最近「モンスター」達が入れ替わったフリースタイルダンジョン。先日の「雄猿vs.輪入道」はなんとも胸が締め付けられる、もどかしい戦いでした。
挑戦者・雄猿(ゆうえん)のラップは、明らかに「練習してきたフレーズ」から知的に構築されたものであることがすぐにわかりました。とても丁寧な、真面目な性格が伝わってくるスタイルで、ジャズのアドリブに例えるなら「コードトーンをキャッチーでわかりやすい譜割りのリズムに乗せて届ける」という、アプローチとしては間違ってはいないはずの直球勝負。
しかし、それは私達がフリースタイルダンジョンの挑戦者に求めている姿なのだろうか。
対する新モンスターの輪入道(わにゅうどう)はそんな雄猿の対極とも言えるスタイルで、練習の積み重ねがあるからこそ可能な芸当であるとはいえ、恐らく挑戦者の何倍も高い「精神の解像力」をもってその場で次々と相手に絡みディスり、本人の言葉で言えば「悟して」いくスタイル。
ほぼ全てを事前に用意していた雄猿と、ほぼ全てをその場で、”on-the-fly”で(即席で)料理した輪入道。勝敗は審査員のジャッジを待たずとも明らかでした。
この2人の戦いは、喩えるなら大学のジャズ研1年目で本に書かれたTwo-Fiveフレーズばかり練習している若者とインパルス時代のジョン・コルトレーンとの対決のようなもので、観ていて挑戦者が気の毒でした。
挑戦者・雄猿は何も間違っていないし、練習もたくさんしているのだろうし、きっと真面目な性格であり、これからもレペゼン千葉県松戸市としてどんどん強くなっていくのでしょう。こういう人は続けていけば絶対に伸びる。中途半端なミディアム・テンポで持ち味が発揮できていなかったけれど、雄猿が目指しているグルーヴとヴァイブが一瞬だけ見えたような気もしました。
と同時に、こうも思ったのでした。挑戦者・雄猿がこのスタイルを貫いていったとしても、彼は輪入道やジョン・コルトレーンやエリック・ドルフィーやオーネット・コールマンの世界を垣間見ることは、多分ないだろう、と。
そこには超えられない壁がある。それは私自身も常に越えようと意識している壁です。これを書きながら偉そうに高みから雄猿に同情しているのではありません。と書いておかなければならないのですが、さてどうすればその壁を超えられるのだろうか。
答えは多分、もっとリスクを冒す、ということではないか。譜面に書けないような、後で採譜しようとしても自分で戸惑ってしまうような無茶苦茶なリズムでぶちこんでみる。着地点が見えなくともとりあえず飛んでみる。もっと熱くなってみる。もっと事故ってみる。練習したことを全て忘れて、相手と対峙する。
言うほど簡単なことじゃないですね。でも死ぬわけじゃないないんだから、そういう冒険を冒しても良いのではないか。
ベン・モンダーがこういうことを話していました。
Jazz improvisation has been described as a ratio between spontaneous material and worked out material and most interesting type of improvisation is weighted toward spontaneous, I would much prefer to hear the workings of a creative mind in the moment than what’s somebody practiced in the practice room.
ジャズの即興というのは、自然に発生した素材と、事前に準備した素材との比率で説明されてきた。僕にとって興味深い即興は、より自然に発生した素材に重きが置かれたものだ。僕は、その時々における、クリエイティブな精神のはたらきを聴くのが好きだ。練習室で練習してきたものを聴くよりもね。
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