ギラッド・ヘクセルマンの充実した内容のインタビューってあまり見かけないな、と思っていたところ、2016年にDownbeatでいい感じのインタビューがありました。その中で個人的に興味をひかれた部分を抄訳でご紹介します(英語の読める方は是非元記事でどうぞ)。興味深いお話が山盛りです。
まずダイナミクスについてのギラッドの考え方。
僕はまちがいなくロー・ダイナミクスが好きだ。ひっきりなしにリスナーの耳に叫びつづけるよりも、注意深く聴いてもらうように誘いこむんだ。時にはラウドにプレイするのもいいんだけど、細部への注意がおろそかになる。たくさんの音がやってくるから全てのディテールを聴くことができなくなってしまう。
僕のヒーローの多くはソフトにプレイできる人たちだ、キース・ジャレットみたいにね。僕は多くのボーカリストも好きだ、声を聴く時はそのあらゆるテクスチュアと、他とは違うフレージングを聴きたいわけだけど、他のみんながラウドに演奏していたら聴こえなくなってしまうだろう。
始終ラウドにプレイする人がいるけど、それは優れたテクニックだとは思わない。ドラムをやっている人なら誰でも、世界でいちばん難しいのは本当にソフトに演奏している時に正確にプレイすることだ、って言うと思うよ。

Author:Hreinn Gudlaugsson, License:CC BY-SA 4.0
アーティキュレーションと楽器のセットアップについて。これは参考になります。
僕の地元ではピアニストやサキソフォンプレイヤーのほうが多い、だから僕が出そうとするサウンドの多くはとてもレガートなものだ。そのための練習は必要だ。
でもギターのセットアップも関係があって、僕は本当に太い弦をかなり低いアクションで張っている、そうすると左手を、かたい音を出すことなくヒットできるんだ。僕はどの音にも、それぞれのアタックと音量がほしい。そうすることで、フレーズの中に内的なリズムをたくさん得られるんだ。
太い弦をローアクションで、というのは面白いですね。太い弦は、存在感のある良い音がしますよね。アタックも音量もある。反面、レガートな表現が難しく感じられることがあるのですが、弦高を相当下げることで解決しているようですね。あと左手の押弦に秘密がありそうです。かなりしっかり、叩くように押さえるのでしょうか。
そういえば以前インスタでギラッドがこの動画を出した時、コメント欄でギラッドのことをよく知っていると思われる方が、彼はかなりフレット寄りの位置で押弦してるんだよ、と語っていました。確かによく見ると、相当フレット寄りです。これ、インタビュー内容とあわせて考えると彼のアーティキュレーションの参考になりそうです。
日々の練習内容についてはこんなことを語っています。
(練習はどんなものをやっているかと聞かれて)
とてもフレキシブルだよ。より上手にやれるようになりたいことのリストをいつも持っている。それに優先順位付けをする。もし1時間しか取れないなら、そのリストの最初の2つを選ぶと思う。でもそのリストはいつも変わる。
僕はものすごく批判的なんだ。特にニューヨークに移ってからは、自分をいじめて「お前はダメだ」(“You suck.”)と言っていたものだ。年を取るにつれ、それをもっとポジティブなものに変えていった。「もしお前のこれがダメなら、こうすればもっとマシにできるぞ」というふうに変わった。(“If you suck at this, here’s how you can make that better.”)
ものすごく自分に厳しい人らしいですが、やはりそれでは辛すぎたのでしょう、自己批判をポジティブな方向に変えていったことが語られています。こういうメンタルの管理もとても参考になります。俺はダメだ俺はダメだとばかり言っていたら、何事も続きません。
ギラッド・ヘクセルマンは中東のイスラエル出身。フレージングにも中東音楽を感じさせる要素があります。特にハーモニック・マイナー・スケールは、ギラッドをはじめとするイスラエル系のミュージシャンたちによって再定義され、現代ジャズを特徴付ける言語のひとつになったような感があります。そういう影響のことを、彼はどう考えているのか。
(どの程度まで中東の音楽的伝統に影響されているかと聞かれて)
(中東の音楽的伝統は)僕の言語の一部だし、それを活用しないといけない時は、かなり自然なものとしてそこにある。
でもイスラエルには、ミドルイースタン以外のタイプの音楽もたくさんあるんだ。子供のころに僕が聴いていたのは、イスラエル音楽ではあったけれど、ロックに影響を受けたもの、ポップスに影響を受けたもの、さらには南米、ブラジルに影響を受けたものだったんだ。
多くの偉大なイスラエル人ロックアーティストが、南米の音楽をたくさんイスラエルに持ちこんだ。70年代、80年代のシーンでそれはかなり大きい影響力を持っていた。
ギラッドは影響を受けたイスラエルのミュージシャンとしてマティ・カスピというシンガーの名をよく挙げることがありますが、その人については以前記事で紹介したことがあるのでご興味のある方はご一読ください。
ところでギラッドが愛用しているヴィクター・ベイカーのアーチトップギターですが、12フレットに変わったシンボルが象嵌されているのがわかります。下の動画でよくわかります(ついでに書くと、ヨタム・シルバースタイン同様やっぱりブラジル音楽大好きなんですね)。
指板に見えているのは、OM(オーム)という梵字です。
この「オーム」というサウンドは、ヨガをやっている方がよく唱えられるようなのですが、なぜギラッドの指板にこの文字があるのでしょうか。それは、Jazz Maastrichtというオランダのサイトでのインタビューに答えがありました。
Q: あなたはスピリチュアルな人間、または宗教的な人間なのですか?
GH: 自分のことを宗教的だとは思わないな。ほとんどのミュージシャンは、意識しているかどうかは別として、スピリチュアルだと思う。
その中に入って、出てくるようなスピリチュアルな実践なら、僕は持っている。自分のことを宗教的だとは呼ばないけれど、音楽はスピリチュアルな何かだと考えているし、ヨガや瞑想をやっているんだよ… スピリチュアルかどうかと聞かれたら、わからないけれど、そうあろうと努力しているよ。
Q: スピリチュアリティはあなたの音楽においてどんな役割を果たしていますか?
GH: 音楽は、僕にとって人々を結びつける行為だ。それがステージ上の人々であれ、オーディエンスであれ。ミュージシャンには特権もあるけれど、人々の人生を高めるというミッションもあると思っている。特にある種の才能に恵まれたのなら、それを世界と分かち合うことができる。
自己中心的な理由で音楽をやらないとか、そういうのじゃないんだ、なぜなら僕は音楽を演奏するのが大好きだからね、でも音楽が他の人々に与える影響のことは間違いなく考えている。それ(=スピリチュリティ)は僕をガイドしてくれるし、正しい選択をするのに役立っている、音楽的な意味で。
ギラッド・ヘクセルマンというと微笑みのたえない、いたずら好きのひょうきんな好青年という印象が強かったのですが、これらのインタビューを読んで、実は自分に厳しく、とても真面目な人なんだな、と思いました。でも堅苦しい感じではないのもいいです。
ヨガと瞑想、やってみようかな。練習するぞ練習するぞ練習するぞ、もいいけど、心を整えることも大事だな、と思う昨今であります。
めるくまーる
売り上げランキング: 2,148