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自由になるために言葉を慎重に選ぶギタリストたち

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2年ほど前にジョン・アバークロンビーの教則動画を紹介したのですが、その中で彼は一般に”Enclosure”(囲い込み)と呼ばれる音の装飾技法を表す言葉について、あまりフレンドリーな表現じゃないね、と語っていたのでした。

「エンクロージャー」より「ネイバートーン」のほうがフレンドリーな表現だね! - John Abercrombie
ジョン・アバークロンビーがMy Music Masteclassの教則動画で面白いことを言っていたので紹介します。

“Enclosure”よりも”Neighbor tones”(隣接する音)と呼ぼう、と彼は言いました(「おっこの音はお隣さんだね、こっちに来なよ!…」)。

説明する時に言葉を注意深く選んでいるような印象を受けるのですが、これは大事なことではないかとますます思うようになってきました。

私達の想像力や発想は、普段の生活で何気なく使っている言葉に影響を受け、コントロールされているのではないか。しかも、かなり強めに。

たとえば”Avoid notes”という有名な言葉があります。Avoid, つまり「避ける」べき音。こういう言葉でそれを覚えてしまうと、もう何が何でもそれを弾かないぞ、みたいな気持ちになったりしませんか。

最近、1年前の記事で紹介したピーター・バーンスタインの教則動画を見返したのですが、バーンスタインにもアバークロンビーのような「言葉へのこだわり」が感じられて、興味深く思ったのでした。

弾いたことがないものは聴こえるわけがないだろう - Peter Bernstein
My Music MasterclassからPeter Bernsteinのレッスン動画が出ました。その中で彼は面白いことを言っていました。...

彼はメジャースケールの説明をする時に、ダイアトニックでない音も使える、例えばこのG#…これは”Guest”、お客さんだ、と言ったのでした。メジャースケールは家で、この音は家の中の住人ではない。外から来た人だ。弾いてみるんだ。そのヘンな音を、聴いてみるんだ、と。耳と心をオープンにしよう、と。

“Avoid”と”Guest”だと全く発想が違ってきますよね。”Avoid note”だと触れてはいけない地雷みたいですが、”Guest”だとレスペクトを持って接する客人なわけです。

もうひとつ、バーンスタインの動画で彼が使っていた面白い言葉に”Key note”という言葉がありました。中心的な、核となる音。スケール内の各音について、例えばD dorianならD音について、何かメロディック・ステートメントを作ってみよう、D音についてのアイデア、フレーズ、センテンスを弾いてみよう、と彼は言います。

聞いていて、これは「ターゲティング」とか「ターゲットノート」の話なのかな、と思ったのですが、ちょっと違うんですね。「ターゲット」みたいな便利でわかりやすい言葉が登場しません。かわりに彼は”Key note”という言葉を使います。

彼が”Key note”を表現してみよう、という時、それは「Dの音が印象に残るような小さいフレーズ」を弾く、ことを意味しているようでした。ターゲット、標的、的、という感じとはビミョ〜に違う感じ。そのDが到着点なのではなく、そのDを浮かび上がらせるような弾き方になっている(これ、なかなかうまく伝えるのが難しい…)。

彼は「4度の音の4度性を表現する、でも何言ってるかわからないよね(笑)」、みたいなことも言っていて、なるほど〜!と思いました。これ、ものすごく面白いことを言っていると思いました。

エンクロージャー。アボイドノート。ノン・ダイアトニック・ノート。ターゲットノート。等々、ある現象・あるアプローチを示すための「便利な言葉」がたくさんあって、私達はそれらを本で学んだり、普段の会話で使ったりすると思うのですが、場合によってはそういう「既成の用語」(ターミノロジー)に振り回されていて、不自由になっていたりしないのか。

Iへの解決、という言い方があると、Iになったらすぐに解決しないといけないと人は思ってしまうのではないか。でも実際はかなり遅れて解決したって構わない。V7の上だからといって必ずオルタードテンションを使う必要もない。

Dm7(b5)-G7(b9)というショート・ツーファイブを目にすると、短い時間で音をたくさん弾いてコード進行を表現しないといけないんじゃないかと人は思ってしまうのではないか。

そういう感じの、既成の言葉や用語、概念、記号によって、自分を不自由にしていることが、思っている以上によくあるのではないか。などと思ったのでした。

そういえばベン・モンダーは「テンション」とは言わずに「カラートーン」と言っていました。これもいい例ですね。テンションは「緊張」ですが「カラートーン」は「色のある音」。これはもう発想や立ち位置が全然違ってくるんじゃないか…(下は関連記事)。

色彩としてのテンション
カラートーン、という言葉があります。

IとしてのCΔ7上なら、C IonianかLydianかIonian #5かMajor pentatonicかBluenote Pentatonicか…的な発想が一般人。でもギタリスト田中裕一さんによるとアダム・ロジャースはC Phrygianも弾くらしい(で、実際弾いてみたらこれが結構面白いサウンド!)。

優れたミュージシャンは、どうも一般的と思われる理論的用語、ターミノロジーを、本能的に避けているように感じる時があります。ここには彼等のプレイとかかわりのある、大事な秘密があるような気がしています。


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