「日本人ジャズ系ギタリストの音源を聴く」というテーマでこれから時々、私のお気に入り音源について書いていきたいと思います。第1回は “Libstems” というバンドによる “Daydream Sounds” というアルバムです。
いまライブを観に行くべき日本の新世代ジャズ・ギタリストたち (2)という記事でも紹介させていただいた和田陽介氏を中心に活動されているバンド・Libstems。その1stアルバムがこの”Daydream Sounds”。メンバーは(敬称略)古木佳祐(b) 沢田俊祐(pf,key) 和田陽介(gt,effects) 永山洋輔(dr)。この素敵なジャケも和田氏の作品とのこと。
- Libstems – 1st Album “Daydream Sounds (画像は同サイトより)
お気に入り音源を紹介するコーナーなので当たり前なのですが、これは大好きなアルバムです。ずっと聴いていても全く疲れない不思議な1枚なのです。
「世界観」という不思議な日本語があります。定義が難しい言葉なのですが(例えば英語にはこの「世界観」に相当する単語はないでしょう)、自分たちはこういう音楽をやりたいのだ、という明確なヴィジョンがあるとして、ここではそれを「世界観」と呼ぶことにします(「コンセプト」という言葉が近いのかな)。
Libstemsというバンドには、そういう意味での「世界観」を強く感じます。こういう方向の音楽をやりたい、というヴィジョンが(そんなに堅苦しいものではないのかもしれないけれど)あり、それが異様に高い集中力で実現されている感じ。そしてその音楽はとにかく「メロディに捧げられている」という感じがします。
メロディとカッコいいリズムと印象的なリフ。すごくリリカルなのですが、暑苦しくないのがすごいと思います。和田氏はギタリストとして当然すごい方なのですが、このアルバムは多分「ギター・アルバム」は目指しておらず、とにかくメンバー全員が “Libstemsの音楽” を演ろうとして、実際それをプレイしきっているという印象。
63分もある贅沢なアルバムです。完成度が高い、などという言葉をうっかり使ってしまうと、こじんまりとまとまった作品ではないか、という印象を生んでしまいそうで怖いのですが、やはり異様なほど完成度の高い音楽。むかしの言葉で言うならプレイヤー全員が「ゾーンに入って」録音したのかなという感じがします。
特筆すべきは全員の音色が驚くほど良いんですよね。完全に主観なのですが、これだけ音色が良いプレイヤー集団は珍しいのではないでしょうか。勿論レコーディング・エンジニアの方々や、ミュージシャンの使用楽器も素晴らしいのだと思います。でも、この方々はどの場所で演奏してもこのトーンで演奏するに違いありません。
何弾こうとか、どんなふうに弾こうとか、そういうことのもっとずっと手前のところで、すごく良いトーンで音を出せているミュージシャンは本当に尊敬しますが、この方々は全員そういうすごい人々なのではないかと思います。このアルバムをずっと聴いていても疲れないのは、そのせいもあるのかな、などと思ったりもします。
ギター、という側面にあえて話を絞るのなら、和田氏が聴いてこられたような音楽をたぶん私も同時期に聴いて育っていると思うのですが、それらの音楽が氏の中でどのように消化されたのかが演奏から伝わってとても刺激になります。同じものを食べて、飲んで、あ、この人はこんな人になったのか!という新鮮な驚きがあります。
私は趣味でジャズ的なギター演奏を愉しみはしますが、それでも「ジャズ・ギター的な音楽」は時々すごく疲れてしまって全く聴けない時があります。このアルバムは、そんな私にジャズ的なギターの魅力を聴かせてくれつつも、とにかくひたすら心地よい(そして安っぽくない)メロディの洪水で満たしてくれます。
理由はよくわからないのですが、私の頭の中の音楽棚の中で、Libstemsとロバート・グラスパーがいま隣に並んでいます。方向は同じではないけれど、どちらも疲れた時にでも気持ちよく聴ける、聴きたくなるという点で似ているのかな。”Daydream Sounds” は2014年の発表。2ndアルバムが楽しみなバンドであります。