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車輪の再発明を要求するジャズという音楽

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堀江貴文氏のベストセラー「多動力」によると、プログラミングの世界には「車輪の再発明」という現象があるらしい。何かを達成しようとして苦労してコードを書いていった挙げ句、目標は達成したものの、気がつくとそれは既に他の誰かが書いていたものと同じだった、という内容。それは「ライブラリ」として簡単に使用可能なものになっていたりする。そういう現象。

堀江氏によるとこういう「車輪の再発明」は「教養」を身に付けることによって回避できる。彼が言う教養とは、様々な分野にどっぷりと浸かり、80%程度までは理解できるようになることらしい。その分野を極めるにはいくら時間があっても足りないが、何でも80点を取れるくらいに精通しておけば他人に外注したり、オープンリソースの存在を予見できる。結果、よりクリエイティブな仕事に注力できる。

Audibleでこれを聴いていてふと思ったのは、私達がジャズでアドリブができるようになるためにやっていることは「車輪の再発明」に近いことではないか、ということ。

ツーファイブ進行で使えるフレーズ、トニックで使えるフレーズ、静的進行の上で物語を作るような古典的なフレーズを収録した教則本は、ギターでもピアノでもサックスでもたくさん流通しています。でもそういうオープンリソース的なフレーズをカットアンドペーストして実際に使ってみても、まったく面白くない。音楽にならない。

音楽教室もたくさんあって、それは80点を取るまでの時間を短縮するためには大いに役立つかもしれない。でもスクールに通ったからといって人の心を打ついい演奏ができるようにはならない。ソフトウェアを作ることと、音楽表現を作ることはやはり全く違う。

自分で採譜したこのフレーズ、教則本のこのフレーズ、どんなふうにできているんだろう。分析をはじめる。この音はアプローチノートなのか、2拍早めに次の小節のコードのフレーズがはじまっているのか、これなに考えてるんだろ、などと感心したり発見したり悩んだりしながら、自分でその音を追っていく。ソフトウェア開発で言うリバースエンジニアリングに近いことをやる。これがまた面白かったりする。

その「車輪」の意味は、理解するだけならさほど時間はかからなくても、「自分の表現」として自然に使えるようになるまでには膨大な時間がかかる。この部分は、ホリエモンは興味がないところ。でもこの部分を追求しないと多分いい演奏にはならない。頭のいい人はこのことをすぐに理解するので、ジャズをやめてしまう。大学のジャズ研の先輩には天才が何人かいたけど、彼らはもう楽器をやめたと聞いた。

自分でオルタードのフレーズを生み出すとする。b9からトニックへ。13thはナチュラルにしてみようか。ここは長7度飛ばして…という感じでフレーズを作っていった結果、それが例えばジョンスコのフレーズとたまたま一致したとしても、それは無駄なことでは全くないし、むしろそういう過程を経た表現のほうが説得力があるはずだ。ジャズでいい表現ができるようになるには「車輪の再発明」が必要なんじゃないか。

本当に「効率」からは遠い世界だと思う。これではあらゆる面で効率が優先される資本主義社会の中でジャズが先細りしていくのも無理はないんだろう。でも、好きなんだから仕方ないよね。

堀江氏の「多動力」はAudibleのお試し登録で無料で聴くことができます。同意できない部分もたくさんあるけれど、役に立つ話もたくさんあって、面白い!

多動力
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Audible Studios/幻冬舎
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