインタビューで、自分はオルタネイトでフル・ピッキングができなかった、パット・マルティーノのように やろうとしてもできないことを悟った、だからレガートなプレイに方向転換したんだ、と語っていました。その時の彼の口調は何とも不思議な感じでした。唐突にマルティーノの名前が出てきた感じ。

(そして「ああ、言うんじゃなかった…」という気持ちがジョンスコの顔に表れていたようにも。それは私の考えすぎかもしれないけど)。

そしてヴィック・ジュリス。パット・マルティーノのような人みたいに 音符を詰め込まなくたっていいんだ、と教則動画で言っていました。あれ、もしかして軽くディスってんのかな、とも思ったのですが、ジュリスおじさんがそんな意地悪な人なわけがない(彼はマルティーノに一時習っていたと聞いたこともあります)。

ジョンスコもヴィック・ジュリスもパット・マルティーノとは良い友達らしいんですよね。だから彼らが「パット・マルティーノみたいに…」と口にする時、それは決して貶しているわけではないはず。でも、どんな気持ちなんだろう。マルティーノの名前を口にする時、みんなビッミョ〜な空気なんですよね。バツが悪そうというか。

思うに2人とも一時はパット・マルティーノにガツンとやられて、そういうプレイを目指したのではないか。でもそれは無理だというのがわかって、自分の道を探すことにした。そういうことじゃないかな、と私は思っています。

“Someone like Pat Martino” 的な言葉は、日本の有名なジャズ・ギタリストの口からも度々耳にしたことがあります。多くの場合、少しネガティヴな文脈で口にされると思います。あのシーツ・オブ・サウンド的な、空間を埋め尽くすようなプレイに対して、少し批判的なニュアンスで、「弾きまくることは悪いことだ」の代表例のような感じで。

故・高柳昌行氏がマルティーノを酷評していたのは有名な話だけれども、氏以外の有名ギタリストもマルティーノ批判をすることが多いと思います。でも多くの場合、その方々も若い頃にはマルティーノをコピーしていた時期があったり。大嫌い、と言いながらも「でもなぜそこまでお詳しいのですか」ということが多々あります(笑)。

でも、何となく何故そうなるかわかるような気もします。私自身マルティーノは20代かなりハマっていろいろコピーしました。同じ流暢さで弾けるようにはならなかったけど、”Along came Betty” とか今でも大好き。同時にマルティーノが嫌いになった時期もありました。またこのフレーズか、それどうなんだ、という気持ちになったのです。

でもそういう気持ちは、マルティーノ以外にも、パット・メセニーに対しても持ったことがあります。そういう時期があった。でも今はそういうのを通り過ぎて、マルティーノもメセニーもあらためて大好き。あれは何だったんだろう。好きになりすぎると一度嫌いになるのかな(笑)。

アンビバレンス (ambivalence) という言葉があります。相反する感情、という感じの意味でしょうか。人はパット・マルティーノのことを思う時、アンビバレントな感情を持つことが多かったりするのかな。あんなふうに弾けたなら、とまず思う。で、真似してみて、これは無理だ、と思う。その後、一度嫌いになる。

でも心の底では、すごい人だというのがわかっている。言葉には出さなくとも、(悔しいけど)マルティーノはすごい。かなわない。そう思っている方が多いんじゃないか、と最近思うようになりました。時々賛否両論があっても、やはりとんでもなくすごい人、別格な人だという前提がみんな気持ちの底にあるんじゃないか、と。

あまり人気がないかもしれないけど、弾きまくっていないマルティーノのアルバム、マルティーノのオリジナルとか結構好きです。”The Maker” なんか良かったな。なんとも言えないリリシズムがあります。いつものマルティーノ・フレーズだし、懐かしい感じのジャズだけれど、それがいい。”This Autumn’s Ours” とか最高。

マルティーノはデビュー当時に既に完成されすぎていたのだと思います。クラシックにおけるモーツァルトのように。最初から完成されすぎていたので大きく進化する必要がなかった。最初から全てが備わっていた。そのことに私達はたまにジェラシーを覚えたりするのでしょうか。

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ギターとピアノの垣根を超えたスタンリー・ジョーダンが性の垣根をも越えた話

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話題に上る機会は少ないのですが、スタンリー・ジョーダンというギタリストがいます(先月、2017年1月に来日していました)。両手タッピングでまるでピアノを弾くようにギターの指板を叩き、むかし時の人になったことを覚えている方も多いのではないでしょうか。

Stanley Jordan
Photo by chascar / CC BY-SA 2.0

エディ・ヴァン・ヘイレンやイングヴェイ・マルムスティーンのような両手タッピングでジャズを弾くので、当時は「あんなピロピロはジャズじゃない」などと揶揄する人も多かったように思います。でも、私は結構好きで何枚かCDを持っていました。”Magic Touch” の”Eleanor Rigby” とか、Led Zeppelinのカバーとか、奏法の特殊性を越えたところでこの人のメロディセンス、歌い方が好きだった記憶があります。

言ってみれば「ギターとピアノの垣根を越えた」スタンリー・ジョーダンですが、近年は「男と女という性の垣根」も越えた感じになっているようです。外面的にはストレートの長髪になり、女性的な服を着ることも多いらしい。下は2013年のスタンリー。

この彼の変貌ぶりに対して、YouTubeなどではスタンリーに対して侮辱的なコメントを目にします。かつてスタンリーのメロディに耳を傾けない人々が、彼の奏法だけを好奇の目で見てバカにしたように、最近はスタンリーの外見上の変化が好奇の目に晒されているようです。

しかしJazzTimesの Stanley Jordan: “My Spirit Transcends Gender” (「私の魂はジェンダーを超える」) というインタビューを読んで、スタンリー・ジョーダンという人が表現者として驚くほど一貫性を持っている人であることを知り、私はこの人がさらに好きになりました。

スタンリーは2010年頃、お店で女性ものの花柄ブロケードのミニドレスがすごくいいなと思って、彼女のために買うんだと店員に嘘をついて自分のために買った。そしてホテルに持ち帰り、鏡の前で着てみた。その時の女性的な外見、自分の身体の女性的な要素に衝撃を受けた。そして自分の身体の男性的な部分と女性的な部分が調和的に融合していることに気付いた。

本来私は女性だったのだ、とか、そういう話とは少し違うらしい。自分をトランスジェンダーと思うか、と聞かれたスタンリーは、わからない、正直なところ、自分は「スタンリー」というラベルがいちばん良いということ以外わからない、と答えています。スタンリー・ジョーダンは自分の内面に正直な人なのだと思います。

ギターをタッピングしたかったのも、とてもそうしたい、そうするのが自然だという自分があったんじゃないのかな。女性的な服を着るようになったのも、ドレス・ショップの前で美しい服を見て感動し、あれを着てみたいと思ったから。ギターかピアノか、男なのか女なのか、という区別は、スタンリーにとっては恐らく表層的で単純すぎて面倒臭いものなのでしょう。大切なのはメロディ、大切なのはスタンリーという自分。そういう生き方なんだろうなと思いました。

外見上の変化が彼の演奏に影響を及ぼしたかと聞かれて、スタンリーは同インタビューの中で次のように答えています。

自分の音楽における表現性はより深くなったように感じているし、心がよりオープンになったせいでアイデアがより自然に流れるようになっている。本物 (authentic) であるためには、私は自分のアイデンティティを構成する要素の全域を表現する必要がある。でもそれは、この外見しかないとか外見Aから外見Bに変わったとかいう次元の話ではない。もっと、フロー(流れ)に自由に身を任せるということ。朝、目を覚まして「今日は赤いストライプのタイにしようか、それともブルーとグリーンのタイにしようか?」と考える人みたいに。みんなと同じようなことだよ、ただもう少しバリエーションがあるということさ。私は自分がより居心地良くなるためには、一般的な基準よりも多くのバリエーションが必要だということに気付いたんだ。

そしてジャズにおける男性性と女性性についても興味深い発言が。

ジャズの世界には2つの基準がある。ジャズ・ワールドは非常に男性的だ。リーダーが多くの場合、男性だからというだけでなく、男性的なエネルギーがとても高く評価されるんだ。それは私がジャム・セッションに飽きてしまった理由の一つ。だってジャム・セッションはテストストロン過多だからね。何もかもがエゴであり、ソングへの尊敬もなく、メロディのコンセプトもない、ニュアンスもない。彼らはテーマを演奏すると、「OK、テーマは終わった。あとはぶっ放そう!」となる。古いジャズメン (the older cats) はそんな感じではなかった。彼らは音楽と、ある種の関係を持っていた。そしてその関係は、女性的なクオリティの一つだったと思うんだ。それは失われてしまっているんじゃないかと私は思う。

男性的なエネルギーはパワフルで強制的な力がある。でも私は、ジャズはそれを克服する必要があると思う。楽器を振り回して技巧を見せびらかすようなことがたくさんある。女性的なエネルギーは、もっと音楽との関係に関わるもの、音楽がどのように人を導いてくれるかに関わるものだ。それはシンプルで美しい。それは人を裏切らない。それは複雑なものにもなりうるけど、そうなったとしてもアイデアが流れる(フローする)からであって、自分のすごさを証明しようとするからじゃない。自分の本当のバランスを見つけることで、私は自分の音楽を深めることができている。どちらのエネルギーも良いものだ。ミュージシャンはそれら2つのエネルギーのあいだの適切なバランスを見出すために、自由であるべきなんだ。

スタンリー・ジョーダンのこの言葉を読んで、人は彼のギターを「ピロピロ」などとバカにできるでしょうか。最近の彼の女性的な容貌を揶揄することができるでしょうか。後ろ指を指すことができるでしょうか。YouTubeのコメント欄に悪口を投稿することができるでしょうか。できるわけないよね。と私は思うのであります。

Magic Touch
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日常生活で左手を使うことの意味

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意識的にやるようになって2年くらいになると思いますが、日常の何気ない動作をなるべく左手に任せるようにしています。

利き手でない左手がより器用になればと思ってはじめました。ペンで文字を書くのはさすがに右手ですが、ドアノブを回したり、引き出しを開けたりといった動作。去年から自分でコーヒー豆を買ってきて手挽きするようになったのですが、コーヒーミルの取っ手も左手で廻します。

日常生活で左手を使うことの意味

最初は動きがぎこちないのですが、何度も繰り返しているうちに慣れてきます。すると気付くのが、左手・左腕をうまく操作するのが難しく感じるのは、右手・右腕に比べて力が不足しているからではない、ということ。むしろ妙に力が入っているからなのだ、と私は感じました。力がうまく逃げてくれると、動きがスムーズになってきます。

先日テレビでゴルフの松山英樹選手が紹介されていたのですが、高校時代の彼は体のバランスを整えるために左手で箸を持ってごはんを食べていました。おおっ、スーパーゴルファーもやっていたのだからこれはきっと良いトレーニングに違いない、とあらためて思いました。これは脱力するための訓練になっているのだろうと思っています。

写真のカリタのコーヒーミルで3杯分の豆を左手で挽くのに数分かかります。お湯を沸かしはじめてからゴリゴリと挽きはじめ、ちょうど沸く頃に挽き終わります。忙しい朝はたまに電動に換えようかな、と思ったりもするのですが、左手にも良いし、何より香りを楽しめるのでやっぱり手挽きがいい。自分の五感を大切にしないと。

豆の状態によっては抵抗が大きく、滑らかに一定の速度で取っ手を廻すのが難しいことがあります。そんな時、無理矢理左手に力を入れても豆が吹っ飛ぶだけで、うまく行きません。いい感じで廻る、ちょうど良い力のポイントがあります。その感覚を掴むと、これだ、この力加減だ、と何かわかったような気になります。

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ヤマモリのグリーンカレーが一つの完璧なエチュードに等しい絶品である件

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世界中に星の数ほどあるジャズギターに関するブログたち。その中の一つにすぎないこのブログをたまたま読んで下さっている方に対して、私はお伝えしなくてはいけないことがあります。ヤマモリのグリーンカレーは、一つの完璧なエチュードである、と…

私がこれまで書いてきたジャズとギターに関する様々な考察の到達点は、このグリーンカレーだったのかもしれない、と思えるほどです。このカレーをご覧になったことがあるでしょうか。日本の「ヤマモリ」という会社が出しているレトルトのゲーン・キャオ・ワーン、すなわちタイ風グリーンカレーなのですが、これが ウマイ のです。

ヤマモリのタイカレーが一つの完璧なエチュードに等しい絶品である件

私は食通ではないですが、タイ料理にはかなりうるさいほうです。通っている隠れ家的タイ料理店があるのですが、それについてはネットでは一切書けません。しかし「ヤマモリのグリーン・カレー」は、「レトルトの分際でここまでやるのか」という超絶クオリティ。そのへんの中途半端なタイ料理店を軽く凌ぐクオリティ なのです。

ヤマモリのタイカレーが一つの完璧なエチュードに等しい絶品である件

味もすごいのですが「具の配分」にいつも感心します。必ずレモングラスが1枚、青唐辛子が1本、シャロットとなすのスライス、チキンの塊が必ず一定数入っているのです。適当に具が入ってりゃいい、という感じではない のです。クオリティ・コントロールがなされているのです。トヨタなのか。カイゼンなのか。 と嘆息するほどです。

ヤマモリのタイカレーが一つの完璧なエチュードに等しい絶品である件
(写真上) 最近愛用のCHEMEX で淹れたコーヒーと一緒に。コーヒーは自分で豆を挽いたほうがおいしいですね!

それは私が「自分用のエチュード」を作る際に心がけていることだったりします。様々なエチュードを作曲するのですが、たとえば「出張時、短時間でも効率よく練習するためのエチュード群」があります。

32小節ワンコーラスでいい。その中にはアルペジオがあり、クロマティシズムがあり、ペンタトニックと代理コードのアイデアがあり、常にポリリズムを試すこと、小節線を超えること、リズミックなアイデアを忘れないこと、ボイス・リードの他にコンスタント・ストラクチャーも忘れない、インターバリックなアイデアも忘れない、そしてブルーノートもね… というマイ・エチュード。一つのコンパクトな宇宙。

それは「モスクワでもパリでも栄養のバランスの取れたものを食べようね、身体を大事にしようね」という自分へのメッセージにも似た、愛なのです。あの大好きなタイ料理店には、今は行けないかもしれない。自宅の大好きなES-335をDV Mark Little Jazzで鳴らせないかもしれない。でもこの楽譜読もうね、読んで栄養付けようね、という愛。

「ヤマモリ」のグリーン・カレーは、私が自分用に作るそういうエチュードに似ています。レトルトカレーって具材とか適当に入れてるんだろうと思っていたのですが、あまりにおいしくて何度も食べているうちに、いつも同じ感じで具材が入っていることに気付きました。というか、この味の本物感は何w 本物って何だろう、と思わされます。

東京にはたくさんのタイ料理店がありますが、タイ人がシェフだからといって必ずしもおいしいとは限らないのです、残念ながら。タイ料理のエッセンスを掴んでいるシェフだけが、本物を作ることができる。この「ヤマモリ」という会社は何故こんなおいしいものを作れるのか謎です。インスタントでこのクオリティはちょっとありえない。

ちなみに同じシリーズの「ゲーン・パー」も最高にうまい(写真下)。これはココナッツミルクを使っていないのでよりヘルシー。ただ、これお店で売っているところは少ないです。季節限定っぽいのでそのうち定番から外れやしないか心配です。東京といえど、そもそも「ゲーン・パー」を普通に出しているタイ料理店が、まずないのです。

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勿論、タイ料理点でレトルトでないカレーを食べるに越したことはないかもしれないけど、その辺の適当なタイ料理店を凌ぐクオリティです。エスニック料理が好きな方には是非試していただきたいと思います。ちなみに温める時はやや熱めにするのが私は好みです。


自分用のエチュードをつくる

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私はよく自分のためのエチュード(練習曲)をつくるのですが、同じようなことをされている方はいるのでしょうか。よろしければポチッと投票いたただけると幸いです。

Note: There is a poll embedded within this post, please visit the site to participate in this post's poll.

最近エチュードを作成する機会が増えました。作曲、というほど大袈裟なものではなくて、その時々で自分が身に付けたいと思っているもの、不得意としている課題等を、12〜36小節程度にコンパクトにまとめたものです。日々の練習で1日1回は弾いたり、仕事の合間や出先で読んだりもします(楽譜は読むだけでも良い練習だと思います)。

私のエチュードは他の方が見ても面白くないはずなので公開しませんが、私はそれを “Taolu” (=套路・とうろ)と名付けています。その言葉の意味は以前この記事で触れたのですが、一言で言うと「一連の身体動作、一度行うだけで、それぞれの技とそのつながりを練習することができる効率のよい練習法」という意味です。

Taolu #23, Taolu in Ab, とか色々な「タオルー」が貯りました。大体1タオルー1枚の紙なので、いつでも持って歩けます。様々なテーマのタオルーがあるのですが、こうした自分用エチュードの作成時には次のことを心がけています。

  • 何のためのエチュードか(どんな成果を得たいか)、目的や目標を設定すること
  • エチュードを構成する各部分は、部分として取り出した時に100%音楽的であること(実際に使えるものであること)
  • エチュードの全体も、可能な限り音楽的であること
  • 演奏するのが極端に難しいものでないこと(※難しいテクニックの習得を目的としたエチュードの場合は除く)
  • 弾いていて楽しい・気持ちが良いものであること(技術的に難しい内容でも)
  • 可能な限りコンパクトなものであること

スタンダード曲のコード進行をベースにしたり、12小節のブルースを想定したり、あるいは特定のハーモニーの習得が目的の場合は自分で作曲的にコード進行を組み立てます。その上で、フレーズを組み立てます。一種の「型」のようなものです。

一つのテーマだけを掘り下げたエチュードも面白いし、フレージングには様々な可能性があるんだ、ということを忘れないように、様々なアイデアを詰め込んだエチュードもあります。結構楽しいです。ある程度難しい内容でも、何度も同じことをやるわけなのでいずれできるようになります。自分の成長度合いもわかります。

何度も繰り返し弾きたくなるものであることが大事なので、自分にとって音楽的と思える内容にする必要があります(そのため本当にはじめたばかりの入門者の方には作成が難しいかもしれません)。

例えばII7が苦手ならII7を必ず入れたり、マイナーコード上で5度上のペンタトニックを確実に使えるようになりたい場合はそういうフレーズを、数えないとうまく着地できない感じのポリリズム的なフレーズを入れたり、1フレットから20フレットまで必ず使うというテーマで組み立てたり、多種多様なエチュードが考えられると思います。

何かコンセプトを決めて、つくる。自分が自分のためにつくったエチュード、というところがいちばん意義深い点かなと思います。100%カスタムメイドの練習曲。市販されていない。他人がそれを練習しても意味がない。自分がそれをやることで確実に成長できる。そういうエチュード。結構いい練習法じゃないかな、と思っています。

とにかく止まらずにずっと8分音符で、3連符で、16分音符で弾き続ける、というコンセプトで作曲された有名なエチュードが道下和彦氏の「ギター無窮動」シリーズ。自分のためのエチュードを作成するにあたって、参考になるところが多いと思います。おすすめです。

「この本のフレーズをリズミックに改造する」というコンセプトでエチュードを作っても面白いんじゃないかと思います。

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シェリル・ベイリーは教え上手

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周囲で話題になる機会はあまり多くないのですが、シェリル・ベイリーという女性ギタリストがいます。この方は現代的ビバッパーという感じで、私のマインドマップの中ではピーター・バーンスタインやマイルス・オカザキの近くにいます。勿論、好きなギタリストの一人です。

Sheryl Bailey
Photo by Kergourlay / CC BY-SA 4.0

動画も一つご紹介。McCurdyの小さめのセミアコで、ピッキングはジョージ・ベンソン的逆アングル。明瞭で確信のある音色でバリバリと弾きます。この動画ではパット・マルティーノ的なフレーズも聞かれますね。あとエミリー・レムラーに習っていたことがあると聞いたことがあります(エミリーもマルティーノフレーズが多かったですね)。

シェリル・ベイリー、教えるのもすごく上手なのです。数年前にたまたま “Sheryl Bailey’s 50 Essential Bebop Guitar Licks You Must Know” というDVDを手に入れたのですが、これがすごく良い内容。単にリックをずらずらと紹介するのでなく、このフレーズはこのコード以外にもこんなコードでも使えるよ、と教え方がすごく上手なのです。

Sheryl Bailey'S 50 Essential Bebop Guitar Licks You Must Know

そのフレーズもジョン・コルトレーンやデクスター・ゴードンからマイク・スターンやピーター・バーンスタインまで至るもの。2〜4小節のフレーズを1度弾いて、解説して、最後にもう1度ゆっくり弾く、という構成。この小さいアイデアを自分なりに育ててみてね、という感じ。ジョー・ヴィオラとかこれではじめて知りました。

本当に良いDVDです。ただ問題があるとしたら、まず英語版であることと、日本では今のところ入手困難らしいこと。私はたまたまUS amazonで他の書籍等と購入したのでした。US amazonでは今でも在庫あり。あと輸入が面倒という方はTruefireにもあります(Truefireは使いづらくて個人的にはあまり好きではないのですが…)。

英語といってもものすごく難しいことを言っているわけではないので、英語アレルギーでない方なら大丈夫だと思います。私は今でもDVDを持っているので、もしここで何を言っているか聞き取れなかった、ということがありましたらコメント欄からご質問いただければわかる範囲でお答えします。

シェリル・ベイリーは下の教則本も持っています。よくあるii-V-Iの教本なのですが、ベイリー先生は「シェイプ」を重要視されていて(発想がバーンスタインに似ています)、この本はボイシング(シェイプ)とフレーズの関係がかなり面白い本。Two-Fiveやりなおしてみようかなー、などという方には良いかもしれません。私も時々ランダムに開いてみるのですが、発見があります。

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DVDを見るとわかるのですが、ユーモアがあって笑い方が素敵な女性です。本当に楽しそうに笑うんですよね。彼女はとにかくコピーして、コピーしたフレーズ・ノートを作って、それがどんなハーモニック・シチュエーションで使えるかを記録していたそうです。伝統的な習得法。ビバップのいい感じのフレーズもたくさん出てきて、現代的なテイストもある。もっと人気が出ても良いギタリストではないか、と思ったりします。

玩具のようなレコードプレーヤーで音楽の魔法を思い出した話:ION Audio Archive LP

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レコードなんかとっくの昔に処分した。CDも一度全て売り払った。今では全てデジタルデータ。iTunesで管理してiPhoneで持ち歩く。そんな自分に一体何が起きているのか。いま我が家ではLPレコードが増殖するというまさかの事態が発生しています。

ION Audio Archive LP レコードプレーヤー

きっかけはこのION Audio Archive LP レコードプレーヤー。以前からディスクユニオンや丸ビルのコンランショップで展示されているのを見て気になっていたのですが、持ち帰るには箱が大きすぎるので躊躇していました。先日amazonで見たら1000円ほど安かったこともあり購入。これが期待以上に面白いもので、最近ハマっています。

ION Audio Archive LP レコードプレーヤー

この写真は届いてすぐの状態。付属のスリップマットを外して撮っています。ACアダプターとUSBケーブルも付属。IONのプレイヤーには数種類あるのですが、私が購入したのはシンプルで一番安いArchive LPというモデル。ダストカバーさえない潔さが気に入りました。とりあえずレコードが聴ければそれで良い。反省も後悔もしていない。

ION Audio Archive LP レコードプレーヤー

このプレイヤー、USB経由でレコードをデジタル化できるようですがその機能、私は絶対使わないと思います。外部出力もあるのですがスピーカー内蔵です。しかも2発、ステレオです。33-1/3、45、78回転対応。スッキリしたデザインなのでそのへんにあっても邪魔に感じません。オールインワン、これ一台で音まで出るのが最高。

ION Audio Archive LP レコードプレーヤー

ION Audio Archive LP レコードプレーヤー

amazonのレビューには、音質が悪いとかターンテーブルが安定していないといった声が見られます。私感ですが、これは高音質とか高品質を求める製品ではないと思います。だって6800円ですよ。6800円のレコードプレーヤーを6.8万とか68万円のシステムと比較してはいけません。

値段を考えるとやはり頑張っていると思います。聴く時に、なるべくスピーカーが顔の下の近くに来るようにする。すると…

自分が最初に接した音響再生システムはこういう種類のものだった、と思い出したのでした。10歳の頃、家に小さいステレオがありました。その後、思春期にLed ZeppelinのとあるレコードをCDで買い直した時、何とも形容し難い違和感を覚えたのは今でも忘れません。こんなの、俺の好きなツェッペリンじゃない…と思ったのでした。

CDはクリアで清潔な音だったけれど、当時の自分にとってそれは音楽から魔法、チャームを消してしまうシステムでした。でも利便性を重視する大人になるつれ、CDを買うようになり、mp3で聴くようになった。簡単に音楽にアクセスできるようになった。そして音楽との付き合い方も、悪い意味で安易なものになりかけた時期もあった。

下はジョージ・ベンソンのブリージン。通して聴くのは10年ぶり以上のことです。A面、B面、黙って聴く。ジャケットを眺めて、そうそうセカンド・ギターはフィル・アップチャーチなんだよね、などと改めて思ったり。このアルバム、このIONレコードプレイヤーと相性が良かったです。CTI系のストリングスなんかすごく合います!

ION Audio Archive LP レコードプレーヤー

ハイレゾ音源とアナログ音源、どちらが良い音か、といった議論がありますが、優劣じゃないと思うんですよね。単にシステムが違うだけ。ダイナミックレンジだけ見ればハイレゾ録音のほうがレコードより広いので、録音時にも、再生時にも、より豊かな階調表現を実現できる可能性が残される。ではなぜこの時代に古いレコードを聴くのか。

ION Audio Archive LP レコードプレーヤー

多分こういうレコードたちをレコードとして聴いて気持ち良いのは、これが レコードという容器に格納することを想定して録音・ミックスダウンされたものだから ではないかと思います。こういうシステムで聴くことを前提として作られた。だからアナログレコードを何も考えずにCD化しました、というのは私にとっては最悪な音源。

というわけで、むかしレコードとして聴いていたもの、最初からCDで聴いたものなど、あらためてレコードで聴くのにハマッています。6800円のこんなオモチャみたいな製品でも、十分にレコードというメディアの魅力が伝わってきます。妙な圧縮感はないし、シンバルや金管楽器のブロウも柔らかい。

音が良いとかそういう話ではないんですよね。これは単に 違うもの なのだと思います。

6800円のレコードプレイヤー付属のなんちゃってスピーカーに、ダイナミックレンジが…みたいな話は滑稽。でもレコードとして世に出た音源であれば、この機械に載せて回すと確実に伝わってくるものがあります。こんなスピーカーなのに音像の定位具合もわかって面白いです。音源にもよりますが、立体的に感じることもあって驚きます。

このION Audio Archive LP、いまamazonでアナログレコードと一緒に買うと1500円OFFになるキャンペーンをやっているようです(2月28日まで)。アナログレコードストアのアナログレコードすべてが対象だそうです。すると実質5300円ですか。ちょっと信じられないような値段です。

最近レコード以外にカセットテープも再び注目されていたりするんですよね。レコード、カセット、CD、ハイレゾ音源…このあたりについては少し思うところがあるので、いつか記事を書いてみる予定です。あと、リスニング体験を見直すことはプレイにも確実に大きい影響を与える、とあらためて思いました。

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Suchmosを聴いて思い出したグルーヴ

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先月頃からホンダのTVコマーシャルで流れる音楽が気になっていました。懐かしい感じのエレピサウンドに、思わず腰を揺らしたくなるようなベースライン。英語の歌詞には “Tokyo…” という言葉が。画面右下に “Suchmos” というクレジット。ルイ・アームストロングに由来のある名前だろうか。

調べてみたらなんと日本のバンドでした。最近かなり注目されているようです。テレビで流れていたのは下の “Stay Tune” という曲。いや、カッコいいな、と思いました。懐かしい。でも古くない。面白い人達が現れているんだな、と思ったのでした。

こういうグルーヴにも似ているなと思いました。ジャミロ・クワイの名曲 “Virtual Insanity”。

しかし私がSuchmosの “Stay Tune” に聴き取った懐かしさの正体は、多分これ。Pat Martinoの “Sunny”。この動画というか、“Live!” 収録のあの歴史的名演のノリを思い出したのでしたでした。下はジョンスコとの有名な共演動画。

Sunnyの原曲は勿論、Bobby Hebb。YouTubeでいま探しみてたら、まさかのロン・カーターとのアコースティック・デュオを発見! しかもエレベを弾いている!!

“Sunny” のシングル発売は1966年。Suchmosの “Stay Tune” は2016年。ある種のグルーヴが50年もの時を経て、いまトーキョーの地で新しい音楽に宿った。そう考えると感慨深いものがあります。

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ジャズギター取締法違反(5):情報ライフ・イヤネ屋、伝説の最終回

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さて情報ライフ・イヤネ屋の時間です。本日はまずこちらの話題から、長野県の限界集落に移住した音楽愛好家男女22人が空間系エフェクター所持容疑で逮捕されたというニュース。

主にエレハモの空間系が大量に押収されたということですが、はは… その写真が、アッハハハ、これです。ドン。

ジャズギター取締法違反(5):情報ライフ・イヤネ屋、伝説の最終回

イヤネ:いや、すごい数ですね〜これは!!
コメンテーター:いや、すごい数ですね〜これは!! けしからんですね、これ使って限界集落に集ったジャズギター愛好家が夜な夜なセッションに耽っていたわけですよね、はは、反社会的というか、まったくもって…
イヤネ:ハハ…いやほんと、フッフッフッ…反社会的というか、まったくもって…(楽しそうに目を閉じて右手で顔を覆う)
コメンテーター:アハハハ…いや、ダメでしょうこれ、使用はよくて所持はダメとか、法整備がそもそも…ハッハハハハハハハ…おかしい…(眼鏡を外し涙を拭く)
イヤネ:ワッハハハハハハハ
コメンテーター:ヒー、アハハハハハ…ダメでしょうこれ、これどう見てもアウトでしょ、どう弁解するんですか、Freeze…Superego…Memory Man…いや空間系以外もあるけど…これは…アハハハハハ ヒー
イヤネ:ハ〜、これまずいでしょう、アーッハッハッハッハッ
コメンテーター:アーッハッハッハッハッ
イヤネ:ハ〜、これ完全にやばいやつですやん、ホー、ホケキョ!
コメンテーター:ホー、ホケキョ! ホケキョ ホケキョ ホケキョ
イヤネ:もう完全アウト、逮捕ですやん、あー腹苦しい、ワーッハハハハハハハ
コメンテーター:ワーッハハハハハハハ
イヤネ:ウェーッヘッヘッヘッ、Yeah…
コメンテーター:Yeah…ウェヘッヘッわっはははははは
イヤネ:わっはははははは、はいCM、CM行きましょう!! いや〜、うぇへっへっ…

そして「情報ライフ・イヤネ屋」はその11年の歴史に幕を閉じた。司会のイヤネ氏とコメンテーターのイヤタ氏はいま、沖縄県石垣市石垣島で有機農業に勤しみ、自給自足のナチュラルライフとジャズギターを楽しむ毎日を送っているという。

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