フェンダーCEOアンディー・ムーニーが語るギター業界の未来同社がレッスン・サイトを立ち上げた理由とは

昨年、ワシントン・ポスト紙に掲載された「エレクトリック・ギターのゆるやかな死」という記事が大きい話題を呼びました。フェンダーのCEOアンディー・ムーニー氏がその記事について自身の考えを述べている動画があり（昨年7月収録）、興味深い点が多いので抄訳で抜粋してみます。楽器販売や音楽教育に携わっている方には必読の内容です。

ソリッド・ギターの売り上げは世界的に変化していない。基本的にはフラットで、多分若干上がっている
アコースティック・ギターの売り上げはむしろ伸びている。フレット楽器業界は相変わらず堅調で心配するようなことは何もない
2年前にフェンダーに入社した時はデータがなくて心配だった。だから市場調査をしたら、新品のギターを買う人のうち50%が女性であることが判明した
女性は主にアコースティックギターを、オンラインで買うことが多い
オンラインで買う理由は伝統的な物理店舗で買うことに怖気づいてしまっているから
ショップ（物理店舗）はほとんどの初心者にとって敷居が高いと思う。特に女性にはそうだ
フェンダーのシグネイチャーにはブラッド・ペイズリー・モデルもある。彼はステージに立つし、影響力があるからね
ジミ・ヘンドリックスやジョージ・ハリスンのようなかつてのギター・ヒーローを愛する人たちのための製品と、現在のギター・ヒーローを愛する人達のための製品をバランス良く揃えているんだ
僕の個人的なギター・ヒーローはリッチー・ブラックモアだった。だが彼のプレイは難しくて容易には真似できない
ギター業界を大きく変えたのはパンクだと思う。パンクの出現以後、3つのコードを弾く能力とエネルギーがあればいい、ということになった、するともうステージに立てる。パンクはギターの使用法を変えた
ギターはヴァーチュオーゾ（超絶技巧を持つ人）のための楽器ではなくなってきた
フェンダーがライフスタイル製品のポテンシャルを持っているのは、コアとなる製品にファンがいるからだと思う
それはフェンダーのエレクトリック・ギター、アコースティック・ギターであり、アンプなんだ
そういうコアの製品を真面目につくらないと、ライフスタイル製品なんてありえない
若者がiPhoneにお金を費やすせいでギターの売り上げが減っているかというと、データによれば答えはノーだ
毎年売れるギターのうち45%は初めてギターを手に取る人が購入していて、これは想像以上に大きいパーセンテージだった
そのうちの90%が1年以内にギターをやめてしまうことがわかった
つまり我々は新しい顧客を呼び寄せる点では問題がないが、顧客の維持で失敗しているということだ
生き残った10%の人々は平均で7本のギターと複数のアンプを所有するようになる
だからフェンダー・プレイというオンライン・レッスンサイトを立ち上げた
現代の人間は、ミレニアル世代に限らず私のような中年男性も含め、スマホやiPadで小さい単位で、自分の好きな時に学習したいという傾向がある
レッスンを提供することは収益性のあるビジネスであると同時に、ギターを始めたばかりの人々の挫折率を低減させられる
挫折率が10%低減すると、ハードウェアの売り上げは2倍に増える。だから長期的な目標として力を入れている
ギター業界は落ち込んでいないし、むしろ成長している。大事なのは若い人達が情報を探しやすくすることと、レッスンを提供することだ
物理店舗とも協力して、オンラインレッスンと対面レッスンを結びつける試みもしている
私はこの業界の未来についてとても楽観的だよ

ムーニー氏は徹底的なデータ・ドリヴン型の経営者という感じで、漠然としたイメージではなく客観的データを基に事業展開しているらしい点が印象的です。

また、ブルートゥース・スピーカーやTシャツなどのライフスタイル製品については、あくまでギターという核がしっかりしているからできるんだ、という発言にギブソンCEOヘンリー・ジャスキーヴィッツ氏との違いを感じました（同氏は別のインタビューで「ギブソン・ブランドはギター屋ではない、ライフスタイル製品の会社なのだ」と語っていました）。

アンディー・ムーニー氏は1955年生まれ。ナイキUKのCFO、ディズニー・コンシューマー・プロダクトの会長、クイックシルバーのCEOを歴任後、2015年にフェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ・コーポレーションのCEOに就任しています。経歴だけ見ると異種業界から借りてきた人のようにも見えますが、リッチー・ブラックモアのファンだったりと、音楽への愛と理解がある経営者かなと思いました。