当ブログではあまり人気のない真面目な練習ネタを書いてみます(笑)
ジャズギターに興味があって、巷で大人気の「ギター無窮動トレーニング」に取り組んでみたり、販売されているコピー譜でフレーズコピーをやってきたけれど、どうも続かなかった。何か覚えられないし、身体に入ってこない。忘れてしまう。弾くと音を間違えてしまう。自分なりに応用ができない。やっぱりジャズギターって難しいね…という嘆きを時々耳にします。特にロック系のギタリストの方からそういう話を聞くことが多いような気がします。
指板を多層的に理解するということ
原因はいくつかあると思うのですが、そうした方々のお話を聞いていると少なくとも1つ共通点があるように思いました。それは「指板の多層的な理解が不足しているのかもしれない」という点です。指板の多層的理解、などと書くと難しそうに聞こえるかもしれませんが、実際は簡単なことなので、この記事で説明してみたいと思います。
パット・マルティーノのフレーズを題材に
この記事ではパット・マルティーノのフレーズを題材にしたいと思います。下がそれです。マルティーノが実際に弾いた有名なフレーズで、完全にマルティーノ語です(笑)。Cm7の構成音に、9thと11thが加えられている、と考えて良いフレーズです(Dbの音だけCへの経過音、クロマティック・アプローチです)。あらためて観察すると、アルペジオ的な動き・スケーラーな動き・クロマティックとバランス良く構成された、お手本のようなフレーズですね。
で、こういうフレーズを「何も考えずにひたすら手癖にする練習」は、ジャズ入門段階では有益かもしれないのですが、「脱初心者」を目指したい場合は「このフレーズの背後にあるコード・アルペジオ・スケール」を指板上で観察すると良いことがあると思います。それをやらなかったために挫折した、という方は結構多いのではないでしょうか。
例えば。上のフレーズと同じポジション(同じ場所、同じエリア。これ重要)に、こういうCm11のコードが隠れています。これは誰でも知っていないといけない当たり前のコードなのですが、上のフレーズはこのコードのフォーム(シェイプといっても良い)と重なっています。こういう「重なり」を理解するのが、「指板を多層的に理解する」という意味です。
同じ場所で、Cm7のアルペジオを弾くと左下のようなポジション・運指になりますね。このポジションでCmペンタトニックを弾くとしたら?右下のような運指になります。「重なり」が増えてきました。ところでCmペンタトニックとは、見方を変えればEbメジャーペンタトニックのことです。
あるマイナーコードを見たら、平行調関係にあるメジャーコードをその場ですぐに発見できるようになると便利です。このポジションでのCm7のフレーズだったら、下のようなEbΔ7やEb6(9)の普通のコードが隠れています。
EbΔ7というのは、ルートのないCm9と同じ構成音。そのためCm9的なフレーズを弾く時はEbΔ7が見えていると便利。EbΔ7のアルペジオもこの場所で弾けるようにしてみます。繰り返しになりますが、先のマルティーノのフレーズを弾いたのと同じ場所で弾くというのがとにかく大事。
ところでマルティーノの上のフレーズは、コード的に考えるのでなく、スケール的に考えるとしたら、何スケールの上に成立していると考えられるでしょう。6度の音がないので、エオリアンがドリアンか決定できませんが、とりあえずドリアンとして考えてみましょう。Cドリアンが下に隠れている、と考えてみます。この場所でCドリアンを弾いてみます。
CドリアンというのはすなわちBbアイオニアン(Bbメジャースケール)のことなので、見方を変えるとこうなります。上のマルティーノのフレーズは、Bbからはじまるドレミファソラシドの上に成立している、と考えることもできるわけです。
BbアイオニアンはすなわちEbリディアンでもあります。このことも同じポジションで意識して弾いてみます。
ここで最初のパット・マルティーノのフレーズをもう1度弾いてみます。弾きながら、今まで見てきたコード・フォームやアルペジオやスケールを思い出します。多重露出の写真を見るように、指板上にコードやアルペジオやスケールを重ねてガン見します。そしてフレーズとの関係を理解します。「指板を多層的に理解する」とはこういう行為です。指板上にこういう風景が見えていないと、フレーズもあまり記憶に残らなかったり、覚えたつもりでも弾く時に音をいくつか間違ってしまったり、フレーズを自分なりに改造するといった応用が難しくなってくると思います。この練習、やったことのない方にはとてもおすすめです。
他のポジションでも同じことができるようにする
多分ピアノやサックスのような楽器については、この話は基本的にここで終わると思います。しかしギターだと同じフレーズを5箇所くらいで弾けてしまう。というか、実際に弾けないと困ることが多いと思います。なのでより多くのポジションを征服していく練習をする、と。12キーの移調が比較的簡単であることとの引き換えにギタリストに課せられた試練、それが複数ポジションの制覇(笑)。上のマルティーノのフレーズ、下のようにも弾けますよね。
このフレーズの下に隠れている超有名なコードフォームは例えばこの2つ。右下のEbΔ7に特に注目。マルティーノのフレーズの3拍目をそのままなぞるように弾けるコードフォームです。
両方のアルペジオを確認します。
スケールも観察します。このポジションでペンタトニックが弾けるか確認するのも良いですね。
もう一つ別ポジションで
4弦ルートのCm7のポジションも見てみます。こんな風に弾けます。ここで注目したいのは3拍目の下降するD-Bb-G-Ebという音列。これを覚えておきます。
このポジションに隠れているCm7とEbΔ7はそれぞれ下のような感じですが、EbΔ7のシェイプはフレーズそのままですね。これもコードのシェイプとフレーズのシェイプがきれいに重なり合っている、わかりやすい例ですね。このことから言えるのは、コードフォームをたくさん知っているとそこから面白いフレーズを導き出せたりする、ということです。
さらにもう一つのポジションで
最後にもう1つだけ別ポジションを観察。ここでも弾けますね。
これは5弦ルートのCm9(これも超有名なコードフォーム)を指板上にイメージすると、フレーズの各音がシェイプの中を通過しているのがわかります。右下のコードも同じ場所にあります。Cm7のDrop2の3度ボトムです(名前はどうでもいいです)。このポジションで同様にスケールやアルペジオを弾く練習もします。5弦のCは小指スタートになります。
他にもう1つ、6弦ルートのCを人差し指で開始するポジションもよく使いますね。ここでは省略します。ポジションによってはあるフレーズが速く弾けなかったり、アーティキュレーションが思い通りにならなかったりトーンが好みでなかったりする場合もあると思いますが、それはまた別のお話。
まとめ
どんなフレーズも、各音がコードに対して何度なのかを考える。それを弾いている場所にコードとして押さえられるシェイプ(=ボイシング、と考えても可)がないかを考える。そのポジションでコードのアルペジオやスケールを弾けるようにする。こういう地道な練習は、時間はかかるのですが、「なにやってるかわかんないけどがむしゃらにとにかく弾きまくって指に記憶させてやる!」的な練習よりも確実にフレーズが身に付くと思います。
いずれ耳コピーができるようになった時にもフレーズをどのポジションで弾くのが自分にとっては効率的なのかわかるでしょうし、そもそも耳コピーのスキル自体も向上するはず。
コードフォームですが、この記事の中で紹介したものは全て絶対に知っておく必要がある類のものなので、覚えないといけないのですが、ロック系の方でコードのことを全く知らないという場合は下の記事の「バッキングが上手になりたい・コードの知識を身に付けたい」というセクションが参考になるかもしれません。
最後に1点だけ追記します。この記事で取り上げたパット・マルティーノのフレーズは、Cm7のコードの上でCm7的なコードを弾いているので分析しやすいです。しかしギタリストによっては、Am7(b5)の箇所のフレーズのはずなのにどうも謎のB音が混じっている(笑)といった場合があります。こうなると理論の知識がちょっと必要になってきます(この場合、AロクリアンではなくCメロディック・マイナーの姿をそこに探したほうがうまく行くとか、そういう少しややこしい話になってきます)。
先生に習うと、コードや理論の疑問にもすぐ答えてもらえるはずなので、初級段階で完全に独学、という方は、可能であれば習うのがやはり近道だと思います。Jazz Guitar Forumという掲示板で質問をしてみるのも良いと思います。お気軽に遊びに来てみてください。
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