セカンダリー・ドミナントと呼ばれるコード群があるのですが、どうも定義に微妙な揺らぎがあるらしく、他人と話が噛み合わなくなることがあります。そこで私なりに「世界でいちばんわかりやすくて便利なセカンダリー・ドミナントの説明」を目指して、まとめてみることにしました。書いてみて気付いたのですが、確かに説明が難しいところがある概念です。
セカンダリー・ドミナントの定義
定義1. あるキーのダイアトニック音をルートに持つドミナント・セブンス・コードである
たとえばC Major Keyで考えましょう。ダイアトニック音はC, D, E, F, G, A, Bです。つまり、C7, D7, E7, F7, G7, A7, B7のうち、いくつかが該当します。「いくつか」であって「全て」ではない、のがポイント。
定義2. V7は除外する
そのキーのV7、たとえばC Majorの場合なら、「G7」はセカンダリー・ドミナントとは呼びません。何故ならそれはダイアトニック・コードの中で元々ドミナント・セブンスとして存在していたコード、すなわちプライマリー・ドミナントだからです。よってこのコードは、除外します。
この段階で、C7, D7, E7, F7, A7, B7のうちのいくつかが該当することになりました。
定義3. 以上のコードのうち、ドミナント・モーション(完全4度上行または完全5度下行)してダイアトニック・コードに解決するものを言う
ここが少しややこしくなるところです。C7の解決先は、FMaj7。D7の解決先は、G7。E7の解決先は、Am7。F7の解決先は、Bbの…
あっ!!
Bbは、C Majorのダイアトニック音ではありません。よって、ここでF7というコードが除外されます。
続き。G7はCMaj7に、A7はDm7に、B7はEm7にそれぞれ解決します。よって、
C7, D7, E7, A7, B7 (I7, II7, III7, VI7, VII7)
の5つのコードがC Majorにおけるセカンダリー・ドミナント・コードである、という結果になりました。このあたりの定義については、あまり意見が分かれることはないと思います(後述しますが、F7の扱いでちょっとモメることがたまにあります)。
ちなみに豆知識ですが、G7(V7)に解決するD7(II7)は「ドッペル・ドミナント」と呼ばれることがあります。「ドッペル」はドイツ語で英語の「ダブル」に当たる言葉。故にダブル・ドミナントとも呼ばれます(時々話題に上がる専門用語ですが、知らなくても特に困ることはないと思います)。
セカンダリー・ドミナントはそもそも何のためにあるの?
ターゲットとなるコードに対して、強い力で進行するためです。例えばAm7からでもDm7に4度進行できますが、Am7をA7にすることによってより強い解決感を得られます。印象が変わります。またこの結果、一瞬Dmキーに転調したような印象を得られます。この手法はいろいろな曲で使われているので、お気に入りのスタンダード曲などをあらためて分析してみると良いと思います。
一例を上げると、チック・コリアの有名な”Spain”に出てくるC#7というコードは、Key Bm(D Maj)のダイアトニック・コードであるC#m7(b5)がセカンダリー・ドミナントに変化したものです。ターゲットはF#7。
それと忘れてはいけないのが”Oleo”のような循環進行の曲。サビのIII7-VI7-II7-V7の最初の3つのコードがセカンダリー・ドミナントです。
スケール・チョイス
セカンダリー・ドミナントの正体が判明したところで、それぞれのコードの上で主にどんなスケールが使えるかを論理的に考えてみたいと思います。時々「ミクソリディアンはいつでも使えるだろ」と意見を耳にするのですが、実際はもう少し複雑です。マイナーコードならいつでもドリアンを使える、と思っているとIIIm7の上で「あれ?」っとなるのと同じような現象が発生します。見ていきましょう。
I7の場合
C Majの1度の上に積み上がるダイアトニック・セブンス・コードは、本来CΔ7です。それがC7に変化するということは、M7の音がm7に変わるということです。つまり、C Ionianの7度を半音下げるということです(※ダイアトニックとチャーチ・モードの関係を理解していない方はここで混乱するかも)。
その結果得られるのは、C Mixolydianです。これは間違いなく使えるスケールになります。
II7の場合
本来のDm7がD7になりました。3度のFの音がF#になりました。D Dorianの3番目の音が半音上に上がると、何になるかというと…
答えは、D Mixolydian。
そのためD Mixolydianが使えますが、オプションとしてD Lydian b7(=D Lydian Dominant)も勿論使えます。ただこの話は少し脱線になるので詳述しません。
III7の場合
今度はIIIm7がIII7になりました。E Phrygianの3度のGがG#になりました。それは何というスケールになるでしょう。
答えはE Phrygian Dominantです。E Phrygian Dominantは、A Harmonic Minorと同じです。E hmp5↓(E hp5)とも言えます。Amに解決するからE hp5になる、と考えてもいいですよね。
基本的にはそういうことです。ただIII7の上で他のスケールが使えないかというとそんなこともないです。基本形がフリジアン・ドミナントである、というお話です。
VI7の場合
VIm7がVI7になりました。A Aeolianの3度であるCがC#になりました。そのスケール名は、
A Mixolydian b6
となり、D Melodic Minorの第5モードと同じになります。メロディック・マイナーを知っている方なら覚えやすいと思います。ただ、これも基本形は…という話です。Dmに着地すると考えればA hp5も普通に使えます。
と、ここまで書いてきて気付きましたが、セカンダリー・ドミナントの概念を理解するには、ドミナント・モーションやチャーチ・モード、メロディック・マイナーやハーモニック・マイナーも少しわかっていないと難しいのかもしれません。やはり簡単な話ではないのだと思います。
VII7の場合
VIIm7(b5)がVII7に変化するということは、Bm7(b5)の3度であるDがD#に変わるので、その結果得られるスケールは、
B altered (B Super-Locrian=C Melodic Minor)
になります。そしてこれもEmが解決先なので、マイナーのV7での定番スケールチョイスである「解決先のハーモニック・マイナー」が使えます。B hp5(=E harmonic minor)も使える、ということになります。
V7とIV7は?
ついでに「セカンダリー・ドミナントではない」ものの、ダイアトニック音をルートとするこれら2つのドミナント・セブンス上で何を使えるかも一応見ておくと、V7では当然ミクソリディアンが使えて、それ以外にもCMajへの解決を意識すれば何を使っても良い。F7は、元々のFMaj7がF7になったので、F Lydian b7というのが基本的な選択肢。
まとめ
こんな感じで「セカンダリー・ドミナントの定義」と、そこで使える基本的なスケールは何なのか、を見てきました。先述したように、F7は入るのか入らないのかという議論があったり、F#7の話はしないのかと怒られたり(※1)、ドッペル・ドミナントって何、という話が持ち上がったり、ミクソリディアンb6とか聞いたことないよ!! などと、多くの人が混乱しそうな、やや難しめのテーマであることがあらためてわかりました。
(※1 「セカンダリー・ドミナントとは、そのスケールのダイアトニック音に解決するドミナント・セブンス・コードのことだ」という定義もあり、それからするとC MajのBm7(b5)を解決先とするF#7もセカンダリー・ドミナントだ、という主張があるのですが、「ダイアトニック音をルートとするドミナント・セブンス」という定義とコンフリクトします。こういうのでモメたりします)。
専門用語だらけですね。でも専門用語を使わないと説明するのが難しい概念です。
お酒を飲んでいる時は場が荒れる恐れがあるので、あまりのこの話はしないほうがいいと思います(笑)。
なお異論などがありましたら、Jazz Guitar Forumの関連スレッドでご発言いただけると幸いです。
追記:せっかくなので書いておきます。この記事で登場したどのセカンダリー・ドミナント・コードもペアとなるマイナーコードとIIm7-V7の関係を構築できます。これをリレイティッド・マイナーと呼びます。表現の可能性が広がるので是非とも覚えておきたいアイデアです。