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新世紀マイルス語録(7):何にでもケチをつける年寄りにだけはなるな

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ぼくはいま、ひとり磯丸水産のカウンター席でホッピーを片手に苛立っている。なぜなら目の前の厨房にいる新入りのアルバイトが、このクソ忙しさ何なんだよ、ウンコだよ、と笑いながら大声で他の店員に話しかけているからだ。食事をしている客の前でウンコなどと口にしてはいけないはずだ。声をかけられた店員は、その新人に問題があることを感じているらしいが、注意はせず、ただ苦笑いしている。おかしいものはおかしいと注意する気力がないのだ。面倒臭いのだ。なぜ世の中はこんなふうになってしまったのだろう。ぼくのイカ焼きは30分たってもまだやってこない。後ろのテーブル席ではサラリーマンの集団が酔っ払って大声で叫び、床に落ちたホッピーのジョッキが割れる。一体何だ。何なんだ、テレビに映っているあのトリンプとかいう新大統領は。後ろから近付いてブラジャー巻いてやるぞ。そしてJAZZ LIFEの今月号、これは何だ。ページが少ない。ふざけるな!ヘ〜ックショイ、ウェ〜イ!ぼくは大きくくしゃみをする。この花粉はなんだ!国は杉を切れ!焼き払え!今すぐにだ!いったいなぜだ、いつから世の中はこんなろくでもないものになってしまったんだ、平和を返せ!自民党も民進党もISISもない平和な世界と北方領土を返せ!なぜ世の中は変わってしまったんだ!

変わったのは、お前だ…

隣にマイルスが現れていた。コンロの上でお通しのキビナゴを炙っている。ぼくの心が曇っているとき、いつもマイルスが現れる。そのマイルスはぼくの目にしか見えないらしい。

新世紀マイルス語録(7):何にでもケチをつける年寄りにだけはなるな

変わったのは世界じゃない…変わったのは、お前だ…世界はもともと、そんな立派なものじゃなかったはずだ…いまからほんの60年前、俺達は白人と一緒にバスに乗ることさえできなかった…お前はガキの頃、ロックを聴いていたら「そんなものを聴くとバカになるからやめろ」と親に叱られた、と言っていたな…そしてお前も20代の頃は、厨房にいるあの頭の悪そうな新入りバイトと大差なかったはずだ…お前がどれだけ世の中に迷惑をかけてきたか…それを棚に上げて…世の中を批判するとはな…いいか…この世界はもともとろくでもないものだということを忘れるな…昔から何一つ変わっちゃいない…平和だったことなど一時もない…世界はむかしからずっとこんな感じだ…変わったのは、お前だ…お前は、歳を取った。疲れた年寄りになった。それだけだ。That’s it.

歳を取った…?このぼくが…?ふと、一本の髪の毛がぼくの手元にふわっと落ちてきた。それは、白い髪の毛だった。白髪。いったいいつからぼくの髪に白髪が混じりはじめたのだろう。

若い頃は、誰でもわがままだ…周りのことなど見えちゃいない…好き放題やらかして、他人の迷惑など顧みない…お前もそうやって迷惑をかけてきた…そのお前も歳を取って、今では立派な中年男だ…そしてもうすぐ、何にでもケチをつけるタイプの年寄りになるだろう…あれはダメだ、これはダメだ、変拍子はダメだ、ストラトはダメだ、こんなものは認めない、コンテンポラリー・ジャズなど音楽ではない、そんなことを言うようになって…やがて偏屈な年寄りになる…いいか…常に寛容であれ…自分とは違うもの、自分とは相容れぬもの、よくわからないが目立っているもの…そうしたものに、次から次へとケチをつけていくような、つまらない年寄りにだけは、なるな…

ここでマイルスは通りがかった店員に片手を上げて”Excuse me…”と声をかけた。立ち止まった店員に、「ホタテの殻焼きを、ください…」と言う。しかし店員は面倒くさそうに、早口でこう言った。

ご注文はそこのタブレットでお願いしてるんで!厨房に、自動で注文入りますんで!

店員が足早に立ち去ると、マイルスは “What the fxxk…”と苦々しそうに呟いた。なんだこれは…この妙なエレクトリック・ディヴァイスは、一体何だ…見たことがない…

新世紀マイルス語録(7):何にでもケチをつける年寄りにだけはなるな

マイルス、それは彼等のビジネスプロセスをオプティマイズしてぼくたちのオーダーをマネージするトータルソリューションなレイテスト・テクノロジーだよ、とぼくは説明した。それを通してオーダーをプレイスすることで、ミスコミュニケーションに起因するワーカーたちのエラーが減るんだ。それにいま何杯のホッピーを飲んだかわかるし、割り勘の計算もしてくれる優れものなんだ。店舗の在庫管理やトレンドのアナライズもできるんだ。最近、いろんなお店にこういうのがあるんだ。回転寿司とか…

マイルスは無言でタブレットに見入っている。何か非常に怒っているようだ。一体何に怒っているのだろう。常に流行の最先端を意識するマイルスなら、この未来的トータルソリューションをきっと気に入るはずなのに、何故だろう。

こんなものは、ダメだ…店員さんとのヒューマンなコミュニケーションは、どうなった…ボタンを押すと貝が運ばれてくる…俺達は、養鶏場のニワトリじゃない…ロボットでもない…そして…これは…何だ…?何が書いてある…

新世紀マイルス語録(7):何にでもケチをつける年寄りにだけはなるな

「貝の美味しい焼き方」…? Oh, shut the fxxk up… 俺の貝の焼き方は…俺が決める…こんな機械に指図されたりはしない…ふざけるな…いいか、おれはこんなものは認めない…こんなものはダメだ…こんなものは落雷で壊れてしまうといい…

いや、待ってくれマイルス、さっき何にでもケチをつける年寄りにはなるなって言ってたじゃないか!こんなタブレットに目くじら立てなくたっていいじゃないか!

やかましい。ダメなものはダメだ。アイソマール(磯丸水産)は良い店だったが…何事にもピークはあるというわけか…態度の悪いアルバイトに、こんな子供だましのタブレット…滅びてしまうがいい。ファック・ユー

その時ズドン、という轟音とともに磯丸水産に雷が落ちた。電流は床を伝わりぼくの全身を貫き、ぼくの手の中のタブレットをショートさせた。タブレットは煙を吐き、ぼくは白目を剥き口から泡を吹いて気絶した。


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