ギターはシェイプに縛られた楽器である、と言われることがあります。音型を視覚的に把握しやすいというメリットはあるものの、その視覚性に縛られるあまり、表現が自ずと「ギター的」になり、サックスのようなホーンライクなフレーズが出てこない。音楽的なメロディでなくパターン中心の表現に陥りがちである。そこから抜け出さねばならない。等々。
それはそれで一考の価値がある意見として受け止めるとして、こういう考え方もあるのではないか。ギターはシェイプに縛られた楽器である。ならば一度、そのシェイプたちを徹底的に観察してみてはどうか。シェイプから逃れようとするのではなく、あえて縛られてみることによって何が可能かを見てみるのはどうか。結局のところ、これはサックスではなくギターなのだから。
というわけで時々「シェイプの研究」というテーマで記事を書いてみたいと思います。第1回の今回は、下のこれ。このシェイプ。シェイプに名前があればいいんですが、ありません。このシェイプ(フォームと言ってもいいと思います)、m7(b5)として覚えている方が多いと思います。
このシェイプ、平行移動するだけでジャズブルースのコンピングを弾くことができます。試しにCのブルースで見てみます。音楽的でない箇所もあるかもしれませんが、思考実験なのでそこはひとまず置いておき…(リズムはチャールストンで書きましたがお試しはお好みで)
何が起きているかというと、C7の箇所で「Em7(b5)」として覚えている方が多いであろうシェイプが使われています。Em7(b5)は、ルートのないC9と構成音が同じなのでこれが使えます。F7でAm7(b5)のシェイプが使われているのも同じ。8小節目のA7は、A7(b9, b13)というコード。全く同じシェイプ。全部同じ。平行移動するだけ。
9小節目のD7ですが、このシェイプがDm7だとうまく合わないのでD7にしました。IIm7をII7にするのは普通のアイディア(V7に向かうII7はトッペルドミナント=ダブルドミナントと呼ばれたりもします)。G7もA7と同じ考え方。というわけで、音程の跳躍は大きいところはあるものの、一応このシェイプだけでジャズブルースを1曲そのままコンピングできてしまいます。
このことが意味しているのは、このシェイプを成り立たせている「増四度・長三度・完全四度」というスタック(インターバル構造)がいろんなコードの中に発見しうるということで、任意のインターバルをコードの中に観察する練習をすると、モチーフ展開をするようなフレーズのための良い練習になったりもするので、楽しいです。
このシェイプが応用できる局面は他にもあります。勿論このシェイプ以外にも、ギターならではの平行移動で実は様々なハーモニーをくぐり抜けられるものがたくさんあります。今後もたまにこういう「シェイプたち」を観察してみたいと思います(需要があるかどうかわからないので、もし続編が読みたい感じの内容でしたらシェアしていただけると幸いです)。