セッションやライブをやっているお店がたくさんあります。いつも大繁盛しているお店、日によって来客数のムラが激しいお店、ほとんど人がやって来ずに苦戦しているお店、いろいろあると思います。ではお客さんが少ないお店は、どうすればいいのでしょうか。
普通、お店の弱点は何だろう、と考えると思います。駅から遠いせいだろうか。ウェブサイトにわかりやすいお店までの地図がないからか。店が乱雑で汚いせいか。おいしいドリンクを用意できないからなのか。フードがまずいから、禁煙でないから、店が狭く、曲が終わるまでお客さんが中に入れない位置でバンドが演奏しているからか。いや、それともミュージシャンやホストに魅力がないからだろうか…等々。
じゃあ、まずおいしいドリンクを用意することからはじめようか。看板ドリンクを考案してみよう… となるかもしれませんが、この考え方はたぶん正解ではないでしょう。
東京のとある場所に、有名なジャズバーがあります。毎晩のようにプロを目指すミュージシャンがセッションしにやってきます。そのお店、駅から近くて便利ではあるものの、決して広くはないし、飲み物だって種類はない(そもそもメニューさえない)。何もおいしくない。食べ物もロクにない。でも大体いつも人が集まっている。
なぜだろう。これは、コア・バリュー(核となる価値)は何か、という話になるのだろうと思います。そのお店が提供している価値、そしてお客さんがそれを求めてやってくる価値は「効率良くハイレベルなセッション練習ができる」というもの。そのお店はこのコア・バリューが強力なので、ドリンクなんかに気を使う必要がない。
うちの店に人が来ないのは、テーブルがいつもベタベタしているからか。ホームページに見やすいスケジュール表がないからか。まともな食事を出していないからか。そういうことに思いを巡らせるのも大事だとは思うのですが、そもそも自分のお店のコア・バリューは何だろうと考えた時に、すぐ答えが出てこないとしたら、多分何をやってもうまく行かないのではないか。
だから、まずコア・バリューは何かを特定する。存在していないようだったら、設定してみる。そこがスタート地点。付加価値を充実させるのも大切ですが、それは中心的・核心的な価値があった上での話でしょう。
これはお店に限らず、セッション・ホストさんとか、音楽教室をやっている方にとっても集客のヒントとなる話ではないかと思います。自分は何を提供できるのか。他の人には提供できないどんな価値を自分は提供するのか。できるのか。この自覚があるかどうかは集客に大きい影響を与えるはずです。
しかしコア・バリューを明確に設定したとしても、うまく行かないケースもあるのが何とも悩ましいところです。先日倒産したギブソンがいい例でしょう。様々な記事を読んでみると、社長のヘンリー・ジャスキヴィッツ氏は、ギブソンのコア・バリューはエレキギターそのものではなく、音楽に関する包括的なライフスタイル製品の提供だ、と考えた。ギターやベースは、もはや我が社の核ではない、と考えたらしい。
その方向性は、たぶんビジネス的には大きく間違った発想ではなかったような気もします。もう誰もギターなんか真面目に練習しやしない。これからは打ち込みだ。エレクトロニクスだ。そういう時代に対応しないといけない。そういう分析と予測があり、自社のコア・バリューをギター・ベースからエレクトロニクスに重点を置いたライフスタイル製品群にシフトさせた。その流れでCakewalkとTEACとONKYOを買収した。
でも、それはうまく行かなかった。だからコア・バリューは、絶対に設定しなければならないものだとしても、それがあるからもう安心だ、という話にもならないのが面白い。うちはこういう価値を提供しているつもりだが、果たしてそれは本当に届いているのか。需要は今でもあるのか。定期的にそういう見直しが必要になるのでしょう。