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長い曲、短い曲。インスタ時代の音楽表現のこと

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昔々イギリスという国にレッド・ツェッペリンという有名なハードロックバンドが誕生して、「天国への階段」という有名な曲を生んだ。1971年に”Led Zeppelin IV”というアルバムに収録されたその曲は、ロックの歴史に残る世界的大ヒット曲になった。が、当時ラジオ局はこれを最後まで流すことなく、ジミー・ペイジのギターソロ終盤でフェイドアウトさせるのが常であった、と聞いたことがある。

長い曲、短い曲。インスタ時代の音楽表現のこと

そのため、この曲をまずラジオで聴き、次にアルバムを入手して聴いた人々は”And as we wind on down the road…”以下の続きが存在するのを知って驚愕したらしい。そのせいでこの曲の神話性がさらに増幅されたという話も聞いたことがある。

1971年当時としてもこの曲は「長すぎる」ものとして認知されていた。「天国への階段」の演奏時間は約8分。当時UKのバンドがアメリカで売れるためにはラジオ局でどれだけ流されるかが大事だった。当時はラジオが全てだった。そしてラジオ局はクルマのドライバーを意識した選曲をしないといけなかった。その結果、「天国への階段」も「いい具合に」カットして流された、という話を聞いたことがある。

他に「長い曲」はどんなものがあるのだろう。最近だとベン・モンダーが参加しているダン・ウェイスの意欲作”Starebaby”収録の”Episode 8″は14分28秒もある。ベン・モンダーといえば超名盤”Hydra”収録の”Tredecadrome”は15分16秒。これはもう尋常じゃない。

今日は2018年10月14日で、ツェッペリンの「天国への階段」から何年だろ、ええと…えっ、47年も経ってるの!? ほとんど半世紀じゃないか!! マジか…

うん、半世紀も経てば世の中変わるよね。いまどんな世の中かと言えば、端的に言ってインスタの時代。インスタグラム。動画は長くても60秒まで。そういう時代。

こういう時代に生まれ育った人間にとって、「天国への階段」を最初から最後まで聴くのは苦痛なのかもしれない。でも、それに文句を言ったって仕方がない。そういう環境で生まれ育った人たちに、いいから黙ってこの8分の曲を聴きなさい、と言っても、聴いてもらえない。とにかく最初の10秒、いや5秒でリスナーの注意を惹きつける、そういう表現上の戦略が求められるようになってきたのは多分間違いない。

(「天国〜」の最初のギターは最初の1秒でその後をずっと聴かせるだけの魅力はあると思うけど!)

ホリエモンは「多動力」という著書の中で、数年前に話題になった「君の名は。」という映画を褒めていた。なぜか。「君の名は。」は集中力が持続しない最近のインスタ世代の若者のことをよくわかっていて、観客が飽きないようなカット割りとスマホの描写を織り込んでいるから。なるほどな、と思いました。

「君の名は。」は私も見て、感動した。Radwimpsの歌が劇中に入ってくるあたりは、どうも許容できなかったけど、そういう細かい不満を超えた魅力があった。

こんなことを書くと、俺は俺の音楽をやりたいようにやる、リスナーの好みに合わせるような迎合は堕落だ、退廃だ、とプンスカしてしまう人もいるかもしれない。それについて誰も何も言う立場にないし、みんな好きなことをやればいいだけだとは思う。でも少なくとも聴いてもらえなければ、相手にされなければ自分は存在しない。聴いてもらえなければはじまらない。

「そういうマーケティング的な態度は表現活動には不要だ」と言う人もいるかもしれない。でも私は、そうは思わない。マーケティングという経済学的な概念を超えて、自分が未知の他者に向けて何かをやるのか、それとも自己満足で何かをやっているのかは考えなければいけない。それを無視した自己耽溺的な音楽は、あまり良いものになるとは思えない。

さて、最近は私もインスタで”pickupjazz”のようなアカウントを眺めていて、最初の2〜3秒くらいで何らかのフック(注意を惹きつけられるような感覚)がなければ、その先は見なくなってしまった。最初の2〜3秒は本当に大事だと思う。最後まで聴いてもらればわかる、とにかく我慢して聴いてほしい、という態度は、たぶんもう有効ではない。

現代はとにかく効率が優先される時代になった。こういうブログ記事にしても文章量が多すぎると「で、結局は何が言いたんだ?三行で書け。」と文句を言われることも珍しくない。交渉でも会議でも「まず結論を言え」ということが多い。つまらない時代になったなとは思う。と同時に、これは私達が直面している現実の一つであるのも間違いない。

その現実に媚びる必要はないけれども、そういう現実が存在することを理解した上で表現することは今後大事になってくると思う。勿論こういう時代にプルーストやドストエフスキーのような重厚長大な路線で行くのも、それはそれでありだと思う。先に挙げたベン・モンダーなどはたぶんこういう状況を認識した上で長い曲を書いているように思う。彼は確信犯的に15分もの曲を書いているのだ。

自分はこの時代をどうやって生きていくか。どう戦っていくか。やはり時代状況について、敵についてよく知っておくに越したことはない。いま私達は、どんな嗜好がメインストリームになりつつある時代に生きているのか。それを知っておくと、少しいいことがあるんじゃないか。

最近このブログでホリエモンの著書のことを何度か書いていて、読んで下さっている方々の反応を見ると「やっぱりホリエモンは嫌い」という声がとても多い。私はこの人のことは好き嫌いという物差しでは見ていなくて、単に変わった人だな、面白い人だな、と思っている。

好むと好まざるとにかかわらず、ホリエモンは私達が生きているこの時代のある特徴を象徴している。ホリエモンの思想に対して自己をどのように位置付けるかは、どんな分野の表現者にとっても今後必要になってくる作業だろう。「多動力」はAudibleの体験登録で無料で聴けるので、ホリエモンが嫌いな人にも一度聴いてもらいたいと思う。きっと多くの発見があるはずだ。

多動力
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ところで「君の名は。」のAudible版があるのをいま知った。再生時間は6時間33分もあるらしく、なんと3,000円もする! Audibleは無料体験で「コイン」というのが1枚もらえて、その後も利用を続けると毎月1枚の「コイン」をもらえる。そのコインでどんな本も買えるから、実は高い本を買ったほうが得だ。ホリエモンが嫌いな人は「君の名は。」を聴いてみて下さい(笑)。

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