ロバート・グラスパーが去年リリースした”Everything’s Beautiful”はマイルス・デイヴィスの音源を利用していたことで話題になりました(ジョン・スコフィールドも1曲で参加)。下は”Get Up with It”収録の”Maiysha”でのマイルスのプレイがフィーチャーされています。エリカ・バドゥが歌詞を書き、グラスパーが美しいボサ・ノヴァに仕上げました。
なんとなく聴いているだけだとジョビンの”How Insensitive”を思わせる、恋を巡る女性の感情の葛藤を描いているように思われるしんみりとした曲なのですが、この動画を観ていると色々と不自然な点に気付きます。
まずエリカ・バドゥの髪型と服装。これはもうアストラッド・ジルベルトを意識しているのは間違いないでしょう。そしてロバート・グラスパーのソロ。リディアンが炸裂する最高にカッコいいソロなのですが、アテレコが合っていないどころか、音が鳴っているところで手を離し眼鏡の位置を直しています。しかもその箱からそんなmoogみたいな音するか!という音色。
トランペッターを見てみます。マイルスのソロにアテレコしているのですが、ミュートがはめられていません。彼とベーシストは靴をはいていません。エンディングのベース、アルコが終わる前に弓をしまってどうする!ていうかドラム、これ打ち込みだろ!エリカ・バドゥは手袋をした指をパチン!と鳴らしています。
考えてみると歌詞がどうもやばそうなことにも気付きます。詳しくは書きませんが、”That’s what she said”という有名な英語ジョークを用いた、相当卑猥な歌詞です。
そして気付きました。これは全部わざとなのだと。悪ふざけなのだと(ちなみにこの動画はロングバージョンもあります)。気付いた後に、爆笑しながら「いいじゃん!」と思いました。
グラスパーの”Everything’s Beautiful”もこの曲も酷評する人は少なくないようです。マイルスが生きていたらこんな音楽はやっていないはずだ、こんなのはマイルスへの冒涜だ、といった意見も目にします。
でも私は好きなアルバムで、このPVでの悪ふざけも好きです。というか、マイルスの音源や演奏を素材に何か重厚で本格的な楽曲を「クソ真面目」に作って完璧なアテレコのPVを撮ったりしたら、そのほうがむしろマイルスは怒ったのではあるまいか、と思ったりします。
亡くなった人のことはわからないのでマイルスがこれを見て何と言うかはわかりませんが、個人的には悪戯好きだったマイルスへの良いトリビュートになっていると感じます。俺は許す!(何様w)
SMJ (2016-05-25)
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