最近マイク・モレノがインスタグラムですごく面白い投稿をしていました(moremike78)。「ステラ・バイ・スターライト」と「オール・ザ・シングス・ユー・アー」は誰もが演奏するけど、本当はどんな曲か知らないだろう? という辛口投稿なのですが、原典を聴き込むモレノ先生の真摯な姿勢に感動しました。この記事では「オール・ザ・シングス・ユー・アー」についての彼の考察を紹介します。驚きの内容です。
まず元投稿がこちら。譜面4枚とミュージカルのチラシ1枚があるのでご覧ください。画像の上にカーソルを持ってくると右に矢印が出て画面をめくれます(スマホの方はタップ)。
大事な部分を抄訳してみました。
1939年のジェローム・カーンとオスカー・ハマーステインのブロードウェイ作品「5月にしては暖かい」からの曲。このミュージカル公演は2ヶ月しか続かず、ヒット作とは言えなかった。しかし音楽、特に「オール・ザ・シングス・ユー・アー」という歌は人気を博した。すぐに同年、アーティー・ショウとヘレン・フォレストがC, Db, Fのキーでボーカルのために録音した。同年、ミルドレッド・ベイリーもFMajで録音した。これはVImとIImのコードがm6Δ7のように響く魅力的で不協和なカウンターメロディーが入っていて、僕のお気に入りのバージョンだ。1939年にしては相当変わっていて、ヒップだよ! トミー・ドーシーもその年、ジャック・レナードとEbで、次にGMajでボーカル向けにヒットバージョンを出した。勿論その後は1944年のフランク・シナトラだ。彼もFMajで録音した。
1945年になってはじめて、今では有名なあのイントロ付きでAbで録音したのがチャーリー・パーカーとディジー・ガレスピー。でもその録音の、最初のコードを聴いてみるんだ。僕にはそこに長三度の音は聞こえない。ただのDbm7のように聞こえる。マイルスもタッド・ダメロンと1949年に録音した。これでイントロの最初のコードはマイナーなんだって確信した。マイルスはどちらのコードも4度入りのm7として演奏している。でも最も重要なのは最後の12小節だ。特にアーティーとシナトラのバージョン。このチェンジは美しくて、僕の意見では今日演奏されているものよりもずっと現代的だ。あと大部分のミュージシャンが間違えているブリッジのメロディの写真も入れておいた。でも昔の歌手はこのメロディをきっちり歌っている、トリッキーなのにね! これがブリッジのメロディ、あとよくオーケストレートされていたコードだよ。
実際の音源を少し聴いてみましよう。マイク・モレノのお気に入りというミルドレッド・ベイリーの1939年の録音は恐らくこれ。確かにキーはFMajで、冒頭のカウンターメロディーはメロディック・マイナーのようなナチュラル6と7。これは面白い。
私は昔、最初の6度マイナーでドリアンの6度を弾いたら、先生にエオリアンで弾けって注意されたことがあったな(笑)。別に間違ってなかったじゃないか(先生の教え方も間違っていたわけではないけど)。
次にイントロ。現代ではDb7(#9)としてはじまりますが、1945年のパーカーとガレスピーの録音を聴くと…ホントだ、マイナーセブンスだ!
1939年のアーティー・ショウとヘレン・フォレストのバージョンがこちら。インストの前半はCで、歌はF。
1944年のフランク・シナトラ・バージョン。Fです。モレノ氏投稿の画像2枚目で、下のカッコ内がこのチェンジ(F.S = Frank Sinatraとあります)。
マイク・モレノ先生の熱いプレイを支えているのは、曲への愛とレスペクトなんだな、と改めて思いました。最高です。私達は日々便利に黒本やリアルブックを使わせてもらっていて、それはそれでありがたいことではあるのですが、リードシートに書かれているのはあくまで単純化されたものであることを忘れないようにしたいですね。原典の和声のほうが遥かにリッチで、驚きました。
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