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名店探訪(1):東京お茶の水カミノクニ楽器

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都の西北、お茶の水。音楽好きでにぎわう、楽器の街だ。

そんな街の駅前一等地で、今日も巨大な店のシャッターが開く。

店の名は「カミノクニ楽器」。

「お、いらっしゃい」

自動ドアのむこうで、店のオーナー、森さん(100)がスーツ姿で出迎えてくれた。

「実は、私は昔、政治家だったんですよ」

森氏はGibson ES-175を爪弾きながら、苦虫を噛み潰したような顔で語りだす。

「政治家の頃は夢がありましたね。自分の身内で、この国を支配する、と」

聞けば、国家元首を努めたこともあったそうだ。

失言を重ね、献金疑惑をかけられながらもなんとか政界に居残り続けた。

そんな彼に転機が訪れたのは、83歳の頃。

一時は開催すら危ぶまれていた「東京オリンピック・パラリンピック」も無事開催、大成功のうちに閉幕。

しかしその時打ち立てた数々のハコモノ施設は以後採算が取れず、マスコミに叩かれたという。

「それで、スーパーゼネコンやハコモノの世界から身を引いたんです」

遠い目をする森氏。手に持ったギブソン・レスポールがかすかに震える。

「しかしね、おかげで気づくことができたんです。スーパーゼネコンやハコモノなんかよりも大事なものがあるってね」

政界から身を引いた森さんが見つけた幸せ。それは一人でも多くの人に高価なギターを所有してもらうこと。

そう思って始めたのがこの店だという。

「私にとっては、この店もオリンピック・パラリンピックの延長なんですよ。ずっとアスリート・ファーストでやってきた。楽器は、プレイヤー・ファースト。」

スーパーゼネコンや巨大ハコモノに未練はないのか。そう尋ねた私に1本のギターを差し出しながら彼は言った。

名店探訪:東京お茶の水カミノクニ楽器

「このギター、イチオシです。うちがプロデュースした、Genecon。ゼネコン、と読みます。175タイプのハコモノですよ」

聞けば、樹齢1000年の霊験あらたかな御神木から切り出した材を用い、ナットはワシントン条約で国際取引が禁止されたはずの象牙。

「あるとこには、あるもんです。」と森氏。指板はこれ以上の黒はないと言われるほど黒い黒檀。価格は3000万円だという。本当に真っ黒ですよ、と呟く森氏。

カミノクニ楽器の高い売り上げの秘訣を尋ねた。

「入ったお客は、手ブラでは帰さない。それは徹底させています。入店したら、2人1組の若い店員にマークさせる。試奏させたら、お買上げいただくまで離さない。帰ろうとしたら入口を塞がせる。学生にはその場でローンを組ませる。そしてとにかく粗利の高いGeneconを売れ、と言い聞かせていますよ」

悩みの種は、お客の買い物に付き添ってくる恋人や配偶者だという。

「旦那さんや彼氏がこのGeneconを買おうとするのを批判する女性は、日本女性ではない。このギターはプレイヤー・ファーストでまとめた。そこへ、音楽や楽器のことをしたことのない女性の方が来て、文句を言う」

森氏は、普通は見せられないが、と前置きして、店の奥に案内してくれた。

名店探訪:東京お茶の水カミノクニ楽器

「法に触れるものもあるが、相談してくれれば何とかしますよ」

第3次世界大戦以降、滅多に見かけないヴィンテージのエレハモ・エフェクター。震える私をいたずらっぽい目で眺めながら、森氏は空間系エフェクターにGeneconギターをつないだ。

(2037年7月24日)


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