それは完全に気のせいです、と言われるかもしれない内容ですが、ジョン・スコフィールドの過去の名演を聴いていてふとヴェーベルンの音楽を思ったのでした。
まずこの演奏。”Flat Out” (1989) に収録されている “All The Things You Are” です。この演奏は全てがすごいのですが、特にイントロは何をどう発想したらこうなるのかわからず、大きい衝撃を受けたのを覚えています。
この演奏に限らずジョンスコの無伴奏はDrop2ボイシングのトップノートとボトムノート、スペイシーな10度の響き(中の2音は弾かない)が美しく聴こえるのですが(基本って大事だな…)、それよりもタイム感、そして音価(音の長さ)と間合いが非常に気になる不思議な演奏です。
どうもこれは「点描的」手法を意識していたのではないか、と思ったのでした。点描的手法と言えば、私が最初に思い浮かべるのが新ウィーン楽派のアントン・ヴェーベルン。シェーンベルクの弟子だった人で12音技法を本格的に掘り下げた人ですが、下の「弦楽四重奏のための5つの楽章(作品5)」(1909)は12音技法以前の無調期の作品。
ウェーベルンはこういう点描的手法の先駆者だったようです。点描音楽(Punctualism, Pointillism)についてはシュトックハウゼンの定義がわかりやすいです。
線的(リニア)な、あるいは群的な、マス(塊)で形成された音楽に対比して、分離的に形成された分子から成る音楽を点描音楽と呼ぶ
“music that consists of separately formed particles—however complexly these may be composed—[is called] punctual music, as opposed to linear, or group-formed, or mass-formed music” (Stockhausen 1998)
Punctualism (Wikipedia)
この「分離的に形成された分子から成る音楽」という表現が、ジョンスコの “All The Things You Are” のイントロにぴったりだと思います。でも、ヴェーベルンとジョンスコってそんなに似てるか? という意見のほうが多いはず。それにジョンスコはレガートにウネウネと動くリニアなラインの印象も強く、表面的にはむしろ似ていないと思う人が多いでしょう。
しかしジョン・ケージはヴェーベルンについてこんなことを言っていたそうです。
一方、ケージは、ヴェーベルンの独自な時間感覚やリズム構成をとらえて、「音楽の神髄とは間合いと呼吸にあることを教えた作曲家である」という趣旨の発言をしている。(アントン・ヴェーベルン (Wikipedia))
「音楽の神髄とは間合いと呼吸にあることを教えた作曲家である」という言葉を見て、そういうことか、と納得しました。「音楽の神髄とは間合いと呼吸にあることを教えたギタリスト、それはジョンスコである」と言っても誰も反対しないでしょう。ヴェーベルンとジョンスコに私が感じた不思議な共通点は、点描云々といった手法ではなく、この「間合いと呼吸」だったのかもしれません。