サックス奏者・土岐英史氏の「12Keyにフル対応出来る究極アドリブ練習法」を久しぶりに見てみました。むかし、サックスの人はどんな練習をしているんだろう、と思って買ったものです。
これは前半が特に面白くて、まずペンタトニック・スケール内の限られた数の音を使ってアドリブします。最初は1音だけ、次に2音だけ、とか。バッキングに合わせて、まず土岐さんが吹く。次に生徒さんが吹く。次はテレビの前のあなたの番です、という具合。次第に音数が増えていきます。足し算していきます。
使う音の数が限られているので、どの順番で、どんなリズムで弾くか、クリエイティブ脳が刺激されます。センスが試されます。2つの音を使って好きに吹き(弾き)なさい、と言われても、正解が本に書かれているわけでもない。そして土岐さんと生徒さんの演奏、どちらもカッコいいのです。このセクションだけで買った甲斐のある内容でした。
これまで何人かの先生にギターを習ってきた過程で、こういうメソッドで教わったことはありません。ギターの場合、教え方が特殊なのだろうか… 2小節なり4小節単位のフレーズを渡されて、それを覚えよう、応用しよう、というレッスンが多く、それはそれでテクニック面で役に立ったり、分析の勉強にもなったのですが、結局のところそれは、自分以外の誰かによる足し算、その計算結果です。
ジャズギターをはじめたばかりの頃は、例えば憧れのジョンスコのフレーズをギターで再現できるだけで「うぉー!!」となるのですが、そのうち飽きてきて「俺、やっぱりアドリブがやりたかったんだ…ジョンスコがジョンスコの歌を歌っているように、俺は俺自身の歌を歌いたいんだ…!!」となります。それで、コピーした本当に好きなフレーズを分析して、モディファイしてマイ言語化する、ということをはじめます。
土岐さんのアプローチは完全に方向が逆に見えます。一から積み上げていく。足し算の練習方法なんですね。「ペンタ」という括りさえ既に大きく、1度ってどんな音、1度からb7度に降りるってどんな感じ、というあたりをこだわってやっていく感じです。当然、全部聞こえていないといけない。9thを弾きたかったから9thを弾いたのだ。手癖でなく。とならないといけない。意図した音だけを、意図して出す。
アドリブはこういう練習がやっぱり正解なのではなかろうか、と思います(まぁ理想的でない練習をしてきたからといってそれが無駄だったとも思いませんが…何事も経験)。これは、時間のかかる道筋ではあるのですが、少なくとも誰かの物真似にはならないんですよね。
順を追って理解しなおすことが大事
複雑な何かを覚える時は順番が大事だと思うのです。例えばブルースで使えるスケール。「R, 2, b3, M3, 4, b5, 5, 6, b7が使えるんで、はいどうぞ」などと9音のスケールをドーンと与えられても、よっぽどセンスが良くないとどうやったらいいのか普通わからない。それよりも、
- C minor pentatonicは… = R, b3, 4, 5, b7
- C blues scale = C minor pentatonic + b5
- C blues scale + 2nd (9th)
- C blues scale + 6th (13th)
- C blues scale + 2nd & 6th
- C blues scale + 2nd & 6th + M3
そしてコードトーンは…などと順を追って複雑になっていく様子、音が加算されていく様子を観察して、理解しながらやったほうが、誰にとってもやりやすいし、自分の血肉になるように思います。
学生の頃はこういう練習法があることは知らなかったし、習いに行っても教えられませんでした(だいぶ後になって自分でたどり着いた)。他のギタリストと話をしてみても、4小節単位のフレーズ(特にTwo-Five)をまず数十個暗記する感じのレッスンが今でも主流らしい。むむむ…
コピーはコピーで重要なのは間違いないとしても、こっちの「自分で足していく」練習が伴わないと、やっぱり「誰それ風」を超えるのは難しいのではないか。
この土岐さんのDVD(特に前半)の面白いところは、この練習をしても「誰それ風」には絶対ならないところです。誰がどうやっても「あなた風」にしかならない。
怖いですねー。そして楽しいですねー!!
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最近、とにかく基本が大事だとますます確信するようになりました。基本的なスケール、基本的なコード、基本的なポジション、シンプルなメロディ、シンプルなリズム。複雑で豊かな結果を求めようととすればするほど、基本的な練習に戻っていくことが多くなりました。面白いです。