最近読んだ大江千里さんの「9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学」の生々しさに心を奪われました!Jazz Guitar Forumの読んでよかったジャズ関連本スレッドでikechanさんにご紹介いただいた本です。
シンガー・ソングライターの大江さんが47歳にしてそれまでのキャリアをほぼ捨ててNYのニュースクールへと本気でジャズを学びに行くお話。ドキュメンタリーのようでも物語のようでもある、とにかく「読ませる」内容です。大江さんご本人が執筆されているようですが「伝わる文章」がすごい。
長期間にわたるお話のせいか時々筆が急ぐこともあるのですが、それが逆に「色々なことを思い出しながら熱量を保ったままぶちこんでいる」感があり、ある意味即興演奏のようなスリルもありました。この本自体が1つのショーです。
無謀さこそ才能
なんて無謀なんだ、と読んでいて思いました。47歳でニューヨークの音楽学校にジャズを学びに行く。クラスメイトはほとんど20代。ポップミュージックでのキャリアは(最初)何の役にも立たない。それどころか大江氏、「リズムチェンジ」が何を意味するかさえ知らずにその学校に入学したのです。どうも大学のジャズ研に入ったばかりの一般的な日本人と同程度の知識とスキルで、アメリカに飛び込んだらしい。
下からF-A-C-Ebと積む、それ以外のF7のボイシングを知らない状態で大江さんはNYに渡った。I Got Rhythmという曲も知らなかった。同級生にはバカにされ、先生には驚かれた。ギタリストで言うならマイナーペンタとカウボーイコードだけが武器、という状態だったのでしょう。さすがにもっと準備してから行ったほうが良かったんじゃないか、と最初思いました。
でも思い直しました。この無謀さこそが才能なのだと。この向こう見ずな無謀さは、自分にはあるだろうか。大江氏にはジャズへの愛があった。ひたすら愛のみ。9番目から上の音とクロマチシズムに溢れたジャズへの愛。それがあったら、いろいろ何とかなった(笑)。いやな奴もいい奴もいた。いやな思い出もいい思い出もあった。360ページの大ボリューム。
私は何でも弾けます、私すごいんです、何でも私に聞いて下さい…という人の話は、全く面白くないし何の参考にもならない。理想と現実のギャップに悩み、地道に自分の音楽を前に進めていく人の話。そこにこそヒントがあるし、面白い。私はいま、大江さんのピアノを聴きに行きたくてたまらない。私もまた、この無謀さを自分の中に取り戻すことができるだろうか。
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