Twitterで武蔵野文化事業団さんが面白いチラシを配布されていました(画像は公式アカウントより)。12月のファビアン・アルマザン&リンダ・オー公演のチラシなのですが、この仕事がすごい。まずはご覧下さい。
では早速アナリーゼに入りましょう。
「”旬”のジャズマンは彼らだ!彼らなんです!!」
この「彼らだ!彼らなんです!!」という反復。小さいメロディを反復する際に部分をエディットするという効果的な基本技。「だ」を「なんです」に拡張することで「彼ら」が強く胸に刻まれる。なお「”旬”の」は半拍前からのクロマティック・アプローチで多分深い意味はない。そうだそうだよそうだよね。
「時代の寵児x時代の寵児」
印象的なソロにはキャッチーな小さいフレーズの反復が不可欠。時には完全に同じパターンをそのまま繰り返す。必ずしも変化球が必要なわけではない。
「彗星の如く、頂点へと駆け上がるジャズ・デュオ」
使い古された歴史的表現・クリシェも時には堂々と導入する。これにより演奏に歴史的パースペクティブが生まれ、プレイヤーの背後に後光が射す。恥ずかしがらずに弾ききるのがポイント。
「ブルーノートよりCDを発売!!」
息切れしてもショー・マスト・ゴー・オン。音楽を止めることはできない。権威の力を借りつつハッタリをかます技も時には必要…なのかもしれない。「ダウンビート…」と「テレンス・ブランチャード…」も同様。いろいろ詰め込みすぎた感はあるもののスピードとドライブでうまく乗り切っている。
「パット・メセニーが惚れ込む才能!!」
「ブルーノートより…」同様の権威モチーフの反復。捻りのない直球のコードトーンを立て続けに放り込むことにより意外性が生まれている。コード的にここはV7だが使用されている音はミクソリディアンのみであり、オルタード・テンションに慣れた耳にこの表現は斬新に響く。現代的だ。
「メセニーのバンドで世界中をたくさんツアー!」
着地先のトニックでもアイオニアン一発…かと思いきや、「たくさん」という唐突感のあるワーディングが強烈な#11thとしてサウンドしている。アイオニアンからリディアンへのこの変化、実にカラフルと言わざるをえない。破壊力抜群のこの演奏のハイライト。
「なんと!アメリカの老舗ジャズ雑誌、ジャズタイムズ誌の表紙を単独で飾る大快挙!」
どんなに手垢が付いたクリシェ的表現であろうと、恥ずかしがらずに堂々と弾ききると「お、おう…」と聴き手も納得することがある。ちなみに「なんと!」はジャパネットたかたの通販番組から引用したフレーズ。
「更に売れっ子になりすぎて、180席のスイングホールで聴けなくなる前に!」
次のコードを先取りするアンティシペーション的表現。小節線を超えたこのスリリングな表現にプレイヤーとしての武蔵野文化事業団の高い力量を感じる。「聴けなくなる前に!」はトニックの9thに解決しており、この浮遊感がチケットの購入意欲をそそる。”Yeah!”と叫びたくなる見事なクロージング。
というわけで皆さんファビアン・アルマザン&リンダ・オー、観に行きましょう。
ファビアン・アルマザン&リンダ・オー
2017年12月16日(土)午後3時開演
武蔵野スイングホール