このブログでは時々ジャズギターや音楽理論に関するクイズ記事を冗談半分で書いたりしているのですが(過去のクイズ一覧)、出題されている問題はいくつかの種類に分類できると思います。
- 知っていなければならないもの・知らないとまず困るであろう知識
- 知っていると便利だったりする知識
- 知らなくても全然困らないトリビア的な知識
大体その3つです。新しいクイズを出す度に「点数が低かった…」という嘆きの声を耳にするのですが、これらのクイズと演奏能力・音楽的表現スキルは全く関係がないので、落ち込む必要はまったくないと思います。
(他人にとって旨いものが自分にとっても旨いものとは限らない。常識が必ずしも自分の表現の役に立つわけでもない)
広く「ジャズギター」と呼ばれるジャンルのギター演奏をすべて極めようとすると、相当膨大な領域にまたがる知識やスキルを身に付けていく必要があるようにも見えるのですが、何を学ぶべきか、というのは、人によって必要なものがかなり違ってくると思います。
それは当たり前のことではあるのですが、音楽系スクールの「これらのカリキュラムを全て履修するように!」という教え方が、体系的な教育システムの外側にいる「非プロ志向系ギタリスト」にも伝わってしまい、ジャズギターを習得するには誰もがこれら全てを学ばなくてはならない、と思いこんでしまう、というケースが多いのではないでしょうか。
気がつくと大量の情報が雨後の筍のようにボコボコと出現しはじめます。メロディック・マイナーの転回形やシンメトリカル・スケールやアッパー・ストラクチャー・トライアドや四度堆積…そしてグフゥと血を吐き倒れ、自分が何処にいるのかを見失ってしまう。何をやりたかったか思い出せなくなる。何から手を付けたらいいのかわからなくなる。
自分にとって何が必要で、何が必要でないのか。それを考えるためのわかりやすい例の1つとして「読譜」を挙げてみたいと思います。ジャズの世界では、譜面を渡されて初見である程度演奏できないといけない、という常識があり、私が通っていたスクールでもそのためのレッスンがありました。
読譜能力が高くなると他にも良いことが増えるので、断定的には書きたくはないのですが、このスキルは将来的にプロになって初めて会うミュージシャンとライブをやったり、ウェディング会場で演奏したり、スタジオで録音したりする場合は必須ものであっても、月に1度のジャム・セッションを楽しむギタリストにとっての最優先課題と言えるでしょうか。
月に1度のジャム・セッションを楽しむギタリストには、他にもっと大事なものがあるはずです。イメージした音をイメージ通りの音色で置きたいポケットに置く練習。緩急やストーリー性のあるソロを取るための練習。メロディを展開する練習。伴奏する練習。そういう練習のほうが理論を学ぶよりもはるかに優先順位が高いはず。
ただそういう練習をより効率的に進めるために理論の勉強が役に立つことがあります。つまり理論の勉強はあくまで「音楽的目的を達成するための手段」であるという、ごく当たり前のことを忘れなければ良いのだと思います。
「楽譜が読めなければ…」とか「ハーモニック・マイナーのダイアトニック上に現れるコードの種類がすぐに浮かばない…」とか、とりあえずどうでもいいことで、それよりも指板上でDrop2コードの全転回形がいつでも確実に見えるようになることのほうが大事でしょう。
私自身、自分の表現を拡張すべく新しい方法論やコンセプトに挑戦しているうちに、時々、自分がいま何処にいるのか見失いそうになることがあります。
「ジャズっぽい」という表現はもう通用しなくなってきているかもしれませんが、「ジャズっぽい演奏をする」ことが目的なら(と、あえて書いてみます)、「音の選択」という面に限れば、大きく次の3つを本当にマスターしていればかなりのことができると思うんですね。
- メジャースケール(ドレミファソラシド)が弾ける
- ダイアトニック・コードのアルペジオを弾ける
- メロディック・マイナー・スケールを弾ける
最初はこれだけでどんなスタンダード曲でも「パレットに色が足りなくて困る」ことはそうそうないのではないか。勿論、他にいろいろあるでしょう。クロマティシズムは、ハーモニック・マイナーは、コードはどうするのとか。でも上の3つに精通していれば、または、困った時にその3つをいつも忘れないでいれば、道に迷うこともそんなにないんじゃないか。
- リディアンを弾きたい時はどうすれば良いのか…→メジャースケールをファから始めるとリディアン
- オルタードを弾きたい時はどうすれば良いのか…→半音上のメロディック・マイナーを弾けばオルタード
- m7(b5)はどうすれば良いのか…→短3度上のメロディック・マイナーを弾けばロクリアン#2
- II7で困った!→これもメジャースケールやメロディック・マイナーの応用で対応可能
- スケールをなぞるような演奏になってしまう→コードのアルペジオをおさらいしてみる
いやいやこれも基本だよ、というのもあるかもしれませんが、私個人としては、上の3つで大体カバーできるんじゃないかな、と思っています。残りは「枝葉」とは呼びたくないのですが、上の3つの外側にある「拡張的な表現手段」、ソフトウェアで言うとプラグインとかボーナスパック、みたいな位置付けと言っても良いのかなと思います。
- ブルース・スケール
- ハーモニック・マイナー・スケールの応用
- ペンタトニック・スケールとその応用
- シンメトリカル・スケール各種とその応用
- コンスタント・インターバリック・ストラクチャー
等々。勿論、ロック系のギタリストにとってはブルース・スケールやペンタトニック・スケールが基本セットで、メジャースケールやメロディック・マイナーの各種転回形のほうが「拡張キット」なのかもしれません。
あと別枠で、「歴史的な語法」みたいなものがあります。例えば、ビバップ的に間違っていないアプローチ音、経過音を使用してフレージングする、みたいなものです。これは先生になるには必要なのかもしれないけれど、誰にとっても優先度が高いテーマではないでしょう。
と、長くなりましたが、とにかくそこには大量の情報、面白い方法論、頭がこんがらかりそうな組み合わせ(パーミュテーション)があったり、楽譜が読めなければいけませんとか、いつでも相手に合わせて対旋律を弾けなければいけませんとか、行儀作法とか、いろいろな提案に遭遇すると思うのですが、大きく次の2つを意識すると現在の自分にとってのそれらの優先度がわかってくるのではないでしょうか。
- それらは自分の表現能力、メロディを奏でる力を伸ばすためにいま必要な内容なのか
- それらは自分が職業的なジャズ・ミュージシャンになるために必要なスキルなのか
これでだいぶスッキリしたりしませんか…。
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