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クロマティック・ノートが人をつくる

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アルペジオをマスターした。スケールにも精通した。ならすぐにジャズをやれるか。いや、一つ足りないものがあるよね。それはクロマティックだよ。

と、Andy Laverneというピアニスト(ジョン・アバークロンビーとのデュオに名盤があります)が語っているのを聞いて、ああ良いこと言うなあ、と思ったのを覚えています。

ジャズっぽい演奏とそうでない演奏の違いには、慣例的なリズム型やアーティキュレーション、慣用句的表現が使われているかどうかも関係していると思うけれど、「クロマティック・ノートが極端に少ないとジャズっぽく聞こえない」というのも確かにあると思います。

あるキーのダイアトニック音だけ、スタンダード曲なら譜面に書かれているコード(ノン・ダイアトニックなコードもあるものの)のアルペジオだけで「ジャズらしく」聴かせるのは至難の技ではないでしょうか(ロリンズやメセニーだったら軽々とできてしまいそうな気もするけど、とりあえず気のせいということにする!)。

クロマティック・ノートの使い方には、ある程度の型があります。基本的に強拍(ダウンビート)にコード・トーンを置き、それに対して半音上から、半音下からアプローチしていく。半音を2つ重ねてアプローチしたり、3つや4つ重ねてターゲットを目指すこともできる。

基本的な型はあるものの、かなり色々なパターンが出来る。「ビバップ・スケール」と呼ばれる様々なスケールは、どこでどんなふうにクロマティック・ノートを使うと「いい感じ」に響くのか、それを体系化しようとした試みかもしれないけれど、別にその体系通りでなくてもいい。自分なりに試すのが楽しい。自分が気に入った表現なら、基本を外したっていい。

どんなふうにクロマティック・ノートを使うかで、その人の個性が強烈に出てくる、そしてその領域を積極的に開拓している人の演奏はジャズっぽくなる、と言っていいような気がします。自分のクロマティシズムには決まったルールは全くない、と語るニア・フェルダーは、スイングの曲は全然やらないけどやっぱりジャズっぽい。

ところでノン・ダイアトニックなクロマティック音は、クラシック音楽の世界では伝統的に「気分的な変調」と結び付けられてきた傾向があるようです。

ピエール・ブーレーズは西欧の和声言語において、長らく支配的だった「二元論」について語っている:「モンテヴェルディやジェズアルドの時代のマドリガルにおけるダイアトニックとクロマティックの関係には、基本的に同様のシンボリズムが多数見られる。つまりクロマティックは暗黒、疑惑、悲哀であり、ダイアトニックは光、明言、喜び(というシンボリズム)。こういうイメージ表現は300年間、ほとんど変わらなかった」

Chromaticism (Wikipedia)

オペラなんかでは確かに女の人が嘆いたり狂いかけるとクロマティシズムが多用されるような気がします。ダイアトニックは男性的、という観念も西洋にはかつてあったらしい。その後シェーンベルク〜ブーレーズに至る12音音楽になると、こういう二元論に抗うかのように全ての半音は等価なものとして扱われるようになった。現代音楽の人は調性の中に存在する二元論が窮屈だったのでしょう。

閑話休題。ブルーノート。3度と5度と7度…というか何の音でもいいのかもしれないけど、1/4だけピッチが下がる、的な表現は、やはり「気分の変調」という観念と結びつく。ストラヴィンスキーは半音階と気分の関係は慣習的なものだ、と言っていたらしく、確かにその通りかもしれないけれど、ブルーノートにはやはり得体のしれないダークな何かを感じずにはいられません。

現代のジャズはハーモニー的に進化しすぎて、リスナーを置き去りにしている、ジャズはもっとわかりやすくあるべきだ…という主張をたまに雑誌やネットで見かけます。で、そういう時、ギタリストならカート・ローゼンウィンケルが「わかりにくいジャズの代表例」みたいに挙げられているのをよく目にします。

確かに彼のクロマティシズムは、わかりやすい一時的な気分の変調を超えてしまうこともあるけれど、それでもカートの演奏にジャズを感じるのは、12音全てが等価な12音技法による音楽とは別のアティチュードでクロマティック・ノートが使われていて、それはやっぱり遠いところでブルースとつながっているからではないかと思います。

この意味ではブルーノートとかほとんど使わないベン・モンダーやマイク・モレノもそう。ブルーノートではなくとも、彼等のクロマティック・ノートには強烈にジャズを感じます。ダイアトニックとの戦い、というか戯れ、と言うべきか。シャープ、フラット。半音階って、楽しいね(or 哀しいね・不思議だね・気持ちいいね)!

ジャズはブルースの影響を受けている、というのは、単にブルーノートが使われるかどうかという表層的なことではなくて、メジャーでもあり、マイナーでもあるというブルースの分裂症的な特徴がジャズにおけるクロマティシズムと関係がある、ということのような気がします。と思うんだけど、マイルス、あんたはどう思う?

いいから黙りやがれ (Shut the fxxx off)。黙ってプレイしろ。

と言われそうです。よし、練習するか!


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