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スーパーインポーズをわかりやすく説明する試み

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ジャズの入門段階を過ぎた人で、楽曲のアレンジやアドリブ演奏の際に「スーパーインポーズ」というアイディアを駆使して表現の幅を広げている方は多いでしょう。このスーパーインポーズという考え方を、馴染みのない方に平易に説明するのが難しく感じる時があります。なんとかうまく説明できないものか。

例えば下の写真。白い地面(塩ですw)と、空が写っています。譜面に「Cm7」と書いてある時、Cm7のボイシングやコードトーンを中心に考えることは、この写真の中の白い部分だけに着目するような感じでしょうか。Cm7、C minor pentatonic, C Dorian, C Aeorian等々。ごくあたり前の発想。

スーパーインポーズをわかりやすく説明する試み

でも地面の上には、雲や空があります。そこにはEbMaj7やGm7があったりします(アッパーストラクチャー)。スケール的に考えるとG minor pentatonicや、D minor pentatonicもあるかもしれません。これらは、ある意味で初期的に、自動的に与えられている選択肢です(いま自分がいる宇宙がドリアン星雲なのかエオリアン銀河なのかといった問題はあるとしても)。

ではこういうのはどうでしょう。Cm7の上で、誰かが唐突にC#m7の分散を弾いたとする。これは、何処から出てきたんだろう。

スーパーインポーズをわかりやすく説明する試み

Cm7という記号が初期的に与えてくれる世界からは、C#m7はどうも簡単には出てきそうにありません。空を見上げても、地面を掘っても、C#m7は見つからない。

しかし垂直な考えから一旦離れて、時間の中に身を置いてみる。するとこんなことが起こっていたりします。上段がスーパーインポーズ、下段が元々のコード進行。

スーパーインポーズをわかりやすく説明する試み

これは「枯葉」のチェンジに対するカート・ローゼンウィンケルのスーパーインポーズ例らしいのですが(Jazz Guitar Book vol.29収録)、結局最初のC#m7だけを見ていてもわかりません。突如として頭上に登場したC#m7は、実はもっと大きい木の一部なのであった…というお話。Cm7-F7の部分は、F7の2-5分割としてインサイド。C#m7-F#7は自然にそこに下降できる。

さらに同じパターンの下降を繰り返し、この写真の外側ではAm7にたどり着きます。つまり、上下・垂直にではなく、横に、水平に発想しているわけです。そして「この流れを語る」という強力な意志と、それを支えるドライブ感とテクニックがあれば、聴いている人は「わおー」と思ってしまう。

こういう発想法はチャーリー・パーカーやコルトレーンの頃からあり、特に目新しいものではないかもしれませんが、現代でも強力に通用する面白いコンセプトだと思います。ここにあるのは「複数性」の1種であるとも言えるのではないか。1つの宇宙に対して、別の宇宙を重ねる。平面を立体にする。そしてそれを「水平な論理」を使ってやってみる。

これはストーリーテリングが大事だ、という話とも繋がると思います。話の流れ・展開に必然的なロジックがあり、勢いがあるなら、途中は何がどうなろうともサウンドする、とよくパット・メセニーが言っているあれです。

あるコードの自然なアッパーストラクチャーを観察していくことと、横の流れを意識して全体を語り直していくことには、やはり大きい違いがあると思います。

ところで最近話題の「ネガティブ・ハーモニー」と呼ばれるものを使ったアプローチには、「初期的かつ自然的に取得しうる代替的な選択肢」と「水平方向のストーリー性」の両方が備わったような不思議な魅力を覚えます。例えば、元々のメロディが持っている水平方向への推進力に、音程の特殊な鏡像を同居させる。するとすごい効果が生まれる。最近この本を読んでいるのですが、めっちゃ面白いです。

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田中 裕一
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スーパーインポーズのための新しい発想法としてかなり刺激的です。お前は何の話をしているんだ、でもなんか面白そうだ、と思われた方は、こういうワークショップに参加してみると発見があるかもしれません。

筆者の田中裕一氏が直接解説して下さるはず。楽曲が持つ元々の構造を活かしつつ先端的なリハモサウンドを得たい、という方はきっと多くのヒントが得られると思います。


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