コンビニの店員さんがすごい。といっても新米さんではなく、もう長年コンビニ業界で生計を立ててこられてきたであろう、熟練のコンビニ店員さんたちのお話です。
彼等は先を読むのです。というか、読める。不思議な未来予知能力があるのです。
深夜のコンビニで私が冷蔵庫からコカコーラ・ゼロを取り出して扉をバタンと閉め、そのあとすぐレジに向かおうとすると、こちらに背を向けてポテトチップを棚に並べていた一人シフトの店員さんも、振り返ることなくレジに向かうのです。
彼は私がそのコカコーラ・ゼロ以外に何も買わないことをどういうわけか完全に予測していて、一切の迷いなくレジに直行するのです。
ズバーン、と見事に合わせてくるのです。そして会計をしてくれます。
もし私がコカコーラ・ゼロ以外に、ヨーグルトを1個買おうとしたらどうでしょう。
彼等はそれもわかる。お見通しなのです。何故わかるのか。私が冷蔵庫の扉を閉める時の力加減か。それとも足音か。何故かわからないのですが、店員さんは知っているのです。
私がその時コカコーラ・ゼロ以外に何かもう1つ商品を買うであろうことを。であるが故に、即座にレジに向かう必要はなく、カルビーポテトチップスの陳列作業を中断する必要はないことを。
熟練のコンビニ店員さんのエスパー能力はさらに続きます。
レジで、私が小銭で払うのか。紙幣で払うのか。スイカやパスモのような交通系カードで払うのか。それともVISAやMastercardといったクレジットカードで払うのか。
彼等はそれもリアルタイムで理解するらしい。勿論、私が同じコンビニでいつも同じ店員さんにスイカを出していたら、行動パターンを先読みしているだけだ、とも言えそうですが、そうでもないのです。
ポケットの中の小銭で払おうか、それともカードで払おうか、迷っている時、彼等は私の顔など見ずに淡々と商品をビニール袋に詰めています。まるでこちらがどの支払いメソッドにするか決めかねているのを承知しているかのように。
(…あんた、まだ決めてないんだろう…?)
最初からクレジットカードで支払うことに決めている時があるとします。財布からカードを抜く。すると彼等は、私のほうにちらとも視線を向けていないのに、白いビニール袋にヨーグルトを入れる手を止め、
…お支払いカードですか
と言って、伏し目がちに手を差し伸べます。その様はまるで座頭市のようです。私はいつも愕然として口を半開きにしてカードを差し出します。
推測なのですが、財布からカードを抜く時の人間の肩から腕にかけての微妙な筋肉の収縮具合を彼等は視界の端っこで捉えていて、ああこの客は現金じゃなくてカードだな、とわかっているような気がします。
何千人、何万人という客を相手にしてきて、ほんのわずかな情報から相手の次の行動を予見する驚くべきスキルを、彼等は身に付けてきたのでしょう。
お前はいま、b9を弾いた。ということは、お前は次にトニックの5th以外を弾いたりはしない。そのフレーズは9thに解決するんだろう? などと読まれているかのようです。
時々、こちらの意図がわからないように、こっそりと、本当にこっそり、ゆっくりゆっくり財布からカードを抜いてみたことがあります。店員さんに見えないように。
しかしその時の店員さんも袋に商品を入れる手を止め、
…お支払い、カードですね
と言いました。衝撃的でした。ジョン・ウェインの西部劇だったら、俺はいま撃たれて死んだ、と思いました。そしてこの人と一緒に演奏していたら、安心して弾けるだろうな、と思ったのでした。