この記事ではオルタード・スケール(Altered Scale)と呼ばれるものについて自問自答形式で考察してみます。
オルタード・スケールってどんな音列?
例えば「Cオルタード・スケール」なら下の譜面のようになります。音の並びは「半音ー全音ー半音ー全音ー全音ー全音ー全音」(H-W-H-W-W-W-W)。7音のスケールです。
何故オルタード・スケールという名前なの?
英語の”alter”(=変化させる)に由来しています。Cオルタード・スケールの場合、Cドミナント・スケール(=Cミクソリディアン・スケール)のルートと3度とb7度以外の音が全て変わっています。
2度(9度)はb9thと#9thになり、4度(11度)は#4th=#11thになり、5度はb5thになり、#11thとは異名同音の関係になります。6度(13度)はb13thに。これらを並べるとCオルタード・スケールになります。
コードから見た時に含まれるカラートーン(テンション)はこんな感じです:
C7(b9, #9, #11, b13)
オルタード・スケールの別名は何?
オルタード・ドミナント・スケール(Altered Dominant Scale)とも呼ばれます。
ロクリアンの4番目の音を半音下に変化させるだけでオルタード・スケールになるせいか、スーパーロクリアン・スケール(Super Locrian Scale)とも呼ばれます。
前半が「半音ー全音ー半音ー全音」のコンディミ(=和名でcombination of diminished scale, 英語ではdominant diminished scales / Half-whole diminished scale)で、後半が「全音ー全音ー全音ー全音」のホールトーン・スケールになってるとも言えるためディミニッシュト・ホールトーン・スケール(Diminished Whole-tone Scale)とも呼ばれます。
メロディック・マイナー・スケールとはどういう関係?
オルタード・スケールは「半音上のメロディック・マイナー・スケール」と同じと考えることもできます。 「メロディック・マイナー・スケール」の7番目の音からスケールを弾くとオルタード・スケールと同じ音列になります(=スーパーロクリアン・スケール)。そのため「オルタード・スケールはメロディック・マイナー・スケールの第7モード」とも言われます。
オルタードがメロディック・マイナー・スケールの転回形なら他に6つの名前があるはずでは?
あります。C Melodic Minorを基準にして言うと、下のような名前になります(それぞれ微妙に違う名前で呼ばれることもあります)。赤字にした3つのモードの関係は非常に重要なものなので強調しておきました。
C Melodic Minor
D Dorian b2
Eb Lydian Augmented
F Lydian Dominant (F Lydian b7)
G Mixolydian b6
A Locrian #2 (A Locrian natural 2)
B Altered (B super-Locrian)
オルタード・スケールはどんな時に使うもの?
オルタード・スケールはほとんどの場合、4度上に解決するドミナント・セブンス・コードの上で使われます。一見したところトニックに解決していないように見えるコードでも使える時がありますが、そういう場合はコード進行の分析能力が必要になります。
理論が苦手な場合は、実際にオルタード・スケールを使ったフレーズ弾いてみて「合う」かどうか、自分の耳で判断するのが良いと思います。たくさんジャズを聴いている方なら自分の耳で判別できます。
マイナーのII-V-IのV7のところでもオルタードを使える?
問題なく使えます。しかしマイナーII-Vの場合は、V7で5度下のハーモニック・マイナー・スケール(Harmonic minor perfect 5th below, 通称hmp↓またはHP5)を使うことのほうが多いかもしれません。
HP5を観察してみます。#9thと#11thがありません。そのかわり、ナチュラル11thがあります。見方を変えると、Cのコードトーンである1度・3度・5度に半音上からアプローチする別のトライアドが存在しているとも言えます。b9thと3rdのあいだに#9thがないことによって発生する短3度(厳密に言うと増2度)が特徴的です。
オルタード・スケールの便利な覚え方は?
「オルタード・スケールの別名は?」のところで、オルタードはロクリアンと1音しか違わないと書きました。それはつまりアイオニアン・スケール(=メジャースケール、ドレミファソラシド)と1音しか違わない、ということでもあります。メジャースケールのルートを半音上げるとオルタード・スケールになります。CアイオニアンならCをC#にするとC#オルタード・スケールになります。
コード・フォームとの関係は?
オルタード・スケールとコードフォームとの関係は下の記事で書いてみました。オルタードの音列は基本的なコード・シェイプの上にマッピングできるため、極力コードと一緒に覚えたほうが後々良いことが多いと思います。
C7(b9)と楽譜に書いてあったらオルタードが使える?
そういう理解で良いと思います。下はRomain Pilonという最近話題のフランス人ギタリストの”Out of nowhere”の演奏ですが、このソロ最初のコーラス、1:30頃のD7(b9)上で彼はb9音だけでオルタード感を出しています。センス良いオルタードの使い方の好例です。
下の譜面は1:27秒〜の採譜ですが、赤丸の部分がb9音。全てのテンションを弾かなくともオルタード感は表現できるし、スケールそのものではなくメロディがとにかく大事なのだということがわかります。オルタード・スケールをただ順番に並べてもメロディにはなりません。
ディミニッシュ・コードやディミニッシュ・スケールとの関係は?
例えばC7(b9)やC7(alt)という表記がある時、半音上のディミニッシュ・コードやディミニッシュ・スケール(全ー半ー全ー半ー全ー半ー全ー半)を使うことができます。
何故かと言うと、C7(b9)の構成音はC-E-G-Bb-Dbで、ここからルートを省くとEディミニッシュ・コードが得られるからです。Eディミニッシュ・コードはすなわちG, Bb, Dbディミニッシュでもあるため、Db=Cの半音上のディミニッシュ、と考えると便利、というわけです。
あとDbのディミニッシュ・スケール(Db diminished scale)は、Cのコンディミ=ドミナント・ディミニッシュト・スケール(C dominant diminished scale, C half-whole diminished scale)と同じになります。
ただこれらのディミニッシュ・スケールを使用する場合、含まれるカラートーン(テンション)はオルタード・スケールに含まれるものと違ってきます。
Iに解決するV7上のオルタード・テンションはどの音に着地する?
b9thはIの5thが最も近い
#9thはIの6thまたは7thが最も近い
#11thはIの9thまたはルートが最も近い
b13thはIの9thが最も近い
そのため、それらの音に自然に着地できます。
オルタード・スケールの中にトライアドはある?
2つ隠れています。増4度(#11)と増5度(b13)をルートとするメジャー・トライアド2つです。Cオルタードなら、F#(赤◯の音)とAb(青◯の音)のメジャー・トライアドが隠れています。これを使ってフレッシュな表現を試せます。
ちなみに、トライアドのモダンな活用法は下の本で詳しいです。巻末の「コンテンポラリーメソッド」というセクションです。現代的な音使いに興味がある方に大変参考になると思います。オルタード・スケールのことはわかった、身体に染み付いた、しかし他にどういう表現上の可能性があるのだろう、と思った時は、手にとってみると良いことがあると思います。
オルタード・スケールについてもっと詳しく知りたい、意見を交換したい、わからないことがある、という方は、是非Jazz Guitar Forumのこのスレッドに遊びに来ていただけると幸いです(閲覧にはメンバー登録が必要です)。オルタードについて皆で語り合いましょう。