ブルースという形式が持つ「明るさと暗さの連続」という特徴について、先日こんな記事を書きました。
アドリブについては記事で書いたように2種類のペンタトニック・スケールで「明るい・暗い」を弾き分けることができるのですが、そもそも有名なジャズブルースのテーマメロディはどのようになっているのかを観察したいと思います。
ひたすら暗い系
まず下の3曲を考えてみます。どれも超有名なブルースのヘッドです。頭の中でメロディを鳴らしてみる…と、ある特徴に気付きます。
- Bag’s Groove (Milt Jackson)
- Cool Struttin’ (Sonny Clark)
- Sonnymoon For Two (Sonny Rollins)
そう、これらの曲のメロディは、マイナーペンタ(または+ブルーノート)1発で出来ています。全部「暗い」で押し通しています。ほとんどモードに近い雰囲気。そのためジャズ入門者にもわかりやすいメロディです。ソロもマイナーペンタやブルーノート・ペンタ1発で、モチーフやコール・アンド・レスポンスを意識したメロディックなフレーズを試す等、音楽的な練習が楽しめると思います。
明暗ミックス系
さて今度は先の記事で書いたブルースの特徴、「明るい・暗い」の連続・交代をメロディに上手に取り込んでいる曲を挙げてみます。例えば…
- All Blues (Miles Davis)
- Tenor Madness (Sonny Rollins)
- Sandu (Clifford Brown)
- Blues In The Closet (Harry Babasin and Oscar Pettiford)
- You Speak My Language (Pat Metheny)
どの部分が明るくてどの部分が暗いかを感じながらあらためて味わってみると面白いと思います。クリフォード・ブラウンの”Sandu”はやや暗い成分多めですが要所要所で明るい音が出ます。この中で「明暗」が最もシンプルに表現されているのは”Blues In The Closet”でしょう(5,6小節目だけが暗い)。
パット・メセニーの”You Speak My Language”も「明暗ミックス系ブルース」の名曲だと思います(ホールトーンも絡めているのがかっこいい)。下はジョンスコとの演奏。最高ですね。
明暗スルー系
今度はちょっと変わり種。この曲です。
- C Jam Blues (Duke Ellington)
えっ超簡単な曲じゃん!何が変わってるの。と思われるかもしれません。しかし考えてみると、この曲すごいですよ。
Key CでGとCの音しか登場しません。C7にとってそれは5度とルート。F7上のGは9th。Dm7上のGは11th。G7でのGはルート。つまりコードの3度が全く登場しないため、テーマそのものは「明暗」から距離を置いた透明な感じのものになっています。デューク・エリントンのただならぬ才能がわかります。この「明暗スルー系」は他にもあるのかな。ご存知の方教えて下さい。
クロマティック多用系
次はセロニアス・モンク系と言っても良いかもしれません。コードトーンへの長めのクロマティック・アプローチが特徴。普通の「明暗ミックス系」と少し違う雰囲気があります。この人の曲はコードトーンのことしか考えていないような節があり、面白いです。
- Blue Monk (Thelonius Monk)
- Straight, No Chaser (Thelonius Monk)
ちょっと凝ってる系
最後にちょっと凝ってる感じのテーマを4つ。
- Careful (Jim Hall)
- Blues For Alice (Charlie Parker)
- Billy’s Bounce (Charlie Parker)
- Blue 7 (Sonny Rollins)
ジム・ホールの「ケアフル」は16小節の変形ブルースですが、メロディがコンディミで出来ているというレアすぎる曲。モードのようにも、機能和声のようにも聴こえる斬新な曲ですよね。明暗を超えたシンメトリー。やはり只者ではない人は分類不能なことをやる感じがします。
Blues For Aliceは凝ったリハモ(Confirmationに類似)で、バード・ブルースやNYブルースなどとも呼ばれます。これはかなり発展形ですよね。ブルースというシンプルで素朴な土台の上に、近代的なビルを建てた感じ。Billy’s Bounceは普通そうな気もしますが、個人的に何かヘンなものを感じます。いや、普通に明暗ミックス系かな? ちなみに8小節目で明確にVI7が感じられる珍しいテーマでもあります。
ソニー・ロリンズのBlue 7も謎めいたところのあるメロディです。#11thを感じるブルースのメロディは他に知りません。それはブルーノートだろう、という意見もあると思うのですが、私にはIとIVそれぞれで、5度上のメロディック・マイナーが鳴っているように感じられるメロディです。不思議な曲で、大好きです。
おまけ
最後に時代的に最も新しいモダン・ブルースを紹介します。ピコ太郎の”NEO SUNGLASSES”という曲です。
ブルースの「明るい・暗い」という特徴を前面に出しています。イントロを除くと16小節。ハーモニー的にも形式的にもブルースと関係なさそうですが、内容は完全にブルースです。