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トリビュート礼賛

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つい先月ブルーノート東京で観たばかりのピーター・バーンスタイン・トリオは、蓋を開けてみたらセロニアス・モンク・トリビュート・ライブでした。ピーターは冒頭、確かこう言いました。

今年はセロニアス・モンクの生誕100周年記念です…というわけで、モンクの曲を演奏する口実(excuse)が私達にはあるのです。

通訳が付くわけではないので、会場はなんとなくシーンとしていました。でも、バーンスタインは冗談を言ったのです。彼の本音は、きっとこう。

ぼくはセロニアス・モンクが好きでたまらないんです。今年生誕100年だからモンクの曲を演りまくれてラッキーです! でも本当は、モンクの曲を演るのに口実なんか要らないよね。だって、みんなモンク大好きでしょう? ワッハッハッハッ!!

そういう感じだったのではないか(会場では誰も笑わなかったけど)。

“Well You Needn’t”を演奏する前に、ピーターは言いました。「僕達はこの曲があまりに好きすぎるので、ビートを加えて(変拍子にして)しまいました」。

当日の彼のステージを観た人で、「ピーターは何故オリジナル曲をやらないのだろう。何故セロニアス・モンクという他人の曲ばかりやるのだろう」と不満に思った人はいるのでしょうか。いるかもしれないけれど、少なくとも私自身はそういう不満を持つことは全くありませんでした。セロニアス・モンクとピーター・バーンスタインという2人の音楽家の魅力を同時に、そして最大限に享受できた一夜でした。あれはすごいライブでした。みんなYeah!の連発でしたよね。

私自身がもともとセロニアス・モンクの音楽が大好き、ということもあるかもしれません。で、バーンスタインの生演奏はその日がはじめてだったのですが、セロニアス・モンクの楽曲とプレイの本質(表面ではない。ここが大事)を、ギターという楽器で如何に自分流に表現できるか、モンク愛を表現できるかを追求しているという点で、モンクへの最大限のレスペクトが感じられたオマージュ(賞賛)であり、トリビュート(捧げ物)でした。

世の中には様々な形態及び意図を持った「トリビュート・ライブ」がありますが、トリビュートは他人の音楽を表面的になぞることによって、自分自身の表現と向かい合うことを逃れる、という消極的な、お茶を濁すようなものでは必ずしもないと思っています。

  • セロニアス・モンクの音楽
  • パット・メセニーの音楽
  • マイク・スターンの音楽
  • アラン・ホールズワースの音楽
  • 武満徹の音楽

そうしたトリビュート・ライブ、トリビュート・コンサートがなかったら、世の中全くつまらない。そうした偉人の音楽的を定期的に振り返ることで、演奏家は音楽史の中の自分自身の位置付けを再確認出来るのかもしれないし、他人の心の中のことは私にはわからないけれども、リスナーとしても「このギタリストは、メセニーをこのように消化したんだ。そしてここに歴史が継承されたんだ」という感動を持ちます。

「お前、自分の音楽を演ってないじゃないか!」とか全く思いません。

個性とオリジナリティを巡るこの主題は、私にとっても非常に大きいテーマなので、過去に何度もこれについて書いてきました。例えばほぼ1年前の:

トリビュート・ライブ、最高です。恐らくこう批判したい人もいるのかもしれません。「他人の音楽ではなく、自分の音楽を演れ。自分自身の表現と向かい合え」と。伝説的なミュージシャンのフォローばかりしているから、自分自身の音楽性が育たないのだ、と。

いやいやいやいや。 そういう意見はそういう意見としてあるのでしょうけれども、私自身は、「自分という存在はそんなに大事か」と思います。俺はどう弾くのか。他人ではない俺はどう弾くのか。俺が俺が俺が。俺が俺が俺が俺が。自分自身の個性を追求するあまり、他人からの影響を峻拒する。

でも、どんなにセロニアス・モンクの音楽に没頭していても、そこには拭いようがなく自分自身が滲み出てくるのではないか、と思います。実際、ピーター・バーンスタインによるセロニアス・モンクは、バーンスタインが弾いたもの以外の何物でもなかったし、それはカート・ローゼンウィンケルやスティーヴ・カーディナスの演奏についても同じです。

パット・メセニーは10代の頃、ライブハウスでウェス・モンゴメリーの完コピソロを演りまくって、先輩ミュージシャンたちに「お前いつまで他人の真似ばかりやるつもりだ。そろそろ自分自身の音楽を演れ」と説教されたそうです。

でも、私は思います。そのメセニーのウェス完全コピーは、もうどうしようもなくメセニー的なアーティキュレーションの演奏だったのではなかろうか、と。そして、決して恥ずかしい演奏でもなかったのだろうと思います。想像に過ぎないけれど、そこにはやっぱりものすごい愛があったのじゃないかなと思います。

あなた自身の個性について研究するのはやめて下さい。他の人の個性について、研究してみましょう (Don’t try to make a study of your own individuality. Make studies of everyone else’s individuality.)

– Mick Goodrick 前人未到の即興を生み出すギター演奏の探求

多くのプロミュージシャンが定期的にトリビュート・ライブを演るのは、上のような理由じゃないかなと思います。私はミック・グッドリックのこの言葉が好きです。

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